【リサーチャーコラム】訪日外国人への出口調査、失敗しないための現場論

2001年の設立以来、市場調査を行う株式会社アスマーク。累計の調査実績は4万件超、政府や大学・大手企業・中小企業など幅広い調査実績を誇ります。

アスマークはインバウンドや海外市場に関する調査など、あらゆる背景を持つ人たちの協力を得て行うプロジェクトも多数実施。海外の人たちとのコミュニケーションにおいて、多くの日本人にとって参考になる、そのご経験やご見解を紹介いたします。

※本記事は、株式会社アスマーク様の企業ウェブサイト掲載内容をもとに、My Eyes Tokyoにて加筆・編集を行ったものです。
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インバウンド需要の増加に伴い、多くの企業や自治体が訪日客の動向把握に注力しています。

POSや人流データといった行動の履歴は手に入りやすくなりましたが、その奥にある「なぜ買ったのか」「何に満足し、何に失望したのか」という意識データをつかむのは容易ではありません。

有効な手立ての一つが、利用直後に行う出口調査です。
ただ、日本人向けの調査票を翻訳して持ち込むだけでは、使えるデータは集まりません。

数多くの訪日外国人調査の現場経験から、きれいごとではない現場の実態と、成功のために押さえるべきポイントを解説します。

 

国籍・地域による「協力率」と「回答バイアス」

まず、国籍や地域によるスタンスの違いは、データの質を大きく左右する要因です。

欧米豪圏からの旅行者は、街頭や店頭で声をかけたときに足を止めてくれる確率が日本人より高く、目的さえ伝わればフランクに応じてくれます。特筆すべきは、ネガティブな評価を隠さない点です。日本人は角が立たないよう無難な回答を選びがちですが、彼らは良いものは良い、悪いものは悪いとはっきり伝えます。ビジネスの改善には、この忖度のない指摘こそが役立ちます。

【欧米豪のお客様の「忖度のない回答事例」】
前提として、 多くの欧米諸国では、自分の意見を明確に伝える文化があり、「不満を言わない=改善のチャンスを奪うこと」と捉えられる側面があります。また、旅行中で時間に制約があり、丁寧に回答してもらえない傾向もありますが、忙しいからこそ、一番伝えたいことだけを凝縮して回答してくれるともいえます。
☆回答事例(イメージ)
品揃えは素晴らしいが、免税カウンターのスタッフが少なくて待ち時間が長すぎる。 急いでいる旅行者には勧められない。
(回答の特徴:効率性や対価への納得感を重視し、改善点をドライに指摘する)

画像はイメージです。

対照的なのが中国本土からの団体ツアー客です。彼らへの接触は困難を極めます。バスで移動し、限られた時間で大量の買い物を済ませる等の過密スケジュールで動いているため、調査に協力する物理的な隙間がありません。韓国やシンガポールなど個人旅行が浸透している地域は欧米に近い反応を示しますが、一部のアジア圏では日本人同様に建前が含まれる傾向も見られます。言葉の壁を超えても、本音を引き出す難しさは残ります。

【アジア圏のお客様の「建前を感じる回答事例」】
日本人に近しい回答になる傾向にあり、対面調査では満足と答えて不満を伏せる「建前」の文化があります。もし、不満点を引き出したい場合には『あえて使いにくかった点を挙げるとしたら?』といった、不満を言うことを許可するような質問の工夫が重要になります。
☆回答事例(イメージ)
とても良かったです。スタッフも親切でした。また来たいと思います。
(回答の特徴:全体的にポジティブな評価に終始し、具体的な改善点はアンケートに現れにくい)

 

調査票設計の落とし穴:「日本語的文脈」の排除

調査票の設計に大きな落とし穴が潜んでいるケースがあります。日本の調査票は丁寧さを重んじるあまり、設問が長く、前提条件の説明も増えがちです。しかしこの日本流の作法は、多言語展開するときに足を引っ張ります。

1. 「前提」は伝わらない
「〇〇という観点において」といった前置きは、翻訳するとニュアンスが変わりやすく、直感的な理解を妨げます。結果として前提を無視した回答が集まり、データの信頼性が揺らぎかねません。質問は主語、述語、目的語だけのシンプルな構造に削ぎ落とす必要があります。

日本は丁寧な聞き方をするため、枕詞を多用するケースが多いですが、外国人向けの調査ではストレートではっきりわかりやすい文章になるよう意識するケースが多いです。

【購入理由を尋ねる設問例】
●日本人が書きがちな文章
Please tell us the reason why you decided to purchase this product today.
(今日、この商品を購入しようと決めた理由を教えてください。)

●ネイティブに伝わる文章
“Why did you buy this?”
“Primary reason for purchase:”
(なぜこれを買ったのですか? / 主な購入理由)

