日出ずる国への伝言 Part3 正宗エリザベスさん(オーストラリア)

取材:徳橋功
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Elizabeth Masamune
株式会社@・アソシエイツ・ジャパン代表取締役

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約3年ぶりの掲載となるシリーズ「日出ずる国への伝言」。閉塞感漂う今のニッポンを元気にするためのヒントが詰まった、ちょっと辛口だけど愛情のこもったアドバイス満載のコーナーです。今回は元オーストラリア政府外交官で起業家の正宗エリザベスさんのご講演のもようをお送りします。

エリザベスさんはオーストラリア政府を代表する外交官として日本、イン ドネシア、ベトナム、韓国に駐在し、オーストラリア企業のアジア進出の最前線で活躍。25年にわたりアジアでキャリアを積み、2015年に生活拠点を日本 へ移しました。現在は株式会社@アジア・アソシエイツ・ジャパンの代表として、働く女性の意識改革、グローバル人材の育成、異国のビジネス文化理解とアジア進出など、多岐に渡るコンサルティング業務を行っています。

そんなエリザベスさんが、“働く女性を応援するイベント&コミュニティ”として30代の女性2人により設立されたばかりの「Women’s Dialogue」の第1回目の講演会のスピーカーとして登壇しました。「現状を改善し、前に進んで行こうと頑張る女性たちを応援したい」という気持ちでご講演に臨まれたエリザベスさん。アジアを駆けめぐるキャリアウーマンとして、また一人の妻として培った豊富な経験をもとに“自分に制限をつけない生き方”について語りました。

*講演@Women’s Dialogue
「自分に制限をつけず、もっと広い視点で考えてみよう」
(2016年8月24日)

*エリザベスさんによるご講演を、内容を要約させていただきご紹介いたします。

 

 

自分を磨くために必要なこと

ここにいる皆さんは「自分らしい生き方をしたい」「自分の道を歩みたい」と一生懸命考えていらっしゃると思います。皆さんがそれぞれ異なる人生経験を持っていると思いますが、私が一人の女性として、また世界各地を駐在して回ったキャリアウーマンとして、そして日本人の妻として経験してきたことに基づき、これまで犯してきたミスや、それらを通じて学んできた教訓などについてお話したいと思います。

自分を磨くために必要なことは2つあると思います。1つは「己を知ること」、もう一つは「相手の立場に立って考えること」です。

「己を知る」ことは自分と向き合うことですが、自分の悪いところだけでなく良いところまで考えた上で自分を愛するということは、非常に難しいことです。自分のどこが足りないのか、例えば「もっと綺麗になりたい」「もっと痩せたい」「もっと良い妻になりたい」「もっと良い母親になりたい」「もっと仕事ができるようになりたい」・・・「世間に認められたい」というのは誰にでもある願望です。特に20〜30代というのは、人生設計の上でも本当に不安な時期だと思います。精神的なストレスが溜まらないようにするためにも「自分と向き合うこと」が重要なのです。自分の気持ちを取り出して、その裏側にあるものを客観的に考えることは、非常に難しいこと。でもそれができれば、自信にもつながります。己を知る上で「生きる意識を高める」必要があると思います。

 

今を生きる

皆さん、毎日を大切に生きていますか?今の瞬間を生きていますか?

私はひどい心配性ですが、そんな自分に言い聞かせる言葉があります。私は昨日も明日も生きていません。私たちには“今”を生きるしかない。私たちの人生は、今を生きる瞬間を積み重ねたものです。明日のことばかり心配していたら、あるいは昨日のことばかり後悔していたら、目の前にある素晴らしいことや美しいことに気づかず、生きることさえ忘れてしまうことにもなりかねません。ぜひ「今を生きる」ことを自分に言い聞かせてください。

 

歩み寄り精神

皆さんにお伝えしたい重要なことがあります。それは「歩み寄り」という言葉です。歩み寄り精神というのは、私たちが自分と向き合う時にも、他の人と向き合う時にも絶対に忘れてはならない重要なメッセージです。

歩み寄りというのは、ただの妥協ではありません。これは本当の意味での相互理解を深めるプロセスから生まれてくるものです。歩み寄り精神さえあれば、例えば職場では男性と女性との相互理解のギャップ、あるいは企業と個人との立場の違い、働く女性と働かない女性の間での人生設計の違い、様々なすれ違いから生じるコミュニケーション問題を克服することが出来ます。ライフスキルとして歩み寄り精神は不可欠であり、判断力や決断力を身につける上でも非常に重要なスキルとして紹介させていただきたいと思います。

世の中は、白や黒ではありません。グレーの部分が非常に多いです。グレーの部分の中で、一方的に相手に歩み寄りを求めるよりは、自分から一歩前に出て相手の立場を理解することが重要であり、そうすることでお互いの着地点が変わってきます。言うのは簡単ですが、日々自分が置かれる状況や、難しい問題に直面した時には、歩み寄り精神を結構忘れやすくなるものです。

 

真のリーダーシップとは?

