ハイロ ロドリゲスさん(コロンビア)
インタビュー:徳橋功・髙橋武志
構成:徳橋功
ご意見・ご感想は info@myeyestokyo.com までお願いします。
(English article here)
Jairo Rodríguez
外国語指導助手(ALT)/YouTuber/企業向け英語講師

私が本当に愛する“教えること”を通して、心から大切に思う人たちを支えたい。
今年(2025年)初夏にインタビューさせていただいた、デンマークでのインターンで人生を変えた英語教員の髙橋武志さんから、1通のメールをいただきました。
「もしもよろしければ、私の友人の外国人をご紹介したく思いますが、いかがでしょうか。昨年知り合った、コロンビアご出身のALTの先生です」
コロンビアは南米にある、スペイン語圏の国。私たちもこの国出身の方々に何人かインタビューをさせていただいたことがありますが、そこから来た英語の先生・・・?
髙橋さんのメールは続きます。
「最近YouTubeチャンネルを立ち上げ、英会話に役立つ動画をアップされています」
それが、このチャンネルでした!
That Makes Sense – 日本語で「理にかなっている」「筋が通っている」「納得!」を意味するこのチャンネルは、フィリピンご出身の英語講師、ジャヌス エクレオさんと共に、主にオフィスシーンを想定した英語表現を伝えています。
私たちはこれまで、南米出身で流暢な英語を話す方々に少なからずお会いしてきました。しかしハイロさんのように、それを専業にされている方に出会ったことはありません。私たちはまずます、コロンビア出身のハイロさんが”日本で英語を教える”という道に至るまでの経緯をお聞きしたいと思いました。
そしてご対面。髙橋さんからのご紹介を受けてご挨拶したハイロさんは、動画での姿そのままに大変物腰が柔らかい方でしたが、さらに驚いたことに、日本語もとっても流暢。ハイロさんにとっての第3言語で、ご自身の背景について丁寧な語り口でお話いただきました。
*インタビュー@東銀座
昼と夜は別の顔
今は港区内の中学校でALT(Assistant Language Teacher:外国語指導助手)として働いています。これまでにも中央区や目黒区、練馬区、杉並区の小学校や中学校など、これまで約15年間、いろいろな場所で教えてきました。その前は、英語やスペイン語の通訳・翻訳の仕事をしたり、子どもたちに英語を教えたりしました。
これらの経験をもとに、今年新しい挑戦を始めました。それがYouTubeで、主に日本人ビジネスマンに、英語で英語を教えるチャンネル”That Makes Sense”です。
このチャンネルは、ALTの仕事で出会い仲良くなったフィリピン出身の友人ジャヌスと一緒にやっています。私が企画と台本を担当し、彼が動画の編集を担当しています。最初は実験的な感じで、カメラの前で話すのが恥ずかしかったのですが、だんだん慣れてきて、クオリティも上がりましたね。テーマについてはいつも考えていて、カフェにいても、街を歩いていても「これは動画にできるかもしれない」と思うことがよくあります。
2003年に日本に来てから、私はずっと言語に関する仕事をしてきました。それらのきっかけをくれたのは、ロンドンでした。
紳士の国のサムライたち
私は子どもの頃から英語を学んでいました。6歳頃からインターナショナルスクールに通っていて、学校にはコロンビア人以外に、オーストラリア人、アメリカ人、ヨーロッパ出身の子どもたちもいました。授業は英語とスペイン語の両方で行われていましたが、スペイン語の割合の方が多かったと思います。家庭でもスペイン語を使っていました。
インダストリアル・エンジニアリングを専攻していた大学在学中、パートタイムで子どもたちや社会人に英語を教え始めたことがきっかけで、「自分は何かを教えることが好きなのだ」と強く感じるようになりました。それに私は、アメリカ英語よりもイギリス英語の方が好きで(笑)オアシスやブラーなどイギリスの音楽もよく聴いていたので、大学卒業後にロンドンへ。そこで2年間ティーチャーズカレッジ、いわゆる先生になるための大学で、外国語としての英語教育(EFL, English as a Foreign Language)を学びました。
同じ大学に、日本人もたくさん留学に来ていました。子どもの頃『ドラゴンボール』など日本のアニメを見たことがありましたが、友達になった彼らから日本の話をたくさん聞いて、初めて日本に興味を持ちました。
2002年の夏休み、私は初めて東京に行きました。まさに”WOW!”でしたね。街の雰囲気や人、彼らが話す言葉、すべてがそれまで触れたことがないものばかりで、大きなインパクトを受けました。
ロンドンに戻った後、日本人の友達から「日本で仕事したらどう?」と言われました。確かに私が学んだことは、イギリスではほとんど活かせません。さっそく私はインターネットで求人を探しました。しかも私が狙っていたのは、楽しい思い出がある東京の会社です。こうして私は、大手出版社が運営していた子ども向けの英語教室に応募し、合格。そして2003年に来日し、英語講師として働き始めました。当時、日本語はひらがなとカタカナを少し知っていた程度で、言語の壁はとても大きかったですね。
その男、元軍人につき
入社した英語教室で約8年間、東京のいろんな場所にある教室で子どもたちに英語を教えました。仕事は本当に楽しかったですね。コロンビアの子どもたちと比べると、日本の子どもたちは話を聞く態度がとても良く(笑)その違いに驚きました。
