【寄稿】アメリカ人落語パフォーマー 花伝亭らぶめーたーさん インタビュー

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ショーン・ディヘヴン
演芸研究家・パフォーマー/オンラインメディア「It’s Funny in Japanese」運営者

 

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今回のインタビューのお相手は、「落語国際大会IN千葉」というイベントに私と共に参戦した、超絶才能あふれるアマチュア落語家です。外国人として日本の演芸、特に落語に親しむ彼の物の見方は、きっと面白く、学ぶことも多いのではないかと思いました。とても楽しかった彼とのインタビュー、皆さんも同じように楽しんでいただければ嬉しいです。

*英語版はこちらから!

 

日本語との出会いで思わぬ方向へ

ショーン:自己紹介をお願いします。

らぶめーたー:ニラブ・メーターと申します。花伝亭らぶめーたーとして活動しています。私が日本に最初に来たのは、全くの偶然でした。アメリカの大学に通っていた時、特に深く考えることなく日本語を履修しました。でも、それがすごく楽しかったんです。その当時、私は物理学を専攻していたのですが、もうやりたくないと思っていました。そこで私は、東アジア研究に転向することにしたのです。だから日本との最初の出会いはアメリカの大学です。私は大学在籍中ずっと日本語の勉強に没頭し、卒業後は培った日本語能力を生かして「JETプログラム」(外国語青年招致事業)に応募して1年ちょっと日本に滞在しました。その後アメリカに戻りましたが、日本語能力があるという以外に、特に何もありませんでした。そこで私は法律学校に行き、ニューヨークで数年間仕事をしました。それほど楽しいとは言えない仕事でしたが、学ぶことはありました・・・とだけ言っておきましょう。やがて仕事にも飽きてきた頃、日本に戻りたくなりました。そしてありがたいことに、日本で仕事を見つけることができました。それが3年前のことです。それ以来、私は一度もアメリカに戻ろうと思ったことはありません。

ショーン:入管の人たちは、まだあなたの存在に気づいていないでしょう?(笑)

らぶめーたー:そうですね(笑)私はこの秋にもビザを更新しますが、配偶者ビザへの切り替えを考えています。今年結婚しましたからね。

ショーン:(拍手)そうなんですね!それは知らなかった!

らぶめーたー:ありがとうございます(笑)今年結婚したので、多分配偶者ビザに切り替えると思います。私たち夫婦は写真を撮るのですが、それは私たちが本当の夫婦であることを証明するためです。必ずやらなければいけないそうです。

ショーン:それは面白いですね。私も同じでしたよ。さらに相方には論文の提出が課されますよね。2人の馴れ初めとか、そういうことを書かなくてはならないという・・・

らぶめーたー:そうですね。奥さんはそんなことなど全然望んでいなかったから、私に結婚をもう一度見直すよう頼んできましたよ(笑)

ショーン:奥さんは入管にこう言うのではないでしょうか。「彼は私に全額支払って・・・」

らぶめーたー:(笑)

 

落語との出会い

ショーン:落語に出会ったのは、アメリカですか、日本ですか?

らぶめーたー:アメリカの大学です。大学4年の日本語コースの一環として、私は日本の演劇や舞台芸術の単位を取りました。それで能の研究で名高いコロンビア大学に行ったのですが、ご存知のように能はすごく退屈で(笑)面白くありませんでした。歌舞伎は能よりは楽しかったけど、でも好きになるほどではありませんでした。

ショーン:同感です。「能」は「能サンキュー(ノー・サンキュー)」の略だと聞いたことがあります(笑)

らぶめーたー:そうですね(笑)それ以外に人形浄瑠璃もありましたが、最終的には落語についての短期講座を受けました。いや、講座とすら呼べないかも。落語のビデオを5分間見ただけでしたから(笑)でもそれがすごく良かったのです。どの落語家さんだったか覚えていませんが、何となく桂枝雀だったような気もします。でもはっきりとは覚えていません。

ショーン:それは日本語でしたか?

