AP通信東京支局

インタビュー&構成:徳橋功
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AP Tokyo Bureau
– ある地方紙記者のメモより –

My Eyes Tokyoのイベントにお越し下さった”地方紙記者の靖春さん(@yasuharu3)”より、ご寄稿賜りました。 「AP通信は東日本大震災をどう報じたか」以下、その内容です。
*英語版はこちらから!  

 

東日本大震災発生以降、米AP通信社の記者たちが震災被害や福島第1原発事故をどのように報道したのかを紹介するトークイベント「日本を世界に発信するということ~AP通信特派員に聞く」が6月26日、東京都内で開かれた。同社東京支局の影山優理記者と同支局セールスマネジャーの津田千枝氏が、実際に配信した記事や写真を紹介しながら、取材の過程を振り返った。

AP通信社は世界最大の報道機関。世界中に300を超える支局を構えている。影山記者はAP通信社特派員として約20年間、主に経済分野の記事を書いている。3・11後、「外国人たちが日本から逃げる中、日本行きのガラガラの飛行機に乗って世界中からスター記者が来た」。東京支局の記者は通常で5、6人だが、最大30人にまで増えた。それでも人手が足りず、臨時の記者も3人雇った。東電や原子力安全・保安院の会見は全て日本語で行われるため、日本語ができる影山記者が東電担当となり、ほぼ東電本社に寝泊りする毎日が始まった。

「東電は新商品があるような会社じゃないので、広報のプロがいない。記者と話したこともない人が会見を仕切る」「保安院と東電の発表内容がしょっちゅう違っていた。同じ情報を共有できていなかった。保安院と東電が合同会見を開くようになったが、だらだらと3時間も4時間も会見していた。政府は『東電の責任』みたいな態度をしていた」。

APの記者たちは、社が設定した「ツナミ・ノート」と呼ばれるメールアドレスに自分が得た情報を送り、共有した。影山記者は東電の会見に連日出席、ベクレルやマイクロシーベルトなど聞きなれない用語を必死にメモした。「東電は発表した数値が2桁間違ってました、なんて平気で言ってくる。でも私たちが間違うわけにはいかないから」。  

 

初めて挑んだ調査報道

会見の合間、バンコクにいる上司から携帯に電話が入った。「ロサンゼルスにいるジャスティン・プリチャード記者が調査報道をやりたがっている。一緒にやらないか?」。AP東京支局の記者数は日本のメディアとは比べものにならない。調査報道にあたる人的余裕もなかった。そして、海外において日本に関する報道への関心は高くないという。「でも今は注目されている。ユニークなことを書けば読まれるんじゃないかという期待、初めての体験だった」。

ジャスティン記者は「ツナミをやろう」と提案した。東電は福島第1原発への津波を最大5・7メートルまでしか想定していなかった。影山記者「揺れだけ見ると、福島第1は耐えられるはずだった。今ではそれも怪しいと言われているけどね」。日本でのデータ収集は影山記者が担当し、ジャスティン記者は英語での取材やインタビューを重ねた。 3月27日、AP通信は影山・ジャスティン記者の連名で調査報道記事「Japan utility used bad assumptions to conclude nuclear plant was safe from tsunami(日本の電気企業は原発施設が津波から安全だと結論づけるために悪い仮定を用いていた)」を配信。

「福島第1原発が直面する最大の地震と津波を仮定するにあたって、東電のエンジニアたちは、1896年より以前の地震は考慮に入れないと決めた(In postulating the maximum-size earthquake and tsunami that the Fukushima Dai-ichi complex might face,Tokyo Electric Power Co’s engineers decided not to factor in quakes earlier than 1896.)」

「869年の貞観津波()は、福島第1の原子炉とその周辺で起きた出来事への著しい類似性があった(The Jogan tsunami of 869 A.D. displayed striking similarities to the events in and around the Fukushima Dai-ichi reactors.)」とし、過去にも同規模の震災があったのにそれを考慮に入れていなかった東電の危機対策の甘さを指摘した。  

 

“AP IMPACT”配信

5月1日には「AP IMPACT: Ties bind Japan nuke sector, regulators(APインパクト:日本の原子力産業は規制者たちと強く結びついている)」を配信。日本では、原子力を規制する人間とされる人間が同じ組織(経産省)内にあるという矛盾を指摘した(「IMPACT」は、文字通りインパクトのある記事に対してニューヨークの本社判断で付けられる。記者個人の判断で付けることはできない)。

「原発の安全性についてのこれまでの日本政府の態度へのAP通信の調査は、政府の監督機関といち企業とがどれほどに内部で深く結びついていたか、そしてどれほどの強い自己満足に陥っていたかを示している(An Associated Press review of Japan’s approach to nuclear plant safety shows how closely intertwined relationships between government regulators and industry have allowed a culture of complacency to prevail.)」

「監督機関は、単に、TEPCOのデータやコンピュータ予測を分析し、津波に対して十全な防護策をとれているかを検証することが自分たちの役目であるという認識を持っていなかった。彼らのポリシーは『TEPCOのオペレータを信頼する』というもの。だから彼らのデータや論理を検証する必要はなし、というわけだ(Regulators simply didn’t see it as their role to pick apart the utility’s raw data and computer modeling to judge for themselves whether the plant was sufficiently protected from tsunami. The policy amounted to this: Trust plant operator TEPCO – and don’t worry about verifying its math or its logic.)」

「こういった故意の無知は、経済産業省においては珍しいことではない。彼らの役割は多岐にわたるー目指すところが矛盾していると一目見て分かるようなものも多いのだ。たとえば、彼らは原発の利点を説き、日本の技術を他国へ売るという目的を背負っている…、その一方で国内の原発の安全を監督しなくてはならないというのに、だ(This kind of willful ignorance was not unique within a sympathetic bureaucracy at the Ministry of Economy, Trade and Industry. The agency has multiple functions – some that can easily be viewed as having conflicting goals. The ministry is charged with touting the benefits of nuclear energy, selling Japanese technology to other countries — and regulating domestic nuclear plant safety.)」

「監督する側とされる側とはさらに、人材をも共有している。『天下り』(天国から下りる、という意味)の言葉で知られる日本の慣例は定年の近づいた高級官僚が、自らが監督してきた企業の“おいしい”仕事に移るというものだ。
一方で企業のトップが政策策定の指導委員会にポジションを約束されることもある。津波前に『天下り』を排除するという決めごとが交わされたが、未だ実現されてはいない(Regulator and regulated also share people.In a practice known in Japanese as amakudari, which translates as “descent from heaven,” top government officials nearing the end of their careers land plum jobs within the industries they regulated, giving Japan’s utilities intimate familiarity with their overseers.
Meanwhile, top industry officials are appointed to positions on policy-shaping government advisory panels. Pre-tsunami promises to crack down on amakudari have yet to be fulfilled.)」”  

 

世界へ向けて放たれたスクープ

そして5月27日、スクープを世界中に配信する。タイトルは「AP Exclusive: Fukushima tsunami plan a single page(AP独自ダネ:福島原発の津波対策計画はたった1枚しかなかった)」。東電が津波対策について、過去にどれだけ原子力安全・保安院に報告していたのか。取材の過程で、影山記者が保安院の職員から「たった1ページしかないんだから」と言っていたのを聞き、日本の情報公開法に基づいて請求し、入手した。情報公開請求は東京支局では初めて。影山記者によれば、報告書の大きさはA3サイズより少し大きかったという。

「AP通信が日本の情報公開法によって得たそのダブルサイズの1枚の紙は2001年12月19日付けの文書で、大津波によって原発の電源が失われる可能性を東電が否定しているが、なぜそのような楽観的な結論に達したのか、正当化する詳細な理由説明はほとんどない(In the Dec.19,2001,document-one double-sized page obtained by The Associated Press under Japan’s public records law-Tokyo Electric Power Co. rules out the possibility of a tsunami large enough to knock the plant offline and gives scant details to justify this conclusion,which proved to be wildly optimistic.)」

「原子力安全・保安院は、原子炉の運営者たちに地震と津波に対する彼らの準備の評価を求めた。彼らは、東電の回答の簡潔さを気にすることなく、その計算を確認したり、根拠となった文書を求めることもしなかった(Regulators at the Nuclear and Industrial Safety Agency, or NISA, had asked plant operators for assessments of their earthquake and tsunami preparedness. They didn’t mind the brevity of TEPCO’s response, and apparently made no moves to verify its calculations or ask for supporting documents.)」

「メモには、日本語の文章や図表、数値が記されている。また歴史的地震がどこを襲ったと思われるかを示している小さい地図がある。東電は北日本で過去に起きたマグニチュード8.0~8.6の5回の地震と、M9.5のチリ地震についても、津波を引き起こす可能性があると想定していた(The memo has Japanese text, boxes and numbers. It also has a tiny map of Japan indicating where historical earthquakes are believed to have struck. TEPCO considered five quakes, ranging from 8.0 to 8.6 magnitude, in northeastern Japan, and 9.5 magnitude across the Pacific near Chile, as examples of possible tsunami-causing temblors.)」

「その文書は、ここ9年間、津波や地震への研究が進んだのにもかかわらず、埃をかぶったまま、一度も更新されなかった(In the next nine years, despite advances in earthquake and tsunami science, the document gathered dust and was never updated.)」

この独自ダネは世界中の新聞に掲載されたが、日本では一部のブロガーが賞賛したのみで、大手メディアはどこも取り上げず、今に至るまで後追い報道もない。ジャスティン記者は「もっと反応があると期待してた。日本のマスコミがもっと取り上げてくれると思っていた」とがっかりした様子だったという。しかし影山記者は「APは日本の報道を常に手厚くやってきたわけではないので、それはしょうがない」と語る。また、今回の震災によって日本人の良いところと悪いところが明確に出た、という。

「良い面は、地道にものづくりに取り組んだり、現場で真摯に頑張る。反対に悪い面は、情報発信がうまくなく、決断力がなく、政治力がないところ」「サクセスしている間は問題にならなかった。でも今はダメ。リスクマネジメントが全くできていない。情報の透明性が全くない」と厳しく指摘した。  

 

ブランケットウーマン

シンポジウムの後半では、東日本大震災でAPが配信した写真のスライドショーがあった。APの写真記者が撮影したものもあれば、他社から提供を受けた写真もある。東京支局の写真記者は4人。震災発生後には最大15人になり、被災地へと向かった。

この中の特別な1枚の写真について、東京支局セールスマネジャーの津田千枝氏が説明を加えた。「ブランケットウーマン」と呼ばれるその写真は、3月13日、宮城県石巻市で読売新聞のカメラマンが撮影したもの。津波で街が流され、がれきが山積みになっているそばで、一人の女性が毛布に包まり、呆然と立ち尽くしている。

*写真はこちらでご覧になれます。

津田氏によれば、読売社内では、特に注目されていた写真ではなかったそうだが、APの写真記者が「これはいい」と判断して世界に配信、新聞各紙や仏「parismatch」など有名写真誌の1面を飾った。日本で必要とされる写真と、海外のそれとは基準が異なるという典型的な例となった。

なぜ日本ではなく海外で高い評価を受けたのか。津田氏は「オールインワンの写真だった。日本では激しく津波が襲う様子や人々が逃げているようなリアルな写真が好まれるが、『ブランケットウーマン』は1枚ですべてが表現されている」と分析した。  

 