その後、通訳の仕事に挑戦しました。実は18歳のとき、徴兵制度でコロンビア軍に、通訳として所属していた経験があったのです。
軍が必要としていたのは、英語とスペイン語が話せる人材。私の街から選ばれたのはたった2人で、私はそのうちの1人として、エジプトにある”多国籍軍監視団(Multinational Force and Observers、略称MFO)”で1年間、通訳をしました。これが私の最初の本格的な通訳経験で、そこでは医療通訳も行いました。それがすごく楽しくて「日本でも通訳をやってみたい!」と強く思いました。
日本での通訳では、国際会議やプレゼンテーションを担当しました。英語で行われるカンファレンスやプレゼンテーションを、スペイン語話者に対して、ウィスパリングを含めた通訳をするというものです。私がかかわったジャンルは本当にさまざまで、事前に資料を読み込み、専門用語やそれらの背景を徹底的に勉強する必要がありました。スペイン語と英語は、もともとラテン語から生まれたものだから、使う言葉に共通点が多く、それに助けられたこともありました。
通訳・翻訳の仕事は、約2年間続けました。その間は、ほぼ毎日のように仕事があり、夜も眠れないほど忙しい時期も。だから体力的にも精神的にもかなり疲れました。そこで通訳・翻訳の仕事から一度離れ、再び教育の現場に戻ることにしました。「やっぱり自分は、教える仕事が好きなんだ」と思い、小学校や中学校で英語を教えるALTの仕事に就きました。東京都内のいろんな小・中学校を周り、現在に至ります。
学校給食はとても美味しい。コロンビアのインターナショナルスクールは、自分で食べたいものをお金を払って買うカフェテリア形式でした。日本の給食のように栄養バランスが考えられている食事は新鮮です。生魚が苦手で食べられなかった寿司も、今では大好き。ただ、納豆は今も無理(笑)どうしても慣れませんね。
もうひとつの別の顔
最初にお話したように、私はYouTuberとしての活動もしています。YouTubeを使って何かやりたいという気持ちがありましたが、具体的なアイデアはなかなかありませんでした。
ただ、以前から”和製英語”には強い興味がありました。日本で当たり前のように使われている言葉が、実は英語ではまったく通じない。そのズレがとてもユニークで面白いと感じていたのです。たとえば駅でよく見かける「SuicaやPASMOを改札機にタッチしてください」も、英語では理解されにくい。英語ではタッチではなく”Tap(タップ)”です。あとよく聞くのが”プラスアルファ”(笑)こうした言葉は、日本人にとっては自然でも、外国人にとっては不思議な表現です。その面白さを伝えたいと思い、そのアイデアに賛同してくれたジャヌスと一緒にYouTubeチャンネルを立ち上げました。
今は、TOEICやオフィスでの英語など、いろんなテーマで動画を作っています。ターゲットは主に日本人ビジネスパーソンで、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)のA1(初級者)からC2(最上級者)まで、動画ごとに視聴者のレベルを想定して作っています。ほぼネイティブレベルのC2の人まで私たちのチャンネルを見てくださっていることが分かった時は驚きましたね。
私は昔から、企業向けに英語を教える仕事を教える会社を作りたいと考えていました。実際に外資系の自動車メーカーの社員さんに英語を教えたことがあります。ただそれを、継続的な事業にするのは簡単なことではありません。だからその準備として、YouTubeチャンネルを立ち上げ、私の教え方や発想を知っていただきたいと考えました。
そして今年5月、ついにジャヌスと一緒に、企業向け英語指導を行う会社”ProSpeak”を立ち上げました。

ハイロさんがジャヌスさんと経営する会社”ProSpeak”のホームページ
企業で英語を必要としている日本人をサポートしたい – そう強く思っています。そして教育と創造力を通じて、実生活でもっと自信を持って英語を使う人を増やす。それが私の究極の夢ですね。

ハイロさんにとって、東京って何ですか?
A big city that offers a lot of things, never sleeps, and is constantly changing. I think Tokyo always welcomes foreign people.
(たくさんのものを提供する、眠らない、常に変化し続ける街です。東京はいつでも外国人を受け入れる懐の深さを持っている場所だと思います)
But it could improve to be a really welcoming city to foreigners, because foreigners still have trouble getting around Tokyo, mainly because of the language.
(ただ、もっと外国人を受け入れる街になれる余地が、東京には残っています。なぜなら今も、主に言語面で、東京の街を歩く時に困っている人たちがいますから)
でもご安心ください。そんな東京のために、私たちのYouTubeチャンネルがあるのです – That Makes Sense!
ハイロさん関連リンク
YouTubeチャンネル ”That Makes Sense”:youtube.com/@ThatMakeSense-j5
ProSpeak(ハイロさんがYouTubeパートナーのジャヌスさんと運営する企業向け英語プログラム):prospeak-corporate.com/jp

