外国籍社員の活躍には早期の支援体制と社外コーチ/メンターが鍵!

櫻木友紀
コーチ/メンター/キャリアコンサルタント/研修講師

 

侍 VS 黒船

医薬品は日米欧で同時に開発されることが多く、早期から化が進んでいる業界ともいえます。幼少よりマルチカルチャーの世界で生きてきた私は、新卒で製薬業界に足を踏み入れた頃から、何かしらの形で貢献できないか考えていました。

私が最初に勤務した日系製薬会社は、当時すでに欧米での市場開拓に動いていました。ところが、現地法人スタッフの多くは、明らかに本社を動かし、自分たちの実績やステップアップに繋げたいと考えている様子でした。一方で日本本社のスタッフは、そんな彼らを“黒船”のような脅威として抵抗したり、論理的な言いっぷりに言われるがままになっていたり。真に双方の“橋”となれる存在が不足していました。

その後転職した米系製薬会社では、立場が逆転。日本法人から本社に声を届けるも、その声がなかなか通らないという現象を目の当たりにしました。それは市場規模が要因ではありません。むしろ日本市場は彼らにとって大きなものでした。しかし文化の違いが厳然として存在していたため“日本は特別な国”“日本人は自分たちと違う人たち”“日本人は細かなことをゴチャゴチャ言う”とみなされていた節があったのではないかと思うことがしばしばありました。

例えば本社が開発した薬の投薬データを世界各国で収集する際「日本人を対象に集めたデータを本国での開発に適用すべきか否か」という議論が起きました。もちろん日本法人側は、そのデータの正当性を根拠を持って主張しますが、それでも本社側にとって拭い難い“漠然とした不安”が残る ― そのような状況できちんと相手に交渉したり、お互いの齟齬を解消したりできる人材が日本側に少なく、語学も文化も理解する私が交渉係となることも多々ありました。

結局、不安を感じている点がそもそも違っていたり、論点がずれていたり、その場で決断できなかったり、お互いが真意を汲み取れず、生じた溝を埋めるのに時間がかかっていただけのこと。 ひとたび溝が埋まり、本社側と日本法人の相互理解が深まると、漠然とした不安は一転。絶対的な信頼関係を土台としたが強みとなり「様々な困難にもこのチームであれば乗り越えられる」という信頼へと変わっていくことも何度も経験してきました。

お互いの主張を言い合い、どちらかに寄せようとするのではなく、より早く理解しあい、同じ目標に向けて歩み出せたら本来のビジネスをより最大化出来るのに。そんなことを考えるようになりました。

 

日本は外国人のやる気を無くす?

独立後、私はコーチやメンター、研修講師として、日本企業に勤務する外国籍社員にお会いする機会が増えました。そして、“何とも言えないカルチャーギャップ”に関する悩みを聞くようになりました。

特に外国籍社員からは「入社時に“たくさん提案をして欲しい”“違う視点を入れて欲しい”と言われ、ワクワクしていた。でも実際に提案をすると相手の表情が曇る」「企業側から“日本人化”することを期待されているように思える」という声も。この結果、「何か言うとすぐに“空気を読んでいない”と言われるので、発言を求められるまで何も言わないことにした」という人も出てきていました。外国人を雇用するのであれば、それは“企業内”を推進することにもつながるはず。新たなビジネスチャンスのキッカケになるかもしれないのです。本来なら“日本人化”を強いるべきではありません。それにも関わらず「日本に合わせて欲しい」の暗黙のカルチャーの結果、自分の本領を発揮できずにいる外国籍社員が少なくないことが分かりました。もったいない!

このようなケースが生じる要因は、主に2つあります。1つは本社側の、日本人や日本文化への理解度が足りなかったこと。もう1つは日本人側の、ディベートやディスカッションに代表される“自分たちの考えや行動の意味をきちんと言語化する”という場や習慣の無さです。

これらが理由で優秀な人材を失ってしまうことや、多様な視点を取り入れられなくなることは、日本企業にとって非常にもったいないことだと感じます。しかも現在は、国境を越えた企業合併も珍しくなく、日本企業が一夜にして外資系企業になることさえ十分起こり得ます。コロナ禍でオンライン化が進み、企業との連携や海外顧客に目を向けた企業も増えてきています。そうなると、相手のニーズを理解し、新たなチャンスを作り出し続けるためにも、外国籍社員が活躍できるづくりも必要になってきます。

優秀な人材が日本企業でも活躍できること。日本でのキャリアアップにワクワク出来ること。外国籍社員がそれぞれの国に戻った時には、日本の良い理解者であり、ファンとして支えてくれること。これらは今後の日本にとっても重要なことではないでしょうか?

このようなことを強く思った私は「まずは外国籍社員に向けて、社内ではなく社外の安心して話せる相手となり、文化や考え方の差を埋める支援者となれたら」と思うようになりました。

 

「それもアリかも!」とまずは受け止める空気を生み出したい

私自身、幼少期から高校時代までアメリカで育った帰国子女です。日本帰国後は、何となく自分が周囲から“浮いた存在”であるように感じていました。それは私自身が明らかに他の人たちと違う部分を持っていたのか、それとも帰国子女ということで周りから線引きをされたのか、どちらが理由なのかは分かりません。しかし仕事でも、上司から「書いていないけれども、これはこういう意味(行間を読みなさい)」と言われて「書かれていないのに、何で推測が正しいと思うの?」と不思議に思ったり。「チャレンジする前から“難しい”とすぐに判断するのは何故だろう?」と違和感を抱くこともしばしばありました。まさに“WHY, JAPANESE PEOPLE?”(笑)。

ところが、長く日本で仕事を行い、子育ても経験する中で、私なりにこれらの文化にはちゃんと理由や背景があること、そしてその良さも分かってきました。

これらの経験から、私は日本で仕事をしている外国籍社員の姿を、つい自身と重ねてしまうのです。私と同じように理由が分からない「なぜ?」に不安になったり苦しくなったりして、せっかくの強みが活かせていない人たちは、きっと少なくないのではないか、と。

私が理想とするのは「それもアリかも!」と新たな視点やアイディアを、まずは受け止める組織文化が広がること。自分たちの意見や視点を伝えたい時に伝えられるような雰囲気が日本企業に広がってほしいと思っています。その文化が、コロナも含め、未知のことに出会った時に乗り越える力を与えると思っています。

そのために、外国籍社員に対しては、まずは初期の支援体制が重要となると思います。日本は「仕事をしながら徐々に覚えてくれればよい」という風土がありますが、外国籍社員の方々には、最初が肝心。数々の「なぜ?」を言語化し、自分のことも周囲のことも理解すること。安心して意見を出せるような環境を整えること。その上で「ではどうしたら良いのか」を色々な視点から考えることが大切です。特に、日本の組織を率いる外国籍マネジメントは、考えを言語化することに慣れていない日本人メンバーの強みをどう出していけば良いか悩むことも多く、相談先を求めています。このため、考えを整理し、時には助言し、支援するコーチやメンターの存在が欠かせないと思います。

日本はまだ社外に相談者を持つということが一般的ではありませんが、評価と繋がらない社外の専門家と話すことには大きな安心感があります。実際、私が経験したクライアントさんたちは、「初めて心の底から知りたかったことを話せた」「日本の組織運営について相談者が欲しかった」「今後のキャリアのことも話せて、道筋が明確になった」と確実に一歩踏み出せた様子を見せています。

繰り返しになりますが、日本に魅力を感じ、日本で働く外国籍社員が本人の強みを発揮して仕事が出来るようになるためには、支援体制の整備が重要です。その最初の支援体制を充実することが結果として望まれていた“新しい視点を入れる”“新しいアイディアを提案してもらう”ことにも繋がっていくと思います。

 

変化に強い、多様性を尊重する組織を作る。
日本のファンを作り、日本がキャリアアップの場所となる。
そんなことに、私も貢献できたらと思っています。

 

版はこちらから

 

櫻木友紀

小学校4年生から8年間を米国で過ごす。 東京理科大学卒業後、日系製薬企業にて欧米向け医薬品開発に従事。退職し別業界を見るも、身内の病気を機に製薬業界に復帰し外資系製薬企業へ。医薬品開発業務と並行し500人以上在籍する部門全体の人材育成計画のリーダーとなり、人材育成分野に興味を持つ。
管理職を経験した後、医薬品のグローバル開発の促進を目指し規制当局の国際部門に転職。退職後、キャリアコンサルタント資格を取得し2018年に独立。コーチや向けキャリアメンターとしても活躍中。大学生の母。

 

櫻木さん関連リンク

Natural Step: naturalstep-sakuragi.com/
キャリアコンサルタント 櫻木友紀 – Yuki Sakuragi: facebook.com/yuki.sakuragi.career/
インタビュー記事(キャリコンプレス): caripo.jp/press/interview-sakuragi-yuki1

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

外国籍社員の活躍には早期の支援体制と社外コーチ/メンターが鍵!」への1件のフィードバック

コメントは受け付けていません。