日本を世界に伝えたい

最後に質疑応答があり、「東電について一番ひどいなと思ったのはどんなときだったか」との問いに、影山記者は「自分の会社の従業員の被曝量も調べていなかったこと」と語った。また後日、twitterで「わたしが記者やってるAP通信は世界規模ではNo.1 ですが東京支局はとても小さい。できることは限られている。でも英文で日本を世界に伝えたい。よろしくお願いします」と記した。

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写真提供:地方紙記者の靖春さん

 

AP通信関連リンク

AP通信ホームページ(英語):http://www.ap.org/
AP通信とは(Wikipedia 日本語):こちら
AP東京支局 影山優理さんインタビュー : こちら    

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

3 thoughts on “AP通信東京支局

  • Pingback:3.11を忘れない。 – My Eyes Tokyo

  • 2011/11/04 at 02:14
    Permalink

    this is a very good story.

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    • 2016/05/17 at 22:35
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      突然のメール失礼いたします。私は大阪の浪速区で就労支援の事業所を運営しているものです。今日は
      難波を通りかかり、どこかの議員さんらしき方が、アメリカが日本を守ることはもうないので、核の保有の是非を今考えなければならないと、大きな声で訴えているのを聞き、夜も眠れなくなるので、メールさせていただくことにしました。記事を読んで、影山さんというベテラン記者の方がお父様に(日本だけでなく世界が良くなるために行動しなさい。)と教えられたそうですが、大変感動しました。今、核保有にむけての動きは、世界唯一の被爆国としての役割を放棄することで、世界の人権侵害による経済成長を由とする人々の思うつぼに嵌るばかりです。経済不況で、先進国も新興国も世界が良くなるようには行動していないと感じます。昨年のAIIBと同じく、日米の連携で、核廃絶にむけて、行動すべき時だと、強く思います。
      確かにアメリカ軍の経費負担の増大やオバマケアが効果的でないと見えることはアメリカにとって大問題であり、不穏な隣国からの防衛は日本にとって大問題ですが、日米のさらなる連携なくして、より良き世界の未来が導けるのだろうかと、深く疑問に感じます。確かに、防衛において、日本はもっと自立しなければならないかもしれません。私は経済やインテリジェンスの素人ですが、本当にもっと経済的に自立しなければならないのは、軍費ではないかと思っています。防衛や人道支援をすることが必ずしも税金の消費のみで終わらず、軍費として帰ってくる仕組みが必要だと考えています。私が運営している事業は大変小規模多機能で、存続不可能と言われたものですが、自給自足で競争を逃れて、助け合えれば、何とかなると信じて何とかなっています。こんな小さな例を例えるのはおかしいですが、視点を変えれば、切り抜ける方法があるかもしれません。変えるべき法律は核保有ではなく軍費の自給自足、独自事業の許可や保護かもしれません。何を本当に守らなければならないのか、それは世界のためになることを守り、行動することだと、私も日本国民の一人として、大いに賛同します。ちなみに、私の父は特攻隊の生き残りです。就労支援第一号で、実質的な事業の創設者は原爆で家族全員を亡くした内山さんという被爆者でした。生き残った内山さんも父も力の限り、亡くなるまで勤めを全うしました。日米のみならず、世界中で、たくさんの方が先の大戦で亡くなり、当事者の遺恨や自責は残された者にも降りかからないはずはありません。それでも、自国のためだけでなく、未来の世界が良くなるために行動し、平和を勝ち取ることは、残されたものの使命であり、犠牲者の方々を本当に追悼することだと信じています。去年のaiibといい、今年のアメリカ大統領予備選といい、危機でいっぱいですが、これからも世界が良くなるための報道をしていただけると信じています。お勤めご苦労様です。皆様、お体お大切に。
      ps:複雑な地域で活動しているので、大手出版社の方に手記を書かないかとお誘いされることもありますが、お断りし、テレビの取材も活動に関することは受けないようにしています。(以前テレビ取材うけて迫害?されたもので)けれども、昨今は危機感でいっぱいです。貧困地域はマフィア勢力が勢いを持ち始めると大変で、世界的な潮流は日本にも影

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