【共催イベントレポート】海を越えた教室から見えたもの~フィンランドの小中学校現場報告~

報告:My Eyes Tokyo
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海外教育研究会 第3回発表会

主催:インターナショナル・インターンシップ・プログラムス
共催:My Eyes Tokyo
後援:フィンランド大使館

 

2026年9月26日、『海外教育研究会』が渋谷ヒカリエに舞台を移しての開催となりました。デンマーク編、カナダ編に続き第3回となる今回は、フィンランドの複数の小学校で約1年2か月にわたり教育現場を視察した、小学校教員のMさんが登壇。現地の学校で実際に見聞きした授業や学校生活、教員の働き方などについて報告しました。

日本では、フィンランドの教育について”宿題がない””テストがない””子ども主体の学びが中心”といったイメージで語られることがあります。しかし実際に現地の学校を訪れてみると、必ずしもそうではありませんでした。

今回の発表で見えてきたのは、そうした印象とは異なるフィンランド教育の側面。そして日本の教育の強みと課題でした。

 

私たちの教育を外から見つめるために

フィンランドに赴く前、Mさんは公立小学校教員として15年間学級担任を務め、支援学級も経験。2018年度からは外国語専科として指導しながら、アメリカ・台湾・韓国との交流授業にも携わりました。

教育現場で働く中、日本の教育に対するさまざまな課題が語られることに疑問を抱き「日本の教育は本当によくないのだろうか?」と考えるように。「日本が学力調査で世界上位を維持しているのにも関わらず、なぜ日本の教育はこれほど嘆かれているのか?ほかの国の教育はどうなっているのだろう?」・・・

そんな疑問から、Mさんは2025年4月よりフィンランドで1年2ヶ月間の教育研修に参加。現地の教育を支える3つの理念や教育制度の特徴、そして現地での研修を通じて改めて見えてきた日本の教育について報告しました。

 

フィンランドの教育ってどんな感じ?

フィンランドの学校は全て公立で、6歳からの就学前教育、その後の9年間の基礎教育を経て、高校や職業教育などへ進みます。教育は18歳まで無償で、教材や給食も提供されます。また全ての教員には修士課程の修了が求められ、教育の専門性が重視されています。

Mさんが印象に残ったのは、教員が心身ともに健康に、安心して働ける環境です。休憩用のラウンジが設置され、代替教員の仕組みがあり、勤務時間にも柔軟性があるなど、仕事と自分の時間を両立する働き方が見られました。教員の心の余裕が、教育の質にもつながると感じたそうです。また、日本のホームルームや朝の会、帰りの会に相当するものがないことも特徴的でした。

子どもたちの学習環境にも工夫が見られました。訪問先の学校には、気持ちを落ち着かせる”カームダウン(Calm Down)スペース”や、体を動かしてリフレッシュできる設備、子どもたちの心を癒す”スクールドッグ”の存在がありました。さらに、周囲の音や視線が気になる子どものためのパーテーションや、個別に過ごせるスペースなど、一人ひとりの状態やニーズに配慮した環境が整えられていたといいます。

 

We trust people!

Mさんが「フィンランドから日本に持ち帰りたい!」と強く思った言葉、それが ”Trust(信頼)” でした。実際に現地で大人たちと話したり、学校を訪問したりする中でも、何度も聞かれたそうです。フィンランドが安心・安全な国である背景には、一人ひとりがお互いを信頼する文化があるといいます。

Mさんは子どもたちにも、フィンランドが世界幸福度ランキングで1位になることが多い理由を尋ねてみました。するとその一人が、胸を張って”We trust people.(僕たちは人を信じているんだ)” と答えたそうです。その言葉に、Mさんは鳥肌が立つほど感動したといいます。子どもたちは、友達や先生、街の人々との間にも信頼があることを話してくれました。

信頼の文化は、学校の運営にも表れていました。ある学校では、校長先生が校長室の写真撮影を快く許可してくれたそうです。またその校長先生は「校内で開かれるワークショップのすべてを把握しているわけではない」と話していました。教員たちが子どもたちのために良いことをしていることを理解しているため、一つひとつに許可を出したり、すべてを管理したりする必要はないという考えでした。

さらに校長先生は教員について、仕事中は子どもたちに一生懸命向き合い、質の高い教育を提供する一方、仕事が終わったらプライベートの時間を大切にし、仕事と切り離して休むことが重要だと話していました。Mさん自身も、この考え方を日本に帰ってから大切にしていきたいと感じたそうです。

 

ロッカーに鍵がない@国会議事堂

さらにフィンランドで大切にされている理念が”Respect(尊重)”と”Equality(平等・公平)”です。

日本では、どの学校でも同じような教育をすることが平等と捉えられることがありますが、フィンランドでは学校ごとに方針や方法が異なります。子ども一人ひとりに必要な支援を提供し、それぞれに合った公平な教育を保障するという考え方です。

さらにMさんがフィンランドの国会議事堂を訪れた際、議員のロッカーに鍵がないことを知って大変驚いたそう。お互いを信頼し、他人のものを勝手に開けたり取ったりしないという文化が、ここにも表れていました。

 

フィンランドには宿題がない?

フィンランド教育について日本でよく聞かれる”宿題がない”というイメージ。しかしMさんが訪問した学校では、宿題が出されていました。ある進路指導の先生は「基礎学力を身につけるために宿題は必要。大人になってからも仕事で課題を提出するので、子どものうちから慣れておく必要がある」と話していたそうです。

宿題には、単語の暗記や文章の音読、ワークブックで教員が指定した箇所の取り組みなどがありました。小学2年生の女の子も「ほとんどの教科で宿題が出る」と話し、その日はフィンランド語、算数、英語の課題があったそうです。確認方法や量は教員や教科によって異なるとのこと。なお、フィンランドには日本のような塾文化は基本的にありません。

では、なぜ「宿題がない」というイメージが広まったのでしょうか。Mさんが研修校での自身のメンターから繰り返し聞いたのは「学校によって文化や方針が大きく異なる」ということでした。同じ学校でも教員ごとに指導方法や理念が異なり、互いのやり方を尊重し、信頼する文化があるといいます。

たとえ宿題がなかったとしても、それは訪問した学校に限った話という可能性もあり、今回Mさんが訪れた学校では、いずれも宿題が確認できたそうです。

Mさんが日本紹介用に作った、日本語とフィンランド語の同音異義語カード。ちなみに右の写真にある”kiva”はフィンランド語で”素敵な”という意味。

 

テストで”勉強の仕方”を学ぶ

「テストがない」というイメージもフィンランド教育に対して持たれていますが、実際には単語や文法、学年末のテストなどが行われていたそうです。

Mさんが訪問した小学6年生のクラスでは、単語テストを目前に”自分に合った勉強方法”を考える時間が設けられていました。ノートに何度も書いたり、パソコンでまとめたりと、子どもたちはそれぞれの方法を試していたそうです。教員は「子どもたちが勉強しないのは、勉強の仕方が分からないからではないか?」と考えていたといいます。テストの実施だけでなく、自分に合った学び方を知ることも重視されていました。

一方、子どもたちはテストの点数を先生に伝えると、その答案をゴミ箱に捨てていたそうです。先生がそれを注意することもありませんでした。「答案を見返し、次に生かすという考え方は、日本ならではなのかもしれない」と、Mさんは振り返りました。

 

”児童主体の学び”とは?

今回の研修を通してMさんが考えさせられたのは「児童主体の学びとは何か」という問いでした。

昨今の日本では”個別最適な学び”や”協働的な学び”が重視されていますが、フィンランドで見た授業は、教員による一斉指導が多かったといいます。教員が課題やグループ学習のテーマを設定し、テストも実施されていました。日本の”子どもの主体性を育む探究型授業”について現地の教員に話すと「そんな授業がこの子たちとできると思う?」という、驚きの反応が返ってきたそうです。

Mさんが現地で聞いた話から見えてきたのは「小学校では各教科の基礎知識をしっかり身につけ、その土台の上に中学校・高校での探究的な学びを築く」という考え方でした。教員が一定の枠組みを用意し、その範囲で子どもたちが考える。子どもが学びの方法を主体的に選択するのではなく、教員の導きのもとで、発達段階に応じて主体性を育む学びが行われていました。

一方、学校行事では子どもたちの主体性が発揮されていました。バザーやクリスマスマーケットでの売上を修学旅行の資金に充てたり、児童会では選挙で選ばれた子どもたちを中心に行事の企画やポスター制作を担ったりと、学校生活について自ら考え、決定に参加する機会が設けられていたそうです。

Mさんは「どちらが正しいということではない」と強調します。日本とフィンランド、それぞれの教育文化の中で大切にされている指導方法を尊重したいと話しました。


Mさん所蔵のフィンランドについての絵本や、フィンランド出身で”SISU”(諦めずにやり抜く力や逆境に立ち向かう不屈の精神を表す独自の概念)の研究学者が執筆した書籍、フィンランドを訪れた日本人教員が執筆の書籍などを会場に展示。

 

フィンランドから見えてきた 日本の教育の強み

現地の教育を学ぶ中で、Mさんは改めて日本の教育についても考えるようになりました。日本には教育に熱心な先生が多く、研修や情報交換を通じて学び続けながら、子どもたちの主体的な学びを実現しようと努力しています。フィンランドを訪れたからこそ「日本の教育の質も決して低くない」と実感したそうです。

その成果はPISA(OECD生徒の学習到達度調査)にも表れており、日本は2025年調査で、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーのすべてにおいてOECD加盟国中1位の成績を収めています。

一方で、日本の教育現場の環境には改善の余地もあります。ICT設備には学校間で差があり、デジタル教材の工夫も個々の教員に委ねられる部分が残っています。また、個人情報保護などの理由で他校との交流授業が難しかったり、一つの教育活動を実施するにも多くの許可が必要だったりするケースもあります。

さらに、行事や委員会活動、休み時間中の業務など、教員や児童一人ひとりの仕事量の多さも課題です。日本の教員にも子どもにも「やることが多い」と感じられる状況があるといいます。

 

先生が安心して教育に向き合える環境へ

こうした経験を踏まえ、Mさんは日本の教育環境への提案として”ICT設備やデジタル教材の充実”、”個人情報に関するルールの柔軟な運用による学校間交流の促進”、そして”人員を増やして役割を分担し、教員同士が信頼して働ける環境をつくること”を挙げました。

また、教員が責任を持って教育に取り組むには”心の余白”も必要だと指摘。休み時間をきちんと休める時間として確保し、学校行事や委員会活動も必要なものに絞ることを提案しました。

発表の最後にMさんは、フィンランドで出会った大切な価値観を紹介しました。

・Think Positive – 何かをするとき、まず前向きに考える。
・Know Each Other – 相手を決めつけず、互いを知ろうとする。
・Respect Each Other – 相手のやり方を否定せず、尊重する。
・Trust – 信頼する。
・Everyone Is Equal – 誰もが平等な立場である。

フィンランドの学校での経験から始まった発表は「どの国の教育が正しいか」ではなく、異なる教育のあり方を知った上で「自分たちはどのような教育をつくりたいのか」を考える機会となりました。


日本でも愛されているキャラクター”ムーミン”と並ぶ、フィンランドの民族楽器”カンテレ”(写真右)。琴のように弦を弾いて音を出すこの楽器をMさんは現地で学び、その成果を当会で披露した。

 

フィンランド教育をめぐる議論

発表後の質疑応答では、フィンランド教育の成果や課題、子どもたちのウェルビーイング、学校と家庭の関係などについて、活発な意見交換が行われました。

Q1. かつてPISAで世界トップだったフィンランドの成績は、なぜ下降したのでしょうか?

Mさんによると、1990年代までのフィンランドは知識を重視していましたが、2000年代前半に生徒主体の教育へと改革し、その頃からPISAのスコアが低下し始めたといいます。

またICTの普及に伴い、スマートフォンやPCの学校への持ち込みを自由にした結果、子どもたちの集中力への影響なども課題に。こうした背景から、2025年8月には学校でのスマートフォン利用に関する全国的なルールが導入されました。

ただ実際には、急な禁止による子どもたちへの精神的負荷を懸念し「持ってきても良いけど授業中は使わないでね」という運用が行われている学校が多いそうです。

Q2. 子どもたちのウェルビーイングについて、現地ではどう感じましたか?

”子どもが自由に生き生きと学ぶ”というイメージがあるフィンランドですが、Mさんがある学校を訪問した際、自己紹介の時に出題したクイズについて子ども同士が話し合っていると、教員が「今は聞く時間だよ」と制しました。以降も同様の場面を何度も目にしたそうです。「子どもたちが本当に生き生きとしているか、単純には答えられない」という率直な感想が語られました。

またフィンランドの教育を理解するには、ロシアやスウェーデンとの関係や、独立に至る歴史的背景を知ることも重要だとの指摘がありました。

Q3. フィンランドでは、保護者と教員はどのような関係にあるのでしょうか?

学校と家庭の間では、連絡アプリによる情報共有や三者面談、学級懇談会などが行われています。保護者が学校活動に参加する機会もあるそうです。また教員を専門家として尊重し、信頼する文化があることも、当会に参加した識者の方よりご紹介がありました。

さらに、フィンランドでは高校と職業教育との間で進路変更の柔軟性がある一方、高校卒業時の全国試験が大学進学に関わります。しかも「大学の卒業試験に合格するよりも、カフェで働く方が難しい」とまで言われるほどの就職難。その状況は業務のデジタル化によってさらに加速し、社会的問題にまでなっているとのことです。

 

理想だけでは見えてこないフィンランド教育

今回の質疑応答で繰り返し浮かび上がったのは、フィンランド教育を”日本より進んだ教育”として単純に捉えるのではなく、その背景にある歴史や社会、そして現在抱えている課題まで含めて理解することの大切さでした。

デジタル教育にも光と影があり、子どもの主体性を重視する一方で、教員が学習環境を整えるために一定のルールを設ける場面もありました。また、義務教育では競争を抑えながら、高校以降は試験や資格が進路を左右するという側面も見えました。

 

その国がなぜ今の教育を選び、どのような課題に向き合い、どこへ向かおうとしているのかを知ることで、私たち自身の教育や社会のあり方を見つめ直すことができる – 今回の意見交換も、そんな”海外を知ることで、日本を考える”時間となりました。

 

関連リンク

インターナショナル・インターンシップ・プログラムス:internship.or.jp/
『海外教育研究会』
・第1回開催レポート(デンマーク編):myeyestokyo.jp/67841
・第2回開催レポート(カナダ編):myeyestokyo.jp/68419

 

My Eyes Tokyo

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