My Eyes 米大統領選2016 ⑫ 中東をめぐるたたかい

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ダニエル・ペンソ
コラムニスト/翻訳家  

 

3月に入り、スーパーチューズデーを始め予備選や党員集会で激しい戦いが繰り広げられているアメリカ大統領選。そんな最中、ブリュッセルやイスタンブールでテロが起きました。それを受けてこのコラムでも、皆さんとともにあることを振り返ってみたいと思います。

 

それは「各候補の中東への姿勢」です。

中東はある時代「文明のゆりかご」として知られ、メソポタミアやシュメール、フェニキア、アッ、古代イスラエルなど、数多くの文明を生み出しました。しかも中東はラテン文字およびアラビア文字といった表音文字や、世界三大宗教(ユダヤ教、キリスト教、)が生まれた場所です。これまでギリシャやローマ、ビザンツ(東ローマ)、十字軍、アラブ、モンゴル、オスマン、そしてが兵士や武器を送り込み、この地の支配を試みてきました。しかし結局は、現地の人々からの撃退を受ける結果に終わりました。

中東は、外の地域(特に欧米やNATO)の人々、そしてやサウジアラビアなど、イスラム世界内部から外の地域に協力する者たちにより放たれた炎に包まれています。それは何も2001年9月11日に始まったことではなく、米同時多発テロは中東に再び放たれた火のひとつにすぎません。テロに関与した19人のハイジャック犯のうち15人がサウジアラビア出身だったにも関わらず、アメリカは自国への“脅威”を与えたとしてイラクへの攻撃を決めました。サダム・フセインはアメリカの安全に危機をもたらしたとして、また独裁者であったとして処刑されました。さらにイラクには大量破壊兵器(WMD)があると伝えられ、ジョージ・W・ブッシュ氏(第43代アメリカ合衆国大統領)が、自国や同盟国への安全を確保するため、イラクに宣戦しました。

さて、世界は以前よりも安全になったでしょうか?ISIS(イスラム国)の台頭、ブリュッセルやイスタンブール、パリ、サンバナディーノ、レバノンなどでのテロ事件を見れば「安全になんかなってない!」という大合唱が聞こえてきそうです。その意見が世界の多くの人々の見方であることは、もはや言うまでもありません。そこで2016年の各候補者が、どのように中東を考えているかを比較してみたいと思います。

 

ドナルド・トランプ氏

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Photo from Wikipedia

トランプ氏はジョージ・W・ブッシュ氏に対し「イラクは嘘から生まれた戦争だ。大量破壊兵器など見つからなかった。アメリカが戦争から得たものは何もなく、5兆ドル費やして何千もの命を失っただけに終わった」と激しく非難しました。このことが、通常であれば共和党員であるブッシュ氏への非難をためらう保守系などを通じて伝えられ、衝撃を与えました。さらにトランプ氏は、ISIS掃討を目指す大統領のウラジーミル・プーチン氏やロシアと共闘したいとも述べています。

 

テッド・クルーズ氏

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Photo from Wikipedia

トランプ氏の最大のライバルであるクルーズ氏は、ブッシュ氏に対してはトランプ氏のような表現は避けたものの、シリアの独裁者と呼ばれるアサド大統領の退陣は支持しない考えを表明しています。一方でクルーズ氏はISISへの絨毯爆撃を主張、プーチン氏とは共闘しない考えを示しています。

 

元候補者たち

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(左)マルコ・ルビオ氏(右)ジェブ・ブッシュ氏 *Photos from Wikipedia

支配者層(エスタブリッシュメント)の支持を受けていると言われていたマルコ・ルビオ氏は「アメリカ新世紀プロジェクト」(アメリカ型民主主義を世界に普及させるプロジェクトと言われる)への支持を表明。従ってルビオ氏はアサド氏退陣を求めており、ISISへの攻撃も支持しています。しかしルビオ氏は、3月16日に地元フロリダ州で行われた共和党予備選挙においてトランプ氏に敗北、選挙戦からの撤退を表明しました。
ルビオ氏よりもはるか前に大統領選レースからの撤退を表明した、ジョージ・W・ブッシュ氏の弟であるジェブ・ブッシュ氏は、プーチン氏との共闘は行わず、アサド氏退陣を求める立場を表明していました。

 

ヒラリー・クリントン氏

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Photo from Wikipedia

続いて民主党。エスタブリッシュ層が支持するクリントン氏は、化学兵器でシリア国民を大量虐殺しているアサド氏は退陣すべきだと主張。しかしこれは真実でないと言われています [1]。

 

バーニー・サンダース氏

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Photo from Wikipedia

クリントン氏のライバルであるサンダース氏は、中東で起きているいかなる戦争も、作戦を指揮する現地トップとの戦いであるべきだと主張。トランプ氏の意見と同じくサンダース氏はリビアのカダフィ、イラクのフセイン、シリアのアサドを倒しても、地域に安定はもたらされないと言っています。

まとめますと、共和党のルビオ氏やブッシュ氏、そして民主党のクリントン氏の中東政策案は大筋で同じです。

 

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Photo from Wikipedia

さらには現役の大統領であるバラク・オバマ氏。オバマ氏が2009年、自身の「核なき世界」に向けた国際社会への働きかけに対しノーベル平和賞が授与されたことを考えると、オバマ氏の任期最後の年となる2016年に、中東で今も起きている紛争に対して未だに深く関与していることは、かなり驚きなのではないでしょうか・・・

 

[1] www.washingtonsblog.com/2015/12/syrian-chemical-weapons-attack-false-flag-turkey-isis.html

 

ダニエル・ペンソ

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米オレゴン州在住の日英翻訳家。1999年〜2009年の約10年間住んでいた東京を”第2の故郷”と呼ぶ。趣味は旅行、語学、食。日本への旅行時にはを楽しむ。
*ダニエル氏の詳細は以下のページをご覧下さい。 
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*ダニエル氏の意見は、My Eyes Tokyoとは関係ありません。

 

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