Kebab61

インタビュー:徳橋功 & 鈴木千夏
構成:
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屋台(千葉市中央区)

*2015年、移転しトルコ「カラデニズ61」に。

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東京の中心には非常に多くのケバブのお店があります。しかし千葉県という郊外に一度足を踏み入れたら、そのお店はやや珍しい存在になるでしょう。

Kebab61は東京の40キロ東、千葉市の中心部にあります。市内中心部の駅の通りを歩くと、ケバブのスパイシーな香りが皆さんの鼻腔をくすぐるはずです。

この屋台はトルコからやってきたクチュク兄弟が経営。彼らは病める時も健やかなる時も、豊かなときも貧しいときも、変わらず強い絆でつながっています。彼らは千葉県に住む600万人の人々に、故郷の家庭の味を提供することを夢見て、今日もケバブを焼いています。

*店主のベダット・クチュクさんにインタビュー
*日本語訳:荒舘みなみ
*英語版はこちらから  

 

“Kebab61″という名前には、どんな意味があるのですか?

トルコではそれぞれの車のナンバープレートに、その車が登録されている場所を示す特定の番号がついています。例えば、イスタンブールの陸運局に車を登録する場合、プレートには”34”の番号がつけられます。

この店の名前にある”61”は私たちの故郷、トラブゾンで登録された車のナンバープレートにつけられる番号です。私は自分の生まれ故郷に誇りを持っています。だから愛情を込めて「Kebab61」という名前をつけました。

 

いつこのお店を開店したのですか?

2007年の初夏です。私は自分だけでここを開店しました。私の兄は当時、別の仕事をしていました。

以前、私は他の場所の移動式店舗でケバブを売っていました。それ以前は東京の中心部でも。

多くの人々でごった返した駅の近くでケバブを売っていた頃、お客様の1人である質屋のオーナーが私のことを心配していました。なぜなら、私は警察に何度も露店を閉めるように言われていたからです。そこで、彼は「エンターキング」という大企業の社長を紹介してくれました。

「エンターキング(Enterking)」の名前は「エンターテインメントの王」を意味する和製英語に由来したもの。その企業は中古のCD、DVD、ゲームソフトを数多く販売しており、東京の郊外にもチェーン店を展開しています。

その会社の社長は私に、移動式店舗を彼のお店の駐車場に置くよう勧めてくれました。そして、好きな場所で開店して良いとも言ってくれました。私は二つの場所を選び、一つは自分で、もう一つは友人が運営しました。

しかし、私は運転免許証を取り消されてしまったので、移動式店舗を閉めなければなりませんでした。路上にキッチントラックを置いて何度も駐車違反切符を切られ、さらにはスピード違反により免許を停止されてしまったのです。

だから私は駅の近くに、移動式ではない自分の店を開きたかったのです。エンターキングのほとんどの店舗は駅から遠くに位置する郊外型。しかし私が選んだ2店舗はいずれも駅に近く、そのうちの1店舗は現在のこの場所にありました。

もう1店舗は私の家に近いところにありましたが、隣の建物の非常口のすぐ横にしか、お店のためのスペースを確保できませんでした。だから私は、東京の中心から40キロ離れた千葉まで来たのです。

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Kebab61はエンターキング千葉店のすぐ横にあります。

 

当初から料理は得意だったのですか?

私はそれほど料理をする方ではありませんでした。一人暮らしを始めてから料理をするようになったのです。

都内でケバブを販売していた時、私はあるトルコ人に出会いました。彼はで料理人をしていた事があり、お金持ちに雇われていたのです。しかし、彼にはケバブ店の経験はないため、材料についてはよく知りませんでした。しかしながら、味にはうるさい人でした。

私は異なる種類のソースを使ってみました。彼は私に「自分の舌に自信を持ちなさい」と言いました。それはつまり「誰もが美味しいと言う絶対的な基準はない。だから自分の味覚センスを信じるべきだ」ということです。

彼からのアドバイスは私の想像力と創造性とを広げました。私は、自分の好きな味を作るのは簡単だろうと思いました。彼のアドバイスは私にとって画期的なものでした。私はそれ以前、他人や他店からの情報に基づいてソースを作っていました。私はソースに関する知識が無かったので、情報を得ることだけに必死だったのです。

それから、彼は私にソースを作ってくれました。それは彼のお気に入りのものでした。私はそのソースをケバブにかけてみました。

私はこのお店を開いて以来、ずっと自分のソースを使っています。これはまさに私の味です。それはつまり、お客様に私のお気に入りの味を提供しているということ。都内からやって来てくれるお客様もいます。その人たちの住まいの近くに多くの人気店があるにも関わらず、です。彼らは私のケバブを、他のお店のそれよりもずっと愛してくれているのです。

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(左)ガーリック風味のヨーグルトソースをかけたケバブサンド (右)ホットソースをかけたケバブサンド。両方ともチキンケバブを使っています。
*ビーフハラルは金曜のみ販売

 

それがこのお店の強みですね!

イスタンブールには私がよく行っていたケバブのお店がいくつかあります。私はその味を再現したかったのですが、少し難しく思いました。

もし、その味を再現しようとしたら、トルコ産の肉を使わなければなりません。しかし、日本はトルコから肉を輸入していないため、トルコのお肉は使えません。

一方私たちは、鶏肉はから輸入したもの、牛肉はから輸入したものを使っています。サンドイッチ用の鶏肉とピタパンはハラルのものを使っています。

しかし、牛肉はハラルではありません。私たちは肉を柔らかくしたり、乾燥を防ぐために牛脂を使う必要があります。そして、その脂肪はハラルから作らなければなりません。しかし、どこからでもハラル牛脂を輸入できるわけではありません。なぜかはわかりませんが、日本で入手可能な、ハラルではない牛脂を使う他ありません。だからたとえ牛肉がハラルであっても、ビーフケバブはハラルの食べ物にすることはできないのです。だから、私たちはハラルではない肉を使います。

 

牛肉はハラルではないのですか?

