世界から起業家を迎え 日本の起業家を世界に飛躍させる街・神戸

取材・撮影:徳橋功/ホフ・ジェニファー・アンドレア(My Eyes Tokyo)
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(English article here)

 

かつて日本は、の中で”起業後進国”とも呼べるほど、起業人口は少なく、起業を促す環境も整っていませんでした。しかし国・自治体・民間が一体となり起業への環境を整備してきたことで人々の起業意識が高まり、新たに生まれた日本のスタートアップには海外の家までもが関心を持つように。結果として10億円を超える大型資金調達も珍しくなくなくなりました。

日本の起業熱をさらに高めるかのように、岸田首相が2022年を”スタートアップ創出元年”と位置づけたのも、皆さんの記憶に新しいでしょう。


撮影@CIC Tokyo(東京都港区)

今年(令和4年)3月には、経団連もスタートアップ企業の育成に向けた提言を発表。現在10社程度のユニコーンを2027年までに100社に増やす、スタートアップ企業の数を10万社に増やすなど意欲的な目標を掲げました。さらに経団連は政府に”スタートアップ庁”の創設を提言しました。

この熱気は東京だけに留まりません。例えば広島県は、スタートアップ支援プロジェクト”ひろしまユニコーン10”始動を発表。「地方からユニコーンを生み出すことは東京一極集中の流れを変える。県内だけでなく日本全国、世界中からプロジェクトに参加してほしい」と湯﨑英彦知事は語りました。

日本中がスタートアップ育成に向け意欲が最高潮に達する中、その先頭グループを走る拠点の1つ、市が”KOBE STARTUP WEEK”を3月11日から19日に開催。ライフサイエンスやGovTech(ガブテック:Government Technologyの略。行政と民間企業が協業しデジタル化を進めることで、サービスレベルの向上を目指す)、など地域や国内、世界の課題に取り組む神戸市のスタートアップ支援事業より支援を受けた企業約60社によるピッチやパネルディスカッションなどが東京と神戸にて行われました。

中でもMy Eyes Tokyo的に強く関心を抱いたのは、神戸市と共に切磋琢磨してきたスタートアップによる”SESSA Startup Pitch”、そして日本最大の医療産業都市を持つ神戸が生んだライフサイエンス系スタートアップが都内に集結した”KIKKAKE”。まずは多国籍・多文化の様相を呈するまさになイベント”SESSA Startup Pitch”のもようをお届けします。

 

SESSA Startup Pitch

2022.3.16 @ TRUNK (HOTEL)

米シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタル”500 Global”と神戸市が共同開催した”500 Founder Academy in partnership with KOBE”や、国内外で活躍する著名事業家・などがメンターとなり各起業家に伴走する” Global Mentorship Program”に参加した200社のうち注目の精鋭が、日本のスタートアップの聖地・渋谷に集結しました。

このイベントにおいて、神戸市によるスタートアップ支援の陣頭指揮を執る神戸市市長・久元喜造氏が登壇。

「神戸は社会課題の解決を一緒にやっていこうという観点から、スタートアップの皆さんとコラボさせていただき、そしてスタートアップの皆さんを支援するという取り組みを行ってきました。神戸はこれから行政も変わっていきます。スタートアップの皆さんの未来も一緒に変わって行こうという思いを込めて、今回のデモデイを企画しました。」

 

そしていよいよスタートアップによるピッチへ。以下の精鋭9社が熱いバトルを展開し、マネックスグループ株式会社代表執行役社長CEOの松本大氏など実業家や投資家が、起業家たちの持つビジョンがどのように事業化しスケールするのかを探る真剣試合となりました。

【注】
☆は代表が神戸市出身の企業
▲は代表が海外出身の企業
〇は神戸市に事業所がある企業

Aironworks:サイバーセキュリティ訓練ツール開発(日本・イスラエル混成チーム)※オーディエンス賞・優秀賞受賞
☆〇コールドストレージジャパン:冷蔵・冷凍物流の次世代プラットフォーム構築
fixU:無人化・省人化店舗運営支援ツール開発 ※最優秀賞受賞
Hello xLAB:プロフェッショナル向けマッチングプラットフォーム構築
Moff:介護施設向けIoTリハビリ支援サービス開発
Pafit:Shopifyに特化した法人向けデータ収集・分析支援サービス開発
Smart Panel Technologies:人の皮膚の仕組みを適用した壁面パネルの開発
Smart Tissues 3D SpA:人間の生体組織や臓器の3Dプリンティングを可能にする抗菌性バイオインクの開発 ※優秀賞受賞
T-ICU:遠隔医療の集中治療専門医チーム。Doctor to Doctor の診療支援を遠隔で実施

 

 

私たちは当イベントの合間に、海外出身の起業家たちにお話を聞きました。

 

Smart Panel Technologies 最高技術責任者 アルベール・アビュト氏

「私は日本に住んで35年になります。建築事務所”アルベール・アビュト・アーキテクチャー”を開業し、オフィスを東京とに、支社をハノイ(ベトナム)とパリに展開してきました。
しかしスマートパネルは、それとは全く別の会社。私の長年の経験、10年以上にわたるバイオミミクリー(
Biomimicry:生物模倣)と人体解剖学の研究から生まれたスタートアップなのです。私はこれまでアメリカ、フランス、アラブ首長国連邦、日本、、韓国などで会議を開き、スマートパネルの技術を伝えてきました。
神戸市からは様々なメンターをご紹介いただき、ピッチおよびプレゼン能力の向上についてご指導をいただきました。また、業界の第一線で活躍されている方々をご紹介いただき、大変感謝しています。神戸市のプログラムは、私たちのようなスタートアップのエンジニアにとって非常に有益であり、私たちの成長の起爆剤になるものと信じています。本日のイベントでのピッチでは、神戸市のご支援により日本で資金調達ができた暁には、東京だけでなく神戸にもオフィスを開設することを神戸市長に提案させていただきました。」

 

Smart Tissues 3D SpA 共同設立者 ロザレス・グスタボ氏

「元々私と社長は、大学院への奨学生として来日しました。博士号を取得後、最初はチリで会社を作りました。しかし今年、ついに日本に会社を設立します。日本にいることこそ、弊社にとって重要なポイントなのです。なぜなら、弊社の製品にとって日本市場はとても大きく、とても魅力的ですから。それに日本はiPS細胞の研究の中心地ですし、数多くの製薬会社が日本にあります。可能性に満ちた最高の場所に、私たちはいるのだと思います。
私たちの技術や事業は、京都や神戸からの支援を受けて日本で事業を促進しました。特に神戸市からは、日本や世界の投資家との経験豊富な個人およびグループでのメンタリングにより、私たちは自らのビジネスを検証したり、人脈を広げたり、日本のスタートアップコミュニティに参加したりすることができました。いただいたご支援を通じ、私たちは国際的な企業になりたいと考えています。」

 

Hello xLab 代表 グレック・ドウェイン氏 *英語インタビュー音声



▼日本語訳はこちらをクリック


 

神戸市スタートアップ支援を率いるキーパーソンにお話をお聞きしました。

神戸市 医療・新産業本部 新産業部 新産業課長 武田卓氏

「”こんなスタートアップが神戸にいるんですよ!”ということをいろんな所に発信したいという思いがある一方、私たち神戸市が支援してきたスタートアップの社数が増えたため、1日ではご紹介しきれないことから”KOBE STARTUP WEEK”を企画しました。医療産業やスタートアップ、SDGsを軸にした”日本版SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト※)”のような位置づけです。
スタートアップ支援のノウハウが神戸市に蓄積された今、500 Globalと共同プログラムでは年間20社から年間100社に支援、Global Mentorship Programでは年間200社の支援を目指すなど母数を増やし”神戸はスタートアップをすごく支援してくれる”という印象を持っていただけるよう、攻勢をかけていきます。」

※サウス・バイ・サウスウェスト:毎年3月に米テキサス州で開かれる世界最大級カンファレンスおよびフェスティバル。近年ではスタートアップの登竜門としても有名。

 

 

KIKKAKE –知る/繋がる/始める“きっかけ”- KOBE LIFE SCIENCE STARTUP NIGHT

2022.3.15@CIC Tokyo

”KOBE STARTUP WEEK”は「SESSA」に先んじて、東京でもう一つのイベントが開かれました。日本最大のバイオメディカルクラスター(*研究機関や企業・団体などの集積)である”神戸医療産業都市”を拠点に活躍するライフサイエンス系スタートアップが一堂に会した「KIKKAKE –知る/繋がる/始める“きっかけ”- KOBE LIFE SCIENCE STARTUP NIGHT」です。

神戸医療産業都市は阪神・淡路大震災の事業として1998年より構想を開始し、”日本初のライフサイエンス分野のクラスター”を目指すプロジェクトとして進められました。現在では神戸医療産業都市には中小企業やスタートアップ、大手製薬会社など約380もの医療関連企業・団体が国内外から進出。神戸市立医療センター中央市民病院という、市が運営する病院が都市内に立地することが、他都市にある医療系クラスターとの大きな違いです。

今や日本最大級のバイオメディカルクラスターに成長した神戸医療産業都市、およびそれを生み育ててきた神戸市による、基礎研究の事業化や治験を行うライフサイエンス系スタートアップ約70社への支援の取り組みが、各社によるピッチおよびパネルディスカッションなどを通じて紹介されました。

 

「アカデミア発スタートアップの動向・展望」

左から
経済産業省 新規事業創造推進室長 石井芳明氏【モデレーター】
株式会社東京大学TLO 代表取締役社長 山本貴史氏
株式会社神戸大学イノベーション 代表取締役社長 坂井貴行氏
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構 専務理事 三重野雅文氏

 

スタートアップによるピッチ

ナティアス:医薬用途の核酸APIなどの製造・販売
プロジェニサイトジャパン:アルツハイマー・パーキンソン病の再生誘導医薬品の開発
ナレッジパレット:創薬および再生医療高品質化の研究・開発
レストアビジョン:視覚再生遺伝子治療薬の開発
セルファイバ:世界初の技術”細胞ファイバ”をコア技術として細胞治療用途の細胞量産技術を開発
ネクスジェン:幹細胞やAI・バイオインフォマティクスを用いた次世代医療技術の開発

 

「神戸のスタートアップ・事業会社が語るコラボレーションの秘訣」

左から
バイエルオープンイノベーションセンター センター長 高橋俊一氏【モデレーター】
株式会社イーベック 代表取締役社長 土井尚人氏
シスメックス株式会社 取締役 常務執行役員 吉田智一氏(オンライン登壇)
株式会社ナティアス CFO/管理部長 鈴木陽介氏
株式会社プロジェニサイトジャパン 代表取締役社長 徐綾氏

 

3つ目のディスカッション「東京x神戸の可能性」では、神戸医療産業都市以外にも拠点を持ち事業を展開するスタートアップによる”神戸愛”が大いに語られました。

左から
レオファーマ R&D Asia-Pacific Hub シニアディレクター 黒田垂歩氏【モデレーター】
ナレッジパレット 代表取締役CTO/共同創業者 福田雅和氏
レストアビジョン 取締役副社長COO  宮﨑輝氏
セルファイバ  代表取締役社長 柳沢佑氏
ネクスジェン 代表取締役CEO 中島正和氏
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構 クラスター推進センター統括監 花谷忠昭氏

 

レストアビジョン 宮﨑氏
「神戸医療産業都市推進機構や神戸市に一度要望を伝えたら、彼らが様々な方々に連携してくれる。」
「コロナ禍の影響で同業他社とのつながりが持てず、その機会を切望し、他社とのラウンドテーブルディスカッションを開催していただいた。今後もミートアップの機会を増やしてほしい。」

ネクスジェン 中島氏
「私が弊社を設立するにあたり、日本全国を見て回ったが、神戸医療産業都市推進機構のようなインキュベーターを持つ都市は、当時は神戸だけだった。しかも彼らは私たちからの相談に大変親身になって聞いてくれたし、私が”この地域のキーマンを全員紹介してください”と頼んだら、その通りにしてくれた。」
「私が商社に勤務していた頃、海外の人に”私は神戸出身です”と言っても誰も知らない。でも”神戸牛の産地”と言ったらめちゃくちゃ反応が良かった。もし海外のVCなどに”神戸に来れば1年間神戸牛食べ放題”などの特典を付けたら、彼らは実際に来るのではないか。これは他の都市には真似できないこと。」
「ライフサイエンスや医療、ヘルスケアは国境を問わない産業。”神戸や東京だけに拠点を置けば十分か?”という議論が5年後や10年後にできるように、自分も成長したい。」

レオファーマ 黒田氏
「神戸医療産業都市が持つアットホームさや密なネットワーク、神戸医療産業都市推進機構によるワンストップ支援体制を維持したまま、規模を拡大させてほしい。また自治体には、投資すべきものへの資金・人材投入を続けていってほしい。」

神戸医療産業都市推進機構 花谷氏
「東京の人に神戸のことをほとんど知っていただけていない。まして神戸に大規模なバイオメディカルクラスターがあることなど、東京のスタートアップ界隈の人たちの大半がご存知ないと思う。その人たちに、神戸のスタートアップ支援策を伝えるのは非常にハードルが高いが、CICなど東京にあるインキュベーションオフィスなどとコラボしながら神戸の情報を発信していきたい。」

 

神戸のライフサイエンス系スタートアップを支援するキーパーソンが、日本や世界における神戸の在り方について、私たちMy Eyes Tokyoにその展望を語ってくれました。

神戸市 医療・新産業本部 医療産業都市部 丸喜健史氏

「医療分野において、新しい薬や医療機器を作るためにスタートアップの技術が必須であることは、日本だけでなく世界中の潮流になっています。当分野への投資額において日本はアメリカに後れを取っていますが、基礎研究においては日本はアメリカに引けを取らないと考えています。
医療産業都市を持つ神戸が元気になれば日本全体が活気に満ちると思いますし、医療分野で良い新薬や医療機器を生み出せば、神戸や日本だけでなく世界中の人々に貢献できます。グローバルで貢献できる都市を目指していきたいと思います。」

 

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関連リンク

神戸市のスタートアップ支援 (神戸市HP内):www.city.kobe.lg.jp/a14333/business/sangyoshinko/shokogyo/venture/newindustry/index.html
神戸医療産業都市:fbri-kobe.org/kbic/
神戸医療産業都市スタートアップ支援:fbri-kobe.org/kbic/service/field05/
公益法人 神戸医療産業都市推進機構:fbri-kobe.org/

*英語版はこちらから

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー