秋山智紀さん & GTIC

Tomo Akiyama
ベンチャーキャピタリスト

シリコンバレーが全てじゃない。世界中にチャンスがあると思います。

 

 

これまでMy Eyes Tokyoでは、世界を変えるべく日々奮闘する起業家の方々のストーリーを伝えてきました。しかし今回は初めて、起業家を支援する側である一人の投資家をご紹介します。ベンチャーキャピタリストの秋山智紀さんです。

私たちは秋山さんがある場所で発した言葉に深い感銘を受け、インタビューさせていただくことになりました。

「突拍子も無いアイデアは、国籍も人種も年齢も性別も、何もかもがぐちゃぐちゃになった“場”から生まれると思います。だから皆さんも、英語じゃなく日本語でも良いから、外国人と話す機会を設けてみてはいかがでしょうか」

世界を股にかけるビジネスマンや、世界を目指して起業した方、そしてこれから起業しようとしている方にとって、秋山さんの言葉は砂漠で欲する水のように待ち望んでいたアドバイスかもしれません。

<秋山智紀さん>
東京工業大学・大学院で電気電子工学を専攻。在学中に経営戦略コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」でアルバイト勤務を経験、それを契機にドイツ企業から受理していたドイツ行きの内定を辞退、金融業界に進む。その後米マサチューセッツ工科大学のMBA(スローン・スクール・オブ・マネジメント)に留学。帰国後、外資系投資銀行であるメリルリンチ証券、UBS証券などを経て、ベンチャーキャピタリストに転身し、現在に至る。(Global Techno Innovation Cafe)代表幹事。MIT エンタープライズ・フォーラム・ジャパン(MIT-EFJ)メンター。

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3万5000円のスイカ

僕の昔からの知り合いのある日本人が、中東のドバイアブダビに日本のスイカを売りに行きました。日本で買うと、だいたい1玉1000円前後くらいですよね。その人は、いったいいくらで売ったと思いますか?3000円くらいでしょうか・・・そのくらいを想像されると思います。

でも彼は、何と1玉最高で3万5000円で売ったのです。日本のスイカが、中東で超ブランド品になってしまった。日本国内では、かなり薄利多売になっているスイカが、国境を越えたらこのような値段で売れた。マーケティング戦略を練り、みんなが売りに行かなかったところに行くと、宮崎マンゴーや夕張メロン、また関サバや関アジなど以上の付加価値を付けることができた、ということです。

このような発想は、普段の日常生活の同質者同士のコミュニケーションの中では「そんなことはあり得ないだろう」と最初から自ら障壁や「常識」を作ってしまうので、なかなか発想しづらいと思います。でも日頃から多種多様な人たちとコミュニケーションを取っていれば、一種「非常識」な発想の意見交換の中から、今までの皆さんが持っている「常識」は打ち破れるかもしれません。そもそも日本の「常識」は世界の「非常識」かもしれませんよね。

そのようなコミュニケーションは、何も真剣なミーティングでなくていい。逆に雑談の方が、馬鹿げたことも躊躇せず発言しやすくなると思います。そのような気軽なトークをいろいろな国の人たちとし、いろいろな発想を形にしていく過程が、本当のグローバリゼーションだと僕は考えます。

その機会をご提供させていただく意味で、僕はGTIC(Global Techno Innovation Cafe)というイベントを月1回主催しています。詳しくは後で述べますが、GTICはスタートアップ(事業化への準備段階を終えたベンチャー企業)のプレゼンを中心とした交流会です。告知は英語と日本語で書いています。それは、国籍も人種も宗教も性別も職種も、ぐちゃぐちゃに融合した「場」を作りたいからです。歴史的にみても、交易の場となる都市はいろいろな文化、人種、商品が集まり、都市としても非常に発展していますよね。

また「多様な人たちとの雑談を促す環境を提供したい」という僕の思いに共鳴して協力してくれる幹事メンバーと話し合い、”Cafe”という柔らかい言葉を会の名前に入れました。

飲み食いしながら様々な職種、様々な立場、様々な国の人と自分のバックグラウンドの「タガ」を外して話せば、いろんな発想やアイデアが生まれます。それこそ、中東の湾岸諸国ならスイカが超高値で売れますよ、とか(笑)逆に中東にはこういうのがあるよ、など雑談の中でいろいろな情報が飛び込んでくるんです。そういえば、そういう中東出身者やイスラム教徒の方々も参加しやすいように、ムスリムの方々も食べることができる「ハラル料理」も、GTICの懇親会では毎回用意しています。


一般的な起業家の交流会ではまずお目にかかれないハラル料理が並ぶ。
写真提供:GTIC運営委員

 

世界を震わすアイデアは多様性から

僕が””を重視するようになったきっかけは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールへの留学でした。クラス初日に教室に入ると、様々な色の肌や髪。しかもユダヤ教のキッパなど、宗教的な帽子を頭に付けている人たち・・・それまでの僕は、そのような光景を見たことがありませんでした。小学校から高校までは、クラスメイトは全員日本人でしたし、僕が通った日本の大学や大学院には外国からの留学生はいたものの、ごくわずかでした。