らぶめーたー:ええ、そうです。日本語クラスの一環でしたからね。でも、すごく楽しかったことを覚えています。ただ同時に奇妙な感じがしたのも確かです。一人の男が座布団の上に座り、一人で物語を話しているわけですから。でも、それも含めて楽しかった。落語と出会ってから、私はJETプログラムに参加して日本に行きました。赴任したのは佐賀県です。残念ながら、佐賀には落語を楽しめる環境がそれほどありませんでした。

ショーン:落語だけじゃなく、佐賀にはそれ以外の機会もあまりないでしょう。

らぶめーたー:そう、その通りです。本当に何もない。だから住むには最高の場所です。現役を退いた後は、佐賀に行きたい・・・かな?あ、うん、佐賀が良い(笑)それ以上の言葉はありません。

ショーン:もしかして「人生を終える最高の場所」と言おうとしませんでした?(笑)

らぶめーたー:あ・・・

ショーン:大丈夫です。佐賀県の観光課は絶対にこのサイトを見ていませんから(笑)

らぶめーたー:(笑)佐賀にいた間も時々東京には来ていて、何回目かの東京旅行の時に「落語を見に行こう!」と思い立ちました。それで浅草演芸ホールに行きました。そこが私が本物の落語に出会った場所です。

ショーン:落語との出会いにすごく相応しい場所ですね。

らぶめーたー:でも、実は少しがっかりしたんです。私が行ったその日は、三遊亭小遊三師匠が結成したデキシーバンド「にゅうおいらんず」が演奏をする日。つまり大トリは落語をしなかったんです。だから少し残念でしたが、それでも楽しめました。それから東京に来るたびに、主に落語を見るために浅草に行きました。それからアメリカに戻り、ニューヨークに住んでいた時、再び日本に帰ろうと思いました。私は「よし、日本に戻ったら、思い切り日本的なことをやってやろう」と思いました。「待てよ、落語講座って日本にあるのかな?」。それが3年前のことで、以来全くアメリカに帰ろうなどと考えたことはありません。

ショーン:なぜあなたは能に行かなかったのでしょう・・・まあ、どうでもいいですけど(笑)

らぶめーたー:そこでたっぷり睡眠を取りましたから(笑)

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観客を沸かせるらぶめーたーさん
撮影:Akina Mehtaさん

 

落語の魅力&落語家として挑戦すべきこと

ショーン:らぶめーたーさんは、落語のどんなところに惹かれたのでしょうか?

らぶめーたー:そうですね。正直に言えば、日本語を勉強すれば理解できる、そう思えるのが落語の魅力だと思います。日本語が私にとってすごく楽しい。それが日本語への入り口でした。日本語の言葉遊びも楽しいですし、面白いことを言うためだけでなく、物語を伝えるためにも日本語でのコミュニケーション能力は持っておいたほうが良いと思います。

ショーン:そうですね。それに落語で話される日本語は、学校で習うようなものとは違いますよね。普段の生活では使わない言葉です。しかも今は存在しない昔のものも多く登場しますしね。

らぶめーたー:そう、その通り。全くその通りです。落語をやったり見たりするうちに、古く、時に今はもう存在しないものを、いかに説明して人々に理解させるか、やがて気づくようになりました。落語に触れ始めた頃は理解できなくて気づかなかったんですけどね。本当に素晴らしい技術です。それが落語の魅力かな。もちろんそれぞれの噺が面白いのですが、それ以上のものがありますね。落語を演る人の多くは、噺の登場人物になりきるものですが、本当にすごい落語家だと、その人のキャラが噺の中に出てくるんです。例えば有名な「時そば」という噺。同じ内容でも、演じる落語家さんによって全く違ってきます。そのようなことは、欧米の演劇や舞台などでは普通はあり得ません。落語を演劇と呼ぶべきかどうかは分かりませんが、海外では滅多に見られるものではありません。一番近いものを例に上げるなら、そして実際よりもちょっと知的に言うならば(笑)、ジャズのスタンダードナンバーが一番近いかもしれません。私はそう理解しています。私は音楽の才能が全くありませんし、どんなに頑張ってもジャズを演奏できるわけではありませんが、奏でられる音はある程度決められているものの、その約束事を守ればあとは自由ですよ、というジャズの本質に似ていると思います。

ショーン:重要な部分さえ押さえていればね。

らぶめーたー:そうです。それがすっごく面白いと思ったんです。人はいつも私に聞いてきます。「らぶめーたーさんは、オリジナルの噺を作るんですか?」と。本当のことを言えば作ったし、今でも挑戦しています。

ショーン:つまり「時そば」はあなたのオリジナル作品では無い、と?(「時そば」は古典落語の中でも定番の噺です)

らぶめーたー:そうなんです。意外に思われるかもしれませんが、私の作品では無いのです。

ショーン:何だか騙された気分(笑)