はい。だから心が痛みます。実際、私たちは金曜日に限りビーフケバブを売り、何人かのイスラム教徒の方々が買っていきます。しかし内心は、可能であれば私たちはビーフケバブを売りたくないと思っています。

逆に、鶏肉は完全なハラルです。ソースに植物油も使います。植物油はハラルの対象から除外されています。私たちは鶏もも肉を使います。それには、乾燥を防ぐための脂は必要ありません。なぜなら、鶏もも肉そのものに脂肪が含まれているからです。しかし、鶏胸肉を用いる場合は脂肪を使う必要があり、それは牛脂でなければなりません。植物油は代用できないのです。

私たちはハラルの牛肉や鶏肉を日本でも入手できることを願っています。それらをハラルにするためには、牛や鳥を殺す前、宗教に従事する人がコーランの一節を読んでお祈りする必要があります。私たちは動物を殺すときにコーランを読む人が必要なのです。日本にはたくさんのモスクがあるので、それは難しくないと思います。彼らを探すのは簡単なはずです。多くのイスラム教徒が日本に住んでいます。私はハラルの肉を作るよう日本の牧場に頼みたい気分になります。

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ハラルチキンのドネルケバブ

 

ところで、お兄さんのセラミ・クチュクさんが手伝いに来てくれるまで、ベダットさんは本当に忙しかったのではないですか?

はい、このお店をオープンしてから2008年の終わりまで、私は本当に忙しかったです。助けが必要でしたが、人を雇うだけの充分なお金はありませんでした。だから非常に大変な時を過ごしました。

購入量が少ない場合、全てが高額になります。だからと言って多くの量を購入しても置く場所がなく、しかも全てを売り切ることができません。東京の会社に商品を注文すると、送料が高くついてしまいます。だから、自分の地域で必要なものを探さなければなりません。

それゆえに、私たちは必要なものを近くで探す必要があります。しかし実際には、必需品や材料は東京よりも高く、特に肉の価格は時と状況により、東京の2倍にもなります。

さらに、誰かにメニューを書くように頼んだら、その人に人件費を払わなければなりません。しかし、私にはコンピュータで作業する時間はありませんでした。私はどうしても店の経営に関する全てのことをしなければなりませんでした。これは私にとって心の戦いでしたね。

私が都内でケバブを売っていた頃は、メニューは簡単なものだったし、営業時間も今より短かかったです。当時は夜6時から夜中までの営業でした(*2009年現在は午後3時から翌朝5時まで、または正午から翌朝5時まで)。それでも今よりも稼いでいました。

しかし私は今の状況が悪いとは思っていません。むしろ良い状況だと思っています。なぜなら私たちは、少ない収入の範囲内でいかにしてやりくりするかを学んだからです。もし私たちが大金に慣れてしまったら、売り上げが落ちた時に対応できなくなります。だからこのお店を経営することで、私たちは多くのことを学んでいるのです。

現在この店は毎日営業しています。私と兄は、午後から翌日の朝までシフト制で働いています。売上が悪いときに他人に辛い思いをしてほしくないので、今は人を雇う予定はありません。そういうわけで、私たちは日中と夜間の両方で働いています。兄が病気になったときは、私が兄の分まで働きます。私が疲れて休息が必要なときは、兄に仕事を頼みます。今は目標に向けて耐える時だと思っています。

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(左)オーナーのベダット・クチュクさん(右) 共同で兄のセラミ・クチュクさん

 

その目標とは何ですか?

この地域でを拡大することです。時間がある時には、新しいお店をオープンする場所も見つけます。

私たちは千葉のこの地にたくさんのお店をオープンしたいのです。そしてゆくゆくはレストランをオープンしたい。東京にはたくさんのトルコ料理店がありますが、千葉にはほとんどありませんから。

 

確かにそうですね!

だから、私たちはこの地域の人に自分たちの文化を届けることのできるお店をオープンしたいと思っています。現状では、トルコ料理を食べたい人々は車や電車で都内まで行かなければなりません。

私は日本に来てからずっと、自分のお店を持つことを考えていました。だからまず始めに、ビジネスに関するプロの目線を持った人を雇うために、今の事業を拡大する必要があります。

しかし、人生は時に計画通りにはいきません。壁にぶつかり、つまづきます。浮き沈みもあります。それでも、自分の人生をあるがままに受け入れなければなりません。

私は都会生活には憧れたことがありません。代わりに、多くの素晴らしいものを身近に感じます。トルコの田舎に住んでいた頃、私は幸せでした。山の景色を楽しみ、昔の村の様子に思いを馳せます。だから私は、この地域の人たちを大切にして、人生を楽しんでいきたいと思います。

 

カラデニズ61(旧Kebab61)

千葉市中央区中央3-18-8 
(最寄駅:京成線「千葉中央」)  *地図:こちら
電話:043-441-6110 
営業時間:午前11時30分〜朝3時(定休日:火曜)
当店HP:karadeniz61.webcrow.jp/
当店Facebookページ:こちら

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My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

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