一方MITビジネススクールで外国人学生が占める割合は、僕が在籍していた当時で約38%。先日来日していた学長に直接聞いたところ、今では42%まで上昇しているとのことでした。これはアメリカの大学の中でも特に高い比率なのですが、つまりは最前線で活躍する、または最近まで活躍していた、世界中から集まった多くのビジネスマンたちが一同に会して、丁々発止の議論をするわけです。MIT時代に僕が所属したスタディーグループ、つまりクラスの中の班のようなものですが、7人いたメンバーの国籍はアメリカ、ブラジル、ベネズエラ、南アフリカ、そして日本でした。彼らからは、斬新と言えば聞こえは良いけども、奇抜なアイデアが突拍子の無いタイミングで出てくる。逆に日本人にとっては当たり前のことが、彼らにとっては当たり前ではなかったり・・・そんなことがよくありました。

また、僕がかつて在籍していた外資系投資銀行では、毎日カンファレンス・コール(電話会議)をしていました。夏時間と冬時間では違いますが、東京の夕方4時または5時頃、つまりユーロ市場が開く時間に、世界各都市のオフィスの外国人の同僚たちと電話会議で意見交換をしました。それにより世界のマーケットでどんなディール(取引)が儲かっているのかが、毎日リアルタイムで把握できました。また、多い時には月に5回も海外出張に行っていたこともありました。

正直言って、国籍や年齢を含め、多種多様な人々が集まるイベントやミーティングに母国語以外の言語で参加することに、時々疲れを感じます。バックグラウンドは違うし、常識も違うから、ストレスも想像以上に溜まります。先ほど申し上げた、GTICでのイスラム教徒の方々のためのハラル料理の用意も結構大変です。でもそういった多様性の集まりの中でのコミュニケーションから、時々「へえー!」と思うアイデアに遭遇するものです。

「はちゃめちゃ」なアイデアや破壊的創造につながるアイデアは、同質の日本人同士や同じバックグラウンドを持つメンバーからは生まれにくい。「あうんの呼吸」とか「これを言ったらちょっと失礼になるかも」「今更、恥ずかしくて聞けない」などと言っていては、世界をあっと言わせるアイデアは出て来ないと思います。

 

リトル・シリコンバレー

日本では国籍や人種の他に、年齢の多様性も少ないような気がします。学生ベンチャーの集まりには学生同士で「シニアの方たちは説教臭いんだよねー」と言い合っていたり、一方でエンジェル投資家の方々の会合に行くと、ほとんど全員がシニアで若い連中がいない。日本の大学で勉強している海外からの留学生のビジネスコンテストに審査員として呼ばれて行くと、外国人ばかりで日本人がいない。一方で日本人のビジネスコンテストに行くと、逆に外国人が皆無・・・そのような現状を踏まえ、僕が代表幹事を務めるGTICには、20代から60代の方々、また国籍もキャリアもバラバラの方々が参加して、自由に意見交換をしていただいています。

どんな人でも、その人ならではのバックグラウンドやキャリアを持っているはずなんです。それはもちろん学生もです。皆さんが過去にされてきた仕事や現在の研究を棚卸しし、それらの知識や経験を参加者がお互いに情報交換して共有する。そして、共鳴し合った者同士が何かを具体的に実行する。だからいわゆる「勉強会」ではなく、参加者同士によるGive & Takeの空間なんですね。僕はGTICをそのような場にしたいと思っているんです。

日本でベンチャーがなかなか花開かないのは、このような「場」が少ないというのも一因だと思います。ベンチャーは素晴らしいアイデアがあっても、多くの場合それを形にするための資金も人材もマーケティング能力も無い。でもGTICに来れば誰かに相談できるよね、と言われる・・・そのような「場」にもしたいと考えています。

国籍や分野、年齢関係なくあらゆる人に相談でき、また「常識」にとらわれないディスカッションができる – 世界的なベンチャー企業を数多く生み出してきた「シリコンバレー」は、それが自然発生的に具現化した場所ではないでしょうか。

シリコンバレーには世界中から人が集まっています。例えばグーグルは、ロシアにルーツを持つセルゲイ・ブリンが、アメリカ人のラリー・ペイジと設立したベンチャーでした。そして経営のプロとして、彼らよりずっと年上のエリック・シュミットをCEOとして招き入れ、多様な能力を持った経営陣のチームを作り、大発展を遂げました。

僕はGTICを、シリコンバレーに負けず劣らず多様な人材が集まる場にしたいと考えています。本当の破壊的イノベーションを起こすためには、そのような場が必要ですから。

   
スタートアップによるプレゼンの様子。様々な年齢層や国籍の人たちが集う。
写真提供:GTIC運営委員

 

チャンスは世界中にある

あるベンチャーに投資をするかどうかを決める時の判断基準 – 僕の場合は「思い込み」とも言えるような経営者の「ぶれることのない強い信念」も大切な尺度として見ています。