らぶめーたー:だって「時そば」が作られたのは2006年より前でしょう?私がようやく十分な日本語能力を身につけた頃ですよ(笑) *「時そば」が生まれたのは1726年。
でも、それが落語の面白さなんですよね。そしてもうひとつの落語の魅力は、これは後で気づいたことですが、落語ファンの人たちと一緒にいることです。私は他の外国人と比べたら、そのほとんどよりも落語のことを知っているつもりです。でも日本人の熱狂的落語ファンの基準で測ったら、私はとっても・・・(*手で”低い”のジェスチャー)

ショーン:ポケモンGOで言えば、コンバットポイントは・・・

らぶめーたー:5ですね!(笑)

ショーン:ポケモンGOに喩えて聞いてみたかったんです。詳しいんですよ(笑)最近は子供たちがハマっていますよね。

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らぶめーたーさん(右端)とアマチュア落語家たち@落語国際大会IN千葉2015
撮影:Chiakiさん

 

落語愛好家たちの輪の中へ

ショーン:落語愛好家の人たちについても聞いてみたかったんです。彼らのことをどう思いますか?

らぶめーたー:とっても素晴らしいと思います。

ショーン:アマチュア落語家の人たちについては、どうですか?

らぶめーたー:なるほど、アマチュア落語家さん・・・落語ファンと言っても差し支え無い人たちは、大体がとっても面白い人たちです。しかも彼らは落語という芸術スタイルに精通しています。私はこれが最も正確な例だと考えていますが、日本語の”趣味”と英語の”hobby”の違いと同じです。誰かが趣味をhobbyと英訳したのだと思いますが、適訳だとは思えません。Hobbyは趣味よりもはるかに専門知識や技術を必要とするもの。もしあることを趣味と呼ぶとしたら、それは暇な時間にやることです。落語ファンは全員、趣味ではなくhobbyの人たちです。私は何かに夢中になっている人たちの話を聞くのが好きで、あなたはご存知だと思いますが、酔った勢いで一つの話題についていつまでも話している中高年の日本人男性と一緒にいるのが、私は好きなんです(笑)

ショーン:え、本当に?

らぶめーたー:思った通りのリアクションですね(笑)多分、こんなことを話したら驚くだろうと思っていました。(本当は違うんですけど)でも実際にやってみて、とっても楽しかったですね。落語ファンの人たちといるのは楽しいですが、一方でアマチュア落語家 – もっと良い言い方があるかもしれませんね。Word player(言葉遊びが上手な人)かな?あまり好きではない英訳ですね。

ショーン:Storyteller(語り部)でしょうか?

らぶめーたー:Rakugo storyteller(落語の語り部)とか?

ショーン:あ、それ良いかも!

らぶめーたー:それはさておき、アマチュア落語家さんたちは素晴らしい。すごく楽しい人たちだし、彼らと一緒の空間は居心地が良いです。彼らはライバル同士とも言えますが、実際は全員が全員そうではありません。お互いがしのぎを削り合うのは、それが楽しいからですね。誰かが競争に勝ってプロに転向するなどということは無いと思います。

ショーン:いやあ、無いでしょう。

らぶめーたー:だから重圧感が無いんですよね。落語トーナメントと言っても、それほどの競争は感じません。もちろん彼らは勝ちたいと思っています。でも一方で、彼らが私を受け入れてくれているのを感じました。人は教えたがるものだし、意見を言いたがるもの。私は落語を通じてたくさんの友人を作りました。その人たちと一緒にいることは、私にとって最高の時間です。

ショーン:あと、話の面白さをジャッジするのは難しいですよね。

らぶめーたー:そうですね。こう言う人たちがたくさんいるんじゃないかと思っているんです。「らぶめーたーさん、フェアじゃないよ〜だってあなたは見た目からしてすでに面白いんだから!」(笑)それについては特に論じる必要はないわけで、それはそれで良いかな(笑)

ショーン:私は何も言いませんよ(笑)

らぶめーたー:(笑)確かに。これは、それぞれが演じる落語がいかに違うかを示す、ほんの一例に過ぎませんが。

ショーン:あなたは天から授けられた武器を使っているんですよ。

らぶめーたー:その通り。こういう喩えはしたくありませんが、あなたが軍に入って戦場に行くなら・・・

ショーン:ラムズフェルドに感謝!(笑)

らぶめーたー:(笑)それは置いておいて、一つの話題を話したり楽しんだりするために集まって、全員が同じ方向を向いているグループというのは、経験したことがありませんでした。

ショーン:彼らは”プロのアマチュア”と言えるのではないでしょうか?

らぶめーたー:なるほど、それは的を射た表現ですね。

ショーン:プロとアマチュアという相反する言葉を並べるのは変だと思いますが・・・お金を目的としない部分はアマチュア、でも毎月違う場所に行って演じるのはプロそのものだと思います。

らぶめーたー:私の知り合いで、毎週末ではなかったと思いますが、ほぼ2週間おきに公演している人がいます。

ショーン:きっと凄腕の人でしょう?

らぶめーたー:そう思いますよね。こう言う人たちは、最高に素敵です。

ショーン:年に1回の公演で、なぜ上手にならないのか不思議だ・・・

らぶめーたー:(笑)なんで誰もあなたに演ってほしくないのか分からない。冗談ですよ!(笑)でもこう言う人たちにとっては、演じることが彼らにとって最大のアイデンティティの証明なんです。彼らは確かにアマチュアだけど、それは言葉の上でアマチュアなだけ。彼らは落語に真剣に取り組んでいるし、落語の世界にどっぷりとはまっています。

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「らぶめーたーさん、フェアじゃないよ〜だってあなたは見た目からしてすでに面白いんだから!」
撮影:Akina Mehtaさん

 

名前のこと

ショーン:誰かが高座名を付けてくれたのですか?

らぶめーたー:そうです。私の本名はNirav Mehtaと言いますが、カタカナで書くとニラブ・メーター。そこから”ニ”を取るとラブ(Loveをカタカナではこのように表記します)で、それにメーターを付けた。それが私の高座名の起源です。

ショーン:それは深いですね・・・

らぶめーたー:でもこれより前に、もう一つ候補があったんです。

ショーン:本当ですか?

らぶめーたー:最初の候補は”ケバブ”でした。

ショーン:それ、好きです!(笑)

らぶめーたー:私はトルコ人ではないですが、日本人にとってはどちらも同じに見えるようです。

ショーン:(笑)それ、マクラで使えますよ。

らぶめーたー:それに私は焼き鳥が大好き。焼き鳥もケバブも、どちらも串に刺した肉ですよね。だからいいかなと思いました。Kebabを”けばぶ”とひらがなで書くと面白いかな、とも思いましたしね。それに日本にいると、自分の毛深さがちょっとコンプレックスに思えてくるので、私のキャラの中に”けばぶ”の”け”を含めておくのも良いかな、と思いました(日本語でhairのことを”け(毛)”と言います)。

ショーン:でも花伝亭のお師匠さんはどう思うかな・・・

らぶめーたー:そう、だから師匠は「気持ち悪いから、却下!」と。

ショーン:(笑)

らぶめーたー:その日から師匠は「ああ気持ち悪い。そんなことしたくないね」と言うようになりました。

ショーン:お師匠さんからそんな言葉、そんなに聞けるものではないですよ!(笑)

らぶめーたー:それで師匠は私に「本名は何て言うの?」とおっしゃいました。その名前を基にして決めましょう、と。それで先ほど話したような感じで”らぶめーたー”が生まれたんです。

ショーン:これでもしあなたが「僕の名前はハリーです」と言えば、どうなっていたか。
*訳者注:”Harry”と”Hairy”(毛深い)をかけたジョークです。

らぶめーたー:(笑)

ショーン:笑ってくれてありがとう(笑)これで演芸場でのレギュラー出演決定!(笑)でも私は”けばぶ”はかわいらしい響きがして好きです。

らぶめーたー:いつかプロになったらその名前に・・・

ショーン:それって、不安定な法律の仕事を決して辞めないってこと?

らぶめーたー:落語で今以上にお金が稼げればいいですね(笑)

ショーン:ケバブを売るんですよ!新宿や上野のアメ横にいるような「ちょっと、そこの可愛い女の子、ケバブはいかが?」(すみません、全てのトルコ人がこのような感じではないですよ)。

らぶめーたー:私の職場は六本木なので、いつも彼らの横を通り過ぎます。そしてしばらくして・・・

ショーン:彼らはあなたを仲間だと思った(笑)

らぶめーたー:彼らも私のことをトルコ人だと思ったみたいで、私がうってつけのお客さんだと、しばらくの間思っていたようです(笑)

ショーン:あなたのルーツは何ですか?

らぶめーたー:私はインド系アメリカ人です。

ショーン:なるほど、インド系なんですね。

らぶめーたー:でも日本人には誰もトルコ人とインド人の違いが分からない(笑)

ショーン:でも肌の色からしたら、日本人がそのような誤解をするのも分かりますね。

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落語を演じるけばぶ、もとい、らぶめーたーさん
撮影:Akina Mehtaさん

 

プロから受けた影響

ショーン:好きな落語家はいますか?

らぶめーたー:そうですね、たくさんいます。私が落語に接するのは専ら寄席です。浅草演芸ホールや新宿末廣亭に行って、短い時間に立て続けにいろんな人の落語を見ます。正直言えば、私がかつてよく参考にさせていただいていたのは、古今亭志ん朝師匠(”師匠”とは、技術を極めた人に授けられる栄誉ある称号のこと)です。志ん朝師匠は言葉を他の落語家さんよりもハッキリと発音するので、私のような外国人にとっては特に親しみを感じる存在です。

ショーン:文字起こしをするときは特にありがたいですね。

らぶめーたー:その通りです。特に五代目柳家小さんと比べると、それは明らかです。英語で何と言えば良いのか分かりませんが、そう言うしかないかと。五代目柳家小さん(注:一部の落語家は、師匠の高座名を受け継ぐため、そのような人の名前の前には”◯代目”と付きます)は大変素晴らしい落語家ですが、もし私があなたに「小さん師匠の言った言葉は全て分かったよ」と言ったら、私は完全に嘘をついていることになります(笑)しかもすぐバレるような嘘ですね。現役で活躍している落語家で言えば、浅草演芸ホールで春風亭昇太師匠が演じた「時そば」ほど笑ったものはありません。素晴らしかったです。「時そば」の昇太バージョンは最高です。あと、三遊亭小遊三師匠も大好きです。現在私が共に仕事をさせていただいている、私の落語の先生は、小遊三師匠の弟子にあたります。彼は三遊亭遊馬という真打(落語家の最高位)で、彼の酔っ払いやうつけ者、他の笑えるキャラクターなどの演じ方は、私と少しだけかぶるところがあります。先生が演じるのを見るのは本当に楽しいです。

ショーン:落語はそういうキャラクターであふれていますよね。

 

予想しなかった壁

ショーン:落語を演じる上で、難しいと思ったことは何ですか?言葉の問題以外に、何かありますか?

らぶめーたー:一番厄介なのが、15分間正座しなければならないことです!(正座とは、足を折りたたみ、結果として体重が下腿部にかかるような座り方)

ショーン:2メートル近い大男にとっては、もはや言わずもがなの事実(笑)

らぶめーたー:私は時々思うんです。「もしかしたら正座が、日本人の身体的成長を止めているのではないか」と。それにしても、正座は難しい。あとは、ある意味簡潔で、疑わしく、面白い・・・そんなことを、噺の難しさというものを知らない人にも理解できるように伝えることですね。落語通の人たちなら、ストーリーがどのように展開していくか分かります。彼らは本当に熟知していますから、誰もストーリーを教える必要はありません。でも落語を演っていて本当に面白いのは、噺のストーリー展開を知らない人の前で演る時です。例えば「時そば」を初めて聞いた人と、すでに20回聞いている人とでは、反応が違います。それは私の場合、言語の問題かもしれないし、文化的な問題かもしれないし、コミュニケーション能力の問題かもしれません。初めてその噺を聞く人の前で演じるのは難しいですが、でも最高にやり甲斐を感じる瞬間でもあります。私が思うよりももっと素晴らしい瞬間です。私は俳優ではないし、舞台に上がったこともありませんでしたので、演技力とまでは言いませんが、それに近いものと関係しているように思います。表現能力やコミュニケーション能力でしょうね。多分、俳優さんにも共通するものだと思います。それが私の課題だったし、それゆえにやり甲斐を持ってそれらを体得しようとしている感じです。

 

将来について

ショーン:将来の目標は何ですか?

らぶめーたー:先にも話したように、あまり周りに対する競争心を持たないようにしようと思っています。でも予選や決勝というものがある落語大会では、ちょっと大げさに演じたりします。決勝で、大勢のお客さんの前で演じるのは本当に楽しいです。私は日本語で25年間落語を演っている人に勝とうなどと思うほど図々しくはありませんが、でも大勢の前で演じる機会、そしてその機会を与えられるだけの能力を自分が持っていると感じる瞬間は、めちゃくちゃエキサイティングだし、一方でめちゃくちゃ謙虚にもなる。それがすごく楽しいです。ずっとそういう体験をしていたいですね。日本にどれだけ長く住むのか100%は分かりませんが、そういう機会を存分に活用できればと思っています。

ショーン:英語で落語を演ったことはありますか?

らぶめーたー:小噺(短いストーリーで、大抵は噺の前に演じられる)でやったくらいです。短いジョークを英語で。自分の母語で何かを覚えるというのが、こんなにも簡単なのかと驚きましたよ。

ショーン:それ、教えて下さい!もし英語で落語を演る時があれば、私は演目を3つ用意して参加しますから。1つだけじゃなくて(笑)

らぶめーたー:(笑)まだそういう場は知らないですね。自分で開くしかないかもしれません。でも英語に翻訳された落語で、英語のネイティブが演じて面白そうだと思うのは、あんまり見当たらないです。日本人が英語で演じるなら問題なさそうなものはありますけどね。日本語を母語としない者として、もともとの日本語には無い言葉を英語にして盛り込み、その代わりにたくさん日本語をそぎ落として英語落語にするとか、そういうのが得意な人なら面白い噺を作れるかもしれませんが、反感を買う可能性もあります。まだ英語で書かれた素晴らしい噺を見たことがありませんが、私がそれに挑戦してみたいですね。日本には、英語だけで落語を演る人たちがいます。それも日本人です。英語落語をするグループがあって、それも結構大きいんです。「大きい」というのは正しい表現か分かりませんが、とにかくそういう人たちが集まるグループがあります。彼らは面白く演じたいと思っている人たちですから、私もその輪の中に加わらせていただけたらと思いますね。

ショーン:もし彼らが退屈な人たちだったら、そんなに面白くはないでしょうね。

らぶめーたー:確かに。

ショーン:アメリカで落語を演ることを考えたことはありますか?

らぶめーたー:考えますよ。ただ、前に言ったことと関係するから、躊躇してしまうんですけどね。英語落語で、英語ネイティブにとって本当にウケそうだと思う噺が見当たらないですから。

ショーン:なるほど、でも私は海外で演っている落語家を知っています。英語で演る人もいれば、外国語字幕付きで日本語で演る人たちもいます。

らぶめーたー:それは見たことがありませんでした。そういうものをプロデュースしている人が友達にいて、私も誘われたのですが、彼らの公演がだいたい火曜日なんです。だから行けないんですよね。とっても面白そうなだけに、残念です。

ショーン:コロンビア大学なら両手を挙げてあなたを歓迎すると思いますよ。「ぜひ演ってくれ」ってね(笑)

らぶめーたー:いつかアメリカ時代の日本語の先生に連絡を取って、アメリカで私に落語を演らせてほしいとお願いしてみようと思います。

ショーン:ミドルベリー大学など、彼らの母校に戻って公演したり、教鞭を取ったりしている人を何人か知っています。ちなみに、何か宣伝したい活動や公演はありますか?

らぶめーたー:10月に1つあります。それもこのインタビューで議論した英語落語ですが(笑)10月22日(土)に「全米落語交流プログラム」またの名を「日米交流会」というアマチュア落語家グループと一緒に公演します。そのグループには私以外に5人の日本人アマチュア落語家がいて、私が日本語で演り、彼らは英語で演ります。去年も1回演りました。その時、私は英語で少し小噺をしてみたのですが、結構ウケました。お客さんも年季の入った人たちでしたから。また演りたいとは思いますが、でも、英語で演るのは次に回します。(イベントの会場や詳しい日時については後ほどお知らせします)

ショーン:今日はインタビューさせていただき、ありがとうございました。とっても楽しかったです。

らぶめーたー:こちらこそです。そうおっしゃっていただけて光栄です。

「It’s Funny in Japanese」に2016年8月15日掲載

 

ショーン・ディヘヴン
漫才・落語研究家および指導者、そして時々パフォーマー。「漫才で活躍する女性」というテーマで修士論文を発表。彼のウェブサイト「It’s Funny in Japanese」では、演芸界で活躍する人たちとのインタビューや、漫才・落語の予備知識、日本の演芸について思うことなど掲載。彼の2人の子供(いずれも2歳未満!)から許しを得てから、演芸界で活躍する人たちにインタビューする(笑)

 

日本語訳:徳橋功(My Eyes Tokyo主宰)

 

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