ただし、これらはあくまで一例であり、すべての設問において「ストレートな表現が良い」とは一概には言えません。 実際の現場では、手法や案件に応じた柔軟な使い分けが必要です。
例えば、会場調査や出口調査といったリアル調査では、こうしたストレートな表現を採用することがあります。一方、定量調査においては日本語に忠実な翻訳での運用が主流ですが、案件によっては自然な翻訳を取り入れるなど柔軟に対応しています。そのため、最終的には案件や設問ごとの判断となります。

2. 自由回答(FA)への過度な期待は禁物
クライアント企業からは「具体的な改善点を知りたいので、自由記述を多くしてほしい」という要望をよく頂きます。しかし、立ち話形式の調査で、母国語以外の入力を強いられるのは大きなストレスです。詳細な理由は書かれないものと割り切り、記述率は低くて当然と考えます。
一方で、最後に設ける「全体的なご意見」のような包括的な欄には、意外と多くの声が寄せられます。細かく理由を問うより、言いたいことを自由に吐き出してもらう設計のほうが、結果として有益な生の言葉が得られます。

3. 選択肢の「数」と「順序」のリスク
立ち止まって行う調査では、スクロールが必要なほど選択肢が多いと回答精度が落ちます。下まで見ずに上のほうだけ適当に選ぶ行動は、外国人調査でも顕著です。母国語でない環境では認知的な負荷がかかるためでしょう。選択肢は厳選し、表示順をランダムに入れ替える工夫が欠かせません。

 

フィールドワークの成否を分ける「場所」と「謝礼」

●場所選びのポイント
どこで、何を渡して聞くか。この物理的な設計も回答の偏りを防ぐ鍵となります。
人通りが多い場所が良いとは限りません。たとえば鉄道の駅は一見多くのサンプルが取れそうですが、現代の旅行者は乗換アプリで時間を分単位で管理しており、足を止める余裕がありません。
対照的に空港の出発ロビーは、搭乗までの待ち時間が発生するため比較的協力が得やすい場所です。単なる『交通量』ではなく、『滞留時間』に着目して場所を選びます。

画像はイメージです。

●インセンティブ(謝礼)の落とし穴
謝礼はその場ですぐ使える金券、たとえばQUOカードなどが効果的です。ただし外国人には使い方の提示が必要です。注意すべきは、金券が目的化するリスクです。

金券を配っていることが特定のツアー客に伝わり、対象外の人々が殺到して収拾がつかなくなった事例もありました。謝礼はあくまで対価であり、集客の道具にしてはいけません。質の低い回答を防ぐための、現場でのコントロール能力が問われます。

 

通訳活用のリスク:「言語能力」≠「調査能力」

最大のリスク要因の一つが調査員の質です。語学力を重視して通訳会社からスタッフを派遣してもらうケースが多くありますが、ここにも注意が必要です。通訳のプロは言葉を訳すプロであって、調査の中立性を保つプロではありません

調査経験がないと、回答者が質問を理解しかねているときに、親切心から「たとえばこういうことですよ」と具体例を出して説明してしまいます。すると回答者はその例に引っ張られ、「AかBか」と聞くべきところを「Aですよね」と誘導される形になりかねません。

英語以外では調査経験のある通訳者の確保がさらに難しくなります。そのため、調査員に高度な会話力を求めず、多言語表示されたタブレットを回答者自身に操作してもらうスタイルを基本にします。調査員はあくまで操作の補助に徹するほうが、データの客観性を保つ上では安全です。

 

組織内の温度差の壁

調査データ以前の問題として、プロジェクトの進行を阻むのが企業内での温度差です。

本社のマーケティング部門にとっては重要な戦略でも、店舗や施設の現場スタッフからすれば、入口を塞ぐ邪魔な存在と捉えられかねません。事前に現場への周知と合意形成がなければ、調査員が冷遇されたり、中断を余儀なくされたりするケースも存在します。

ただ調査票を作るだけでなく、クライアント社内の断絶を埋めるためのコミュニケーションを支援することもリサーチャーの役割です。現場が協力的でなければ、良質なサンプルは集まりません。

 

おわりに:データを「解釈」できる調査設計を

訪日外国人調査は、言語や文化の壁、物理的な制約の中で行う難易度の高いプロジェクトです。聞きたいことをすべて盛り込むような欲張った設計は現場では通用しません。相手が立ち止まっている状況や疲労度を想像し、質問を削ぎ落とす勇気が必要です。翻訳も直訳ではなく、調査意図を汲んだ意訳とネイティブチェックが欠かせません。

訪日外国人への出口調査の成功の為には、数字を集めることにとどまらず、その背景にある文脈を読み解き、ビジネスの決断に資する視点を持つことが重要です。

現場のリアリティを踏まえた堅実な設計こそが、不確実なインバウンド市場を攻略する足場になります。

 

関連リンク

株式会社アスマーク:asmarq.co.jp/

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー