【共催イベントレポート】海を越えた教室から見えたもの~カナダの小中学校現場報告~

報告:My Eyes Tokyo
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海外教育研究会 第2回発表会

主催:インターナショナル・インターンシップ・プログラムス/共催:My Eyes Tokyo

 

世界各地の教育現場を視察した教員による報告を通じて、諸外国の実践を学び日本の教育への示唆を探る『海外教育研究会』。前回5月のデンマーク教育視察報告に続き、今回はカナダ編です。教育現場の第一線で活躍する方々や、カナダ出身者が六本木の名刹・妙善寺に集いました。

今回報告したのは、海外研修団体”インターナショナル・インターンシップ・プログラムス”(IIP)のプログラムを通じてカナダに赴いた現役小学校教員のHさんとOさんです。2人は別々の学校で、子どもたちに日本文化を紹介したり、教員たちと交流しながら現地の教育を視察。各々が自分の目で見、体験して感じたカナダの教育の特徴や、それを支える制度・環境などについて報告しました。


主旨を説明する『海外教育研究会』栗林央主宰(IIP)
2026年7月25日@妙善寺 かけはし堂 ※撮影:ホフ・ジェニファー・アンドレア(My Eyes Tokyo)

 

柔軟で多様性に対応したカナダ教育

「視野を広げ、教員として成長したい」という思いを胸にカナダに渡ったHさん。発表では、バンクーバー近郊の都市部にある小学校と、3,000メートル級の山々が連なるカナディアンロッキーのふもとにある中学校、それぞれでの研修で体験したカナダならではの教育について紹介されました。

Hさんは自身が印象に残っていることとして”全てやる””丸ごと受け入れる”といった雰囲気が、教育の中に自然と組み込まれていたことを挙げていました。例えば宗教や国籍・民族に関わることを一切やらないのではなく、それぞれの宗教行事や出身国の季節行事について、発表をしたり、授業の中で体験したりと、受け入れて理解するという主旨のもとで取り組まれていたそうです。カナダならではの先住民族教育についても、その文化や歴史について学ぶ機会やプログラムが授業に必ず組み込まれてるとのことです。

また職員の働く制度にも、日本の学校との違いがたくさんあったようです。Hさんが「日本の教育体制に是非とも取り入れるべき」と主張していたのが”TOC(ティーチャーオンコール)”。これは正規職員が欠勤した際、要請に応じてその人の代わりの人が派遣される仕組みです。

日本では、ある職員が欠勤した場合、学校に在籍する職員だけで補い合います。このため体調を崩しても休み辛く、また欠勤をカバーする人にも負担がのしかかります。しかしTOCでは、そのようなことが無くなるだけでなく、代わりに勤務に入る先生にもメリットがあるといいます。それはTOCが、現場経験が少ない人には経験を積むチャンスをもたらし、退職した人にとっては懐かしの学校現場に戻りながら多少の収入を得られるからです。

また教員研修日は、子どもたちは登校させず、教員が研修に集中できるようにしているといった取り組みも「日本の学校にぜひ導入してほしい!」という思いを込めてシェアされました。

 

見出した日本の強み

一方でHさんは、日本の教育の強みにも改めて気づかされたといいます。

カナダには国定の教科書があるわけではなく、教育課程も州や校区ごとに違うので、教材を柔軟に決められます。ただし転校などで別の地域の学校に移る際、転入先に未習の学習内容があるリスクも高いそうです。

日本では、学習指導要領に準じて作られた国定の教科書が無料で配布されるため、全国どこへ行っても一定水準の教育を受けられる良さがあると言うHさん。また、掃除や給食準備を子どもたち自身が取り組むことも、日本ならではの教育の特色であり、カナダの先生たちからも賞賛されたとのことでした。

 

学びを支える”伴走者”としての教師

続いて、同じくバンクーバー近郊の教育現場を視察した小学校教員Oさんが発表しました。Oさんは学生時代、シチズンシップ教育(市民として必要な資質・能力を育む教育)に関心を持ち、大学のゼミで本場イギリスへ研修旅行に行きました。その経験をきっかけに海外教育への関心を深めました。その後、IIPのプログラムを通じてオーストラリア、フィンランド、カナダの教育現場を視察。これらの経験を踏まえながら、カナダ教育の特徴について紹介しました。

中でもOさんが印象的だったと語るのは、子どもの主体性を育むIB(国際バカロレア)教育です。探求学習のような、自分たちの興味のあることを突き詰めて調べると言うプログラムがあり、子どもたちは趣向を凝らしながら取り組み、発表していました。当会に参加した、かつてIB校に在籍していたカナダ出身者も、自分でテーマを見つけて研究し発表するプログラムを経験したそうです。

また、教師がすぐに答えを教えるのではなく、少しずつヒントを与えながら子どもたち自身が答えを導き出す授業や、身近な素材を用いて子どもたちの理解を深める取り組みなど、子どもたちが「取り組みたい」と思える授業が日常的に行われていました。

なおHさんが紹介した学校と同様に、Oさんが視察した小学校でも多様な宗教や民族の文化を学ぶ多文化教育が日常的に行われており、多様性を尊重する姿勢が、学校や地域を問わずカナダ教育に共通する特徴であることがうかがえました。

帰国後は4年ぶりに学級担任として教壇に立ち、海外で得た学びを授業づくりに生かしているOさん。”子どもたちが学びたくなる授業””子どもたちが成長できる授業”を目指し、日々今も実践を続けています。


※撮影:ホフ・ジェニファー・アンドレア(My Eyes Tokyo)

 

”一人ひとりに合わせた教育”の取り組みと課題

2人の現役教員からは、カナダ教育の特徴である”インクルーシブ教育”についても報告がありました。知的・情緒的・身体的障害の有無にかかわらず、すべての子どもたちが同じ場所で共に学ぶ仕組みです。

Hさん曰くカナダの学校では、支援が必要な子どもたちがEA(Educational Assistant:教育支援員)のサポートを受けながら、他の子どもたちと同じ教室で学んでいます。車椅子利用者のためのリフトなどの設備も整備され「支援を必要としている子もそうでない子も、全体の中でどのようにしたら力を発揮できるか」という考え方が学校全体に浸透していることが印象的だったといいます。

また子どもの実態に応じて、通常の教室で学ぶだけでなく”ラーニングセンター”と呼ばれる学習支援スペースで、パソコンを使ったり、EAの支援を受けたりと、学習方法の選択肢も用意されていました。知的障がいのある子どもたちが、教員たちへのコーヒー販売を通して金銭のやり取りや社会性を学ぶ実践も行われており、インクルーシブ教育ならではの”一人ひとりに応じた学び”を支える体制が整えられていました。

多文化社会であるカナダでは、子どもの困りごとが言語の壁によるものなのか、それとも発達特性によるものなのか判断が難しい場面もあるそうです。Hさんは、自身の勤務校でも外国にルーツを持つ子どもへの支援で同様の課題を感じており「支援が必要な理由を見極める難しさは日本とカナダで共通している」と話しました。

ただし日本には、特別支援学校やろう学校、盲学校など専門的な教育機関が整備されているという事情があり「インクルーシブ教育だけでなく、日本の専門的な支援体制にも良さがある」と述べました。

一方でOさんは、オーストラリアでもEAのような支援スタッフが学校に常駐していたことを紹介しました。「学校に常駐するスタッフが継続的に子どもや教員を支える体制は、日本でも参考になるのではないか」との考えが示されました。

 

インクルーシブ教育をめぐる教員たちの声

これらの事例について、参加者は様々な意見や見解をシェアしました。中でも議論の中心となったのは、カナダのインクルーシブ教育と、日本の特別支援教育との違いでした。

「人員配置が不十分なままでは、インクルーシブ教育の実現は難しい」
日本では、支援が必要な子どもへの体制が十分ではないといいます。「拠点校から教員が週1回程度巡回する現状では限界がある」との指摘があり、地域の学校でインクルーシブ教育を進めるには、より充実した人員配置が必要との意見がありました。

「インクルーシブ教育のかたちは一つだけではない」
別の事例として挙がったフィンランドでは、学校や地域によって支援の形はさまざまで、通常学級・少人数教室・専門的な支援学級を柔軟に組み合わせていたとのこと。教員やアシスタントの手厚い配置も印象的で、日本の特別支援学級での人員体制の充実を望む声が出ました。

「”同じ教室で学ぶこと”と”一人ひとりに合った学び”は必ずしも同じではない」
「インクルーシブ教育とは、全員を一律に通常学級へ入れることではなく、それぞれの子どもに最適な学び方を保障することが重要ではないか」という考えが共有されました。

「障害のある子どもと共に学ぶ経験が、共生社会への理解につながる」
特別支援学級と通常学級が分かれている学校が多い日本では、障害のある子どもと接する機会が限られるため、大人になってから接し方に戸惑うという声も。一方「幼い頃から多様な子どもと学ぶ環境は、自然に支え合う意識を育むのではないか」という意見が出ました。

「必要な支援を整え、一人ひとりに合った学びを実現することが大切」
ただ、通常学級と支援学級を組み合わせる教育実践には、現状では教員の負担増という課題もあるといいます。これに対し「予算を充実させることで、人材も環境も充実させることが必要だ」という意見が出ました。例えばLD(学習障害)など特性のある子どもには「動画や音声教材なども活用しながら、一人ひとりに合った学び方を保障することが重要ではないか」という意見が出されました。


※撮影:徳橋功(My Eyes Tokyo)

今回も活発な議論が生まれた海外教育研究会。現地での実践に学びながら「子どもたちにとって本当に良い学びとは何か」を参加者一人ひとりが真剣に考える時間となりました。時を忘れて自らの知見や思いをシェアし合う参加者たちの姿に、私たちは皆さんの子どもたちを思う気持ちや、教育に賭ける情熱を感じずにはいられませんでした。

 

関連リンク

インターナショナル・インターンシップ・プログラムス:internship.or.jp/
『海外教育研究会』第1回開催レポート(デンマーク編):myeyestokyo.jp/67841

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー