「傷だらけの英語習得術」豊田典子さん

インタビュー&構成:徳橋功
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Noricco Toyoda
大学講師・会議通訳・第二言語習得および認知言語学研究者

 

 

「英語力=英会話力」ではありません。だから会話が出来なくても自分を責めないでください。

 

今回の「」は、“バイリンガル”の方。会議などでの同時通訳も難なくこなします。

「え、バイリンガルって、外国に長らく住んでいたから自然にそうなったんじゃないの?全然“傷だらけ”じゃないよね〜」

おっしゃる意味、分かります。それでも今回のインタビューの相手である豊田典子さんを取材させていただいた理由は、恐らくお読みいただけたらお分かりになると思いますので、ここでは敢えて説明は割愛します。

私と豊田さんの出会いは、今から数ヶ月ほど前のこと。ジャーナリズム関係のトークイベントで出会った企業経営者・桃原則子さんからご紹介いただいたのがきっかけでした。東京近郊の大学で教鞭を取る豊田さんの講義を聴講させていただいたり、また豊田さんもパネリストとして参加された、“英語キュレーター”セレンさん企画・司会進行のパネルトークイベント「ぼくらの英語サミット」(2013年2月27日@茅場町Co-Edo)で再びご一緒するうちに、豊田さんならではの大変ユニークな英語に対する取り組みや哲学を知り、ぜひとも多くの人にシェアしたいと思いました。

このインタビューで、皆さんのこれまで抱かれていた思い込みや“常識”を次々と覆していきますので、そのつもりでお読みくださいませ。
(実際の豊田さんは大変気さくな方ですのでご安心を・・・笑)

*インタビュー@六本木(ロンドン大学同窓会 開始前に)
*写真提供:晴山陽一さん(英語教育研究家)

 

日本語が大好き

私は英語が好きなわけでは無いと自分で思っています。もちろん嫌いなわけではありませんし、英語の勉強で苦労を感じたことはありません。でも私が好きなのは、どちらかと言えば「人とコミュニケーションを取ること」。もし自分の目の前に英語しか通じない人が現れたら、英語を話す以外に選択肢は無い。英語を学んできたのは、そういう人たちともコミュニケーションを取りたかったからだと思います。

むしろ私は日本語が大好き。日本語の本を、子どもの頃から1日に最低3冊は読んでいました。それに加えてマンガも読んでいました。高校1年生の時に「将来は絶対に国語学を勉強するんだ」と決めたくらい、日本語は私にとって美しい言語です。

学校での英語の時間も含め、私は勉強だと思って取り組んだことはありません。興味の赴くままに生きてきただけ。その反動で、大学ではいくつも単位を落としたんですけど・・・(笑)

 

我、帰国子女にあらず

MRIなどを用いた調査で、私が均衡バイリンガル脳に近いという結果が出ました。“均衡バイリンガル”というのを分かりやすく言うと、例えば日本語で日経新聞を読むのと同じくらいの理解度で、英語でFinancial Timesを読めるような状態のことです。
でも私は帰国子女ではありません。帰国子女には正式な定義はありませんが、「自己都合ではなく、保護者の事情などで義務教育期間中に海外の現地校で教育を受けた者」というのが一般的です。私の両親は日本生まれ・日本育ちだし、私は今まで留学というものをしたことがありません。ロンドン大学大学院に行きましたが、それは私が仕事でロンドンに赴任していた時のことですので、何かを学ぶために海外に行く“留学”には当てはまらないと思います。

私が初めて英語を習い始めたのは、9歳の頃です。私が通ったのは、週1回60分の、小学生向けの英会話教室でした。私は本当はピアノが習いたかったのですが、ピアノ教室が満席だったので、そこが空くまで英会話教室に行くように言われました。両親が英語は将来の役に立つと思ったからのようです。

 

カセットと文通で英語漬け

その英語教室には日本人だけしかおらず、ネイティブの先生がいない代わりにカセットテープを流していました。私たちが教室で耳にした英語は、全てカセットから流れるネイティブのものでした。つまり、余計なカタカナ英語が入ってこないから、それが良かったのです。

しかも、文法は一切勉強しませんでした。テキストは絵本でした。それに加えて私たちは歌やゲームで英語を学びました。妹と一緒に通い、よく彼女とネイティブ英語の発音をマネし合っていました。

子どもは発音の吸収は早いです。でも話せるレベルまでは達していませんでした。誤解されがちですが、“発音が良い”のと“話せる”のは、全く違う次元なのです。

他にも私は、海外の同い年くらいの子たちと文通していました。いわゆる「ペンパル」ですね。相手はケニア人、アメリカ人、オランダ人、それぞれ女の子でした。どのような経緯で彼女たちを知ったのかは覚えていませんが、3日に1度送っていたので、ほぼ毎日英語で文章を書いていたと思います。日本の日常生活について書くことが多く、そうすると向こうからも、彼女たちの普段の生活について書いて送ってきてくれました。