いろいろな判断基準があると思います。起業家の資質、事業内容、ビジネスモデル、収益モデル、起業家のビジョン・・・でも僕は、これらいわゆる「教科書的」な基準だけでなく、起業家の人間的魅力、それに加えて経営者の「自分が取り組んでいるビジネスは、きっと成功するんだ!」という”強い信念”も非常に重視しています。つまり「オレこそがこれで世界を変えてやるんだ」というブレの無い強い思いですね。時には「思い込み」と言っても良いかもしれません。もちろん、人の話やアドバイスを最初から聞かない人や、柔軟な発想を持っていない人は論外ですが、「世間一般の人たちと違う行動や活動をしていても、自分の信じた道を突き進むんだ」という気概も大事です。そういう意味では、勉強を一生懸命やって本をたくさん読んで知識を蓄えただけの常識人の方々よりは、実践で物事を学んでいった人の方に、光るものを感じることが多いのも確かです。

日本人は外国人に負けていないと思います。スポーツや学問など多くの分野において、日本は飛び抜けて能力の高い、本当に天才的な人の割合がアメリカなどに比べて低い。だけど平均点は他の国々よりずっと高いのです。何もオリンピックに出場してメダルを取れとか、ノーベル賞を取れ、みたいな極端な要求を言っているわけじゃない。あくまで日本人一人ひとりの基本的なポテンシャルは、アメリカ人などに比べても相当高いので、実行に踏み切れば、かなりのレベルを達成できる。これが、これまで外国人の中で生活してきた中での私の実感です。あとは、個々人が「やるか、やらないか」だけだと思います。

僕自身は、いずれ日本から世界をあっと言わせるものが生まれると思っています。ただし「世界」とは、シリコンバレーだけのことではありません。そもそも日本にも素晴らしいものは沢山あります。例えばアジア諸国の人にとっては、渋谷や原宿、青山は憧れの地。隣の芝生は青く見えるかもしれませんが、自分の家の芝生も青いんです。そういう日本で生まれた製品やサービスは、想像もできない場所でブレイクしたりするもの。世界中至る所にチャンスはあると思います。

幕末、坂本龍馬は土佐から脱藩して江戸に行きました。彼は通行手形無しに関所を抜けようとしました。今で言えば通行手形は「パスポート」、関所は「国境」。でも今は、県と県の移動ではいずれも必要がないですよね。

そのうち、世界中がそうなるかもしれません。パスポートを持たずに、まるで電車に乗るような感覚で毎日東京-サンフランシスコを通勤しているような時代が来るかもしれない。そうなると、日本企業やインド企業、中国人やアメリカ人などというカテゴリーすら無意味になる。「日本発」とか「グローバル」という言葉もどうでも良くなるかもしれません。たまたま一緒に働いている仲間がアメリカ人で、たまたま今仕事をしている場所が中国、ということになるのではないでしょうか。

  
歓談の中から、明日のベンチャーが生まれるかも?
写真提供:GTIC運営委員

 

起業家としても世界を目指す

僕は日本での大学・大学院が理系だったので特にそう思うのかもしれませんが、技術に国境はないと思っています。それに、科学技術の発展が文明や文化を作り、人間の暮らしをより良くしてきました。一方で僕が歩んできた金融の世界は、本来は科学技術を支える黒子であるべき位置づけです。

僕はこれまで約20年超、外資系の投資銀行を中心に国内外の国際金融畑を歩んできました。そして、もともと個人的にベンチャー企業に投資をしていたことから、ベンチャーキャピタリストに転身しました。それ以来、僕はベンチャーキャピタリストとして、芽が出そうなシード(創業直後のベンチャー企業)を見つけては自ら投資したりアドバイスをしたり、マーケティング戦略のサポート、CFO(最高財務責任者)などの人材や、国内外の投資家の紹介などをしてきました。でもいくらハンズオン(投資するにあたり、実際に経営に参画すること)と言っても、所詮は「アドバイザー」であり「外部の人間」に過ぎません。

それらの思いもあり、近いうちに僕自身がベンチャーを立ち上げたいと考えています。ベンチャーキャピタリストから起業家というコースは、あまり無いケースかもしれません。でも元々車(大学時代は自動車部に所属。卒業後もサーキットを走り回っていた)やコンピューターのオタクで理系出身ですから、ICT(情報通信技術)などの分野には強い興味を持っています。そして、これまでVCとして様々な起業家のアドバイスをしたり、これまで8回(*2012年7月1日現在)GTICを主催してきた中で、素晴らしいアイデアや能力を持つ多くの人たちに出会えました。だから自ら起業して、そういう人たちと共に何かやってみようと思い立ったのです。

先ほどご質問されましたよね。「日本から世界に影響力を及ぼすことのできるベンチャーは出現するか?」と。もちろん出てくるだろうし、僕自身が投資家として、また起業家として、世界を驚かせたいと思います。



@GTIC #8(2012年6月21日)
写真提供:GTIC運営委員 

 

そしてゆくゆくは、国境や分野などの垣根を感じさせない、「グローバル」とか「海外マーケット」といった言葉も考える必要の無いようなビジネスモデルを作っていきたいですね。

 

秋山さん関連リンク

Facebook:http://facebook.com/tomo.akiyama0306
GTIC(Facebookページ):http://www.facebook.com/GTICafe

 

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