グローバル化が進む現代において、リーダーシップというのは会社の中だけではなく、地域社会や家庭の中でも発揮する必要があります。組織や社会において、自分のコントロールが効かない状況が出てきます。企業文化や政策、家庭の事情、差別、周りの人の考え方など、様々な問題がありますが、唯一自分がコントロールできるものがあります。それは自分のマインドセットです。

私は高校時代、とても心配性でした。ある日、そんな私に父からのプレゼントが届きました。それは、ある言葉が刻まれた置物でした。その言葉は聖書から引用したものではありますが、「実際に心にある考えが、その人となりになる(As a man thinketh, so is he.)」というものでした。父が私に教えようとしていたのは「多くの問題は頭の中にしか存在しない。あなたは大きな問題を自分の頭の中だけで作っていて、もしそのように考えなければ存在しなかったような問題が実際に生じてしまうのだ」ということだったのです。

私は大学受験や学校の試験では、毎回とても良い点を取っていましたが、次の試験に対しては「ひょっとしたら合格しないのではないか?」などと、完璧を目指しながらも次の試験に対して一度も起こったことがない、実績から考えれば生じる確率が非常に低い問題ばかりを恐れるタイプでした。

リーダーになる上で最も重要なのは、自分の精神状態です。リーダーを目指していく精神力が身についているかどうか。問題にぶつかった時にどのように対応していくのか。これらが良いリーダーとそうではないリーダーの分かれ目になると思います。

 

なぜリーダーになるのか?

女性は“自分の仕事に意義を感じるからリーダーを目指す”という傾向にあることが、世界的に証明されています。一般論となりますが、多くの男性が野心を持って上に行きたいと思う一方、女性は意義を感じてから上に行きたいと考える傾向にあることが証明されています。

今の日本では、若い女性たちはリーダーになることに消極的です。その要因はおそらく責任を負うことへの不安や、リーダーになることへの恐れを抱えていることだと思います。でも実は、そんなことはありません。「今までできなかったことが、リーダーになることで実現可能になることは、何ですか?」と、皆さんに是非考えて頂きたいのです。

リーダーになると、パワーも増えます。リーダーになれば、自分の考えている様々なことが実施できます。自分の中にあるパッションとつながっているような意義を見つけることさえできれば、それがリーダーへの熱意を支える要素となるのではないかと思います。

私は大学を卒業した頃「これから一生働くんだ」とは思っていましたが、特に外交官になるとか、特別なリーダーになるのだ、とは思っていませんでした。それにもかかわらず、いろいろな道が自然と開かれていきました。それは父がノリタケという名古屋の陶器メーカーに勤めていたのが大きく作用したのだと思います。

そのおかげで、私が生まれる前から私の家族は日本と縁がありました。それで私は、自分とは違う文化背景を持つ人たちとコミュニケーションを取ることに非常に興味を覚え、外国語を学びました。それが同時通訳のプロや外交官という道につながったのです。

 

コントロールできるものは存在しない

私も最初は皆さんと同じでした。学校を卒業して就職した組織では、目の前の仕事に一生懸命取り組み、新しい経験とスキルを身につけ、仕事を完璧にこなすことで精一杯でした。

そんな可能性に満ちた日々でしたが、誰でも実績を出せば、人が声をかけてくるようになります。「あなたは非常に良い仕事をしましたね。この際、昇進して◯◯になってみませんか?」と上にあがるチャンスも回って来ます。

殆どの人は、Changeを好みません。未知の世界よりも、自分がコントロールできる世界の方が良いわけです。でも実は、完全にコントロールが効くものというのは、世の中には存在しないのです。

「常に上を目指す」ことを、私はお勧めします。「上に行ったら何ができるか」を考える、ということです。

先ほど「リーダーシップには精神的な要素が非常に重要だ」と言いましたが、私は主人から様々な精神的教訓をたくさん得ました。彼が教えてくれたことと、私が経験を通して身につけてきたことから、リーダーシップを発揮するために重要な5つのことをお伝えしたいと思います。

 

高いハードルを設けない

女性は非常に真面目なので、新しいチャレンジをしようとする時に「これはやったことがないから、できるかどうか分からない」と考えてしまう傾向があります。反対に男性は、やったことがないにも関わらず「出来ます」と言う人が多い。考え方が全然違います。でも実際は、誰でもこれまでやったことがないことに挑戦する時、これまでの経験や、それらを通じて身につけたスキルを活かして、試行錯誤しながら前に進んでいくものです。

しかし真面目な女性は「ゼロから完璧に仕上げなくてはいけない」と考えがちです。私もそうでした。しかし、やったことがないことに関しては“ゼロから完璧に”などとは誰も期待していないのです。それにも関わらず、自分で自分に高いハードルを課している。それを認識した方が良いと思います。

私は日本に10年間駐在したあと、インドネシアに駐在員として赴任することになりました。それは日・豪・インドネシアの間で三角ビジネスをするという斬新なプロジェクトに関わるように命じられたためですが、私は敢えて勇気を持って赴任に踏み切りました。

私が自信を身につけたのは、その経験を経た後です。斬新なプロジェクトで実績を得て、オーストラリアから勲章までいただいたのですが、それはさておき、全く知らないインドネシアという国で仕事が出来て、実績も出したということが自信につながりました。そして「ベトナムの所長になりませんか」という話が来たときは、それを受け入れるだけの自信が付いていました。

 

自己宣伝は大事!

女性は自己宣伝が嫌いですね。「私はこれをやった!」と、なぜみんなに言わないのでしょうか?逆に男性には、「自分はこれだけやりました」とみんなに言い回り、中には実績が無いのに昇進する人もいます。「なぜそのような不公平が生じるのか?」と思う人もいるでしょう。

西洋では、自己主張しなければ評価されません。では、自己主張が苦手な人はどのように対処すれば良いか。私もだんだんとコツをつかんできたのですが、自分が携わってきたことを素直に伝えれば良いのだと思います。それも、自分の実績だけをアピールするのではなく、チームの皆と一緒に達成しました、と言う自己宣伝の方が効果的です。

 

どんなリーダーを目指すか

女性の顔には、様々な種類があります。リーダーとしての顔、家庭にいる母親の顔・・・状況に応じて自分の顔を作り、自分のスタイルを確立することが重要です。

ベトナムに所長として赴任した時、私は“優しいリーダー”を目指していました。そうすると私の部屋に部下がひっきりなしにやってきて相談をする。それにより、自分の仕事ができなくなるくらい時間を取られてしまいました。それで先輩に相談したら「ベトナム人部下があなたに望んでいるのは、そのような優しさではなく、権力と指導力を使った強いリーダーシップなのではないか」と言われました。周りからどのようなリーダーシップを期待されているか覚えておくことも重要だと思います。状況に合わせて自分の“顔”を変えることも良いリーダーの特徴です。

 

判断力と精神力を活かす

リーダーになっていく場合、単に決断を下すではなく、自分が決めたことに対して責任も取らなくてはなりません。本当に追い込まれることもあります。私がオーストラリア政府の貿易促進庁で日本のトップになったとき、大規模なリストラを行うよう命じられました。日本国内に5つあった事務所を4つに減らし、それに加えて10数人を解雇するという、私にとっては非常にショッキングなミッションでした。一人一人の部下に支えられながら仕事をさせていただいていたからです。

私は、部下とのつながりを維持しながら 、部下のモチベーションを壊さないように努めました。それゆえに追い込まれました。結果的には、事務所は閉鎖しましたが、誰も解雇せずに済むような状況を作りました。私は自分の体を張りながら、部下を守ることができたと思います。そのことを部下自身も意識してくれて、私に一段と忠実になってくれました。

ここで大切なのは、周りの人に大いに頼って助けを請いながら、最終的には「ベストを尽くした結果として、この決断を下したのだ」という自信を持つことです。そして失敗をした場合、その責任を取って教訓にするということです。

精神的なチャレンジにおいては「自分の弱みを他人に見せても良い」ということをよく理解してください。弱みを見せることで他から突っ込まれると考えるのではなく、自分が弱みを見せることによって、他の人が持っている強みを発揮できる環境を作り、それを自らの武器にしていくことが大事です。周りの人たちとの関係は、競争ではなく協力です。そして人から助けをいただいたら、その人が持っている知恵や知識、経験と自分の判断力や人生経験を組み合わせて、前に進んで行きます。

 

自分らしく生きる

実際に働いていく上で、プロフェッショナルとして働くことが大事でしょうか、それとも女性であることを前提と考えて働くことが大事でしょうか?これらの違いは非常に微妙ではありますが、もし第一に自分を“”として考えていたら、無意識のところでそれが表に出ます。

「女性らしく生きる」ことはもちろん、「女性らしく生きて働く」というのが当たり前なのだから、まずはプロフェッショナルを目指すことを強くお勧めします。

一生懸命頑張っている女性のことを、周りの男性は認めるものですが、女性がちょっとした言い訳をして、被害妄想を持っていると周りから思われたりしたら、実際はそうでは無いとしても、周りの男性と対等な立場に立つステージには招待されないと思います。自分がどう見られるか、それを常に意識していなくてはならず、そのために一番良いのが“プロフェッショナルを目指す”ということです。

女性であること自体は、決してマイナスにはなりません。自分らしく生きて、女性の良い部分を大いに活かすことが大事です。例えば一概には言えませんが、男性と比べて多くの女性の方がコミュニケーションスキルに優れていることが証明されています。そのように自分だけしか持っていないような特別なスキルや、個人としてユニークなものはたくさんあると思います。プロ意識を保ちながら、どのようにそれらを最大限に生かし、実績を残していくか。これが目指すべきところだと思います。

私のこれまでの実績には「女性で初めての◯◯」というのが多く付いてきましたが、私自身は“女性で初めての”という部分は全く意識したことがありません。次のステップに進もうとした時、プロフェッショナルとして自分のスキルを磨きながら、自分のスペシャルな、他の人にはない能力を活かして仕事をしてきただけです。

 

史上初の女性首相からのメッセージ

今、「女性からの追い風」が吹いているように思いませんか?世界のステージに立つ女性、権力を持つ女性が出てきています。非常に素晴らしいことだと思います。ただしこのような女性は、世間からかなり叩かれることがあります。

2010年、オーストラリアで初めての女性首相が誕生しました。ジュリア・ギラード元首相は、日本でよく見られるような党内問題により、副首相から首相になりました。その当時、私はすごく興奮しました。オーストラリア人女性たちの希望だと思いました。「女性も首相になれるんだ」と、オーストラリアの女性はみんな思ったはずです。

ただし、その後のジュリアさんへの扱いには酷いものがありました。スピーチや政策の内容よりも、彼女のファッションやヘアスタイルがメディアの注目を集めたのです。しかも彼女は、パートナーである男性との長いお付き合いはあったものの独身で、子供がいない。つまり普通の家庭を持っていない女性でした。ある番組に出演したら、彼女に対してプライベートの生活に関する質問が飛び出しました。そのような状況が3年間も続きました。おそらく女性でなければこのようなことは無かったでしょう。

ジュリアさんが首相を退任する時に言った言葉があります。

「自分の首相としての経験と実績を語る時は、女性であることは全てでは無かったが、無意味でも無かったと思います。“女性だからこうなった”というのは、一部のことに関しては言えるでしょう。人々によく聞かれるのは“どうすればこのような状況に耐えられるか”ということですが、自分の貢献によって、今後は国民が女性というものを考える際に、より高度で深い議論が交わされると期待しています。私が初めての女性首相を務めたことで、その次に来る女性や、彼女の次に来る女性、その後に来る女性全員が歩む道が、より速やかなものになったと確信し、私は辞任します」

最後に皆さんに一言 – 勇気を出して自分の生きがいや夢を実現させるために、大いに“歩み寄り精神”を生かしていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

 

*All rights reserved @Asia Associates Japan, Inc.

 

エリザベスさん関連リンク

講演@TEDxHaneda: The Power of Personal Choice | Elizabeth Masamune (英語)
www.youtube.com/watch?v=Ri2l-RNZt70
ニュース番組に出演(豪ABC): Japan pushes to revitalise economy ahead of 2020 (英語)
mobile.abc.net.au/news/2016-10- 14/japan-pushes- to-revitalise-economy- ahead-of- 2020/7935232

 

Women’s Dialogue

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