不思議なのは、当時は文法的な知識が一切無かったのに、彼女たちからの手紙が読めたのです。今思えば、歌やゲームを通じて英語が体にしみ込んでいたからかもしれません。

 

”学校英語”をとことん楽しむ

英語に慣れ親しんだ小学校時代が過ぎ、中学校に入りました。この記事をお読みの皆さんは「中学校の授業は、きっと退屈だったに違いない」とお思いかもしれません。でも、全くそんなことはありませんでした。

何故なら、中学校で初めて「文法」に出会ったからです。小学校で基礎的な国語の文法は勉強していましたが、英語にも同じように文法構造というものが存在することが、私にとって驚きだったのです。「わー面白い!」と思いました。他にも英文和訳は初めて体験したことでしたので、新鮮でした。

私は、中学校の英語の教科書を使って予習・復習を欠かさずしました。しかも教科書に付いているカセットテープを聞いて、教科書の内容を全てネイティブ発音で頭に入れ、自分でも同じように発音できるまで繰り返し口に出して練習しました。でもそれは私のオリジナル学習法ではなく、英語の先生が出した課題を忠実に行っただけのことです。中学と高校では英語の授業が週に4〜5回ありましたから、それだけで私の英語力を保つことができました。

その課題の中には英文和訳も含まれていましたが、それもきちんと勉強しました。何故なら、和訳が出来るようになるためにはきちんとした日本語力が必要だからです。これが、私の通訳としての素地を作ったのだと思います。

これらは、いずれも私が好きで遊びとしてやっていたことです。ですので、もし小学生や中学生のお子さんをお持ちの親御さんがこの記事を読まれたとしても、それを無理にお子さんに押し付けても、効率は良くないと思います。遊ぶ時間が無くなって、お子さんがつぶれてしまうこともありますから。

 

英語力は「英会話力」ではない

「私は英語が全く出来ない」と思い込んでいる人が、この日本には多い印象です。しかし私が大学で教えている学生さんの中には、3ヶ月後に3分間プレゼンがスラスラ出来るようになった英検5級の人がたくさんいます。

それは“眠っていた潜在能力が表出した”というのとは違います。彼らの能力は眠っていません。リーディングとリスニングで覚えた知識をアウトプットする機会に恵まれなかっただけです。だから、その機会をうまく提供してあげるだけでも、英語での成功体験を積み重ねるお手伝いができると思います。

そしてもう一つ。巷で言われている「英語ができない」という言葉は、ほぼ「英会話ができない」ことと同じ意味になっています。でも実際は「英語ができない」と言っている人たちも、読み書きをさせたら世界的に見ても高いレベルだったりするのです(世界には学校にいくことができない子どもも多いのです)。なので、決して“会話ができない”という自分を責めないでほしいと思います。

それより大事なのは「英語を習得してから、何をしたいのか」をはっきりさせることです。ただ漠然と「ペラペラになりたい」だけでは、何をどのように勉強すれば良いのか曖昧になってしまいますが、それを明確にすれば学習法やゴールが決まってきます。海外旅行を楽しみたいから英語を勉強する、という人は海外旅行向けの英会話を学べば良いと思うし、TOEICで高得点を取らなくてはいけない人はTOEICの勉強を頑張れば良い。カッコ良く英語を話したい人は、発音を磨いてみたり、実際に皆の前で話す機会を探すのも、全然アリだと思います。

 

自分にも他人にも寛容に

最後に、発音の話が出たので付け加えますが、自分の発音には厳しくても、他人の発音に厳しくならないで下さい。その発想は、ややもすると“外国人の日本語の発音を見下す”ことにもつながります。
英語にもいくつもの発音があります。特に英語の祖国であるイギリスには、国土が小さいにも関わらずいくつもの方言が存在します。だけどイギリス国民は、お互いの方言に対しては寛容です。また一般的にフランス語訛りの英語には寛容なことが多いですね。

World Englishesという言葉がありますが、私は世界的に、そのようになればいいなと思いますね。だから日本人もJapanese Englishであっても、ガンガンに話して、相手が理解できなくて眉をひそめたら”Don’t you understand me? OK, let me repeat!”と言う度胸があるくらいになってほしいです(笑)


講演『バイリンガルキッズのウソホント』にて(2013年3月16日 東京都大田区)

たとえ相手から聞き返されても、パニックになるのではなく「だったらゆっくり話してあげるわよ」くらいの気持ちになれたらいいですね。

 

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