売上1億円超の企業も出現!社会課題の解決に挑む起業家を育てる街・神戸

取材&構成:徳橋功
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日本各地でスタートアップの拠点となる都市が次々に生まれています。
世界都市・東京、さらに大阪、福岡、名古屋、仙台などがスタートアップの支援に積極的に取り組んでいます。

日本のスタートアップシーンを語る時に忘れてはならない場所が、もうひとつあります。都市とが美しく調和する街・です。

古くからに開かれた港を持つ影響か、神戸の人々は進取性に富み、新しい文化をいち早く取り入れてきました。その気質は行政にも反映されており「新しいアイデアや技術を持ち、これからの時代を作っていく人々の力が経済成長に欠かせない」と、神戸市は2016年よりスタートアップ支援に力を入れています。

【神戸市のスタートアップ支援策】

500 Startups Kobe Acceleratorを拠点とする世界的シードファンド「500 Global(旧500 Startups)」とパートナーシップを結び、2016年より開催。
Urban Innovation Kobe:地域および行政の課題を、スタートアップと市職員が協働して解決する国内自治体初の取り組み。
SDGs Challenge:神戸市とUNOPS(国際連合プロジェクトサービス機関)が連携し、SDGsの課題解決を目指すスタートアップ・中小に対し、事業成長や海外進出をサポートするプログラム。
※UNOPSは2020年11月、世界3番目の拠点「UNOPS S3i Innovation Centre Japan(Kobe)」を神戸に開設。

これらの施策が奏功し、神戸から”ソーシャルスタートアップ”と呼ばれる新興企業が生まれています。その代表が、2021年10月に2億円の資金調達の完了を発表した”株式会社Compass”です。


株式会社Compass 資金調達実施発表記者会見
2021年10月18日@EGG JAPAN(東京都千代田区)

 

ソーシャルスタートアップ とは”市場の失敗”(market failure: 破壊、貧富の格差、地域格差など社会的に望ましくない状態)の解決にテクノロジーで挑むスタートアップのこと。一般的に収益を生みにくい分野とされている一方、神戸市はUrban Innovation Kobe やSDGs Challenge などの開催を通じ、これらの企業を支援してきました。

2020年3月、内閣府は「地域就職氷河期世代支援加速化交付金」対象事業を全国自治体に向け公募。
1993年~2004年に学校を卒業した人々が就職氷河期世代と呼ばれ、実際に希望する就職ができなかった人々は全国で約90万人にも及びます(総務省統計局調べ)。

神戸市含め兵庫県下には就職氷河期世代支援専門窓口が7か所開設。しかし利用可能時間が平日の日中に限られるため、神戸市は「相談業務や企業とのマッチングにSNSやAIを活用する事業」などで交付金対象事業に応募し、採択されました。そして市はパートナーとなる企業を公募。Compassが手を挙げ、神戸市との提携に至りました。

Compassは、主に就職氷河期世代の就労支援に取り組むスタートアップ。ひきこもりやニートと呼ばれる人たちの再就職を支援した経験を持つ大津愛氏が2017年9月に設立しました。


株式会社Compass代表取締役 大津愛氏

中低所得者層(年収500万円以下)に特化したマッチングサービスをLINEで展開。利用者はチャットボットによるキャリアカウンセリングや、ビデオ通話を通じたキャリアコンサルタントへの相談が可能です。また相談内容をもとに、AIによる就職先紹介サービスを求職者に提供。就職氷河期世代以外にも、の影響で雇用契約の更新がされなかった人やひとり親を支援しています。

「オンラインで絶えずつながることで、彼らに対し常に支援の手を差し伸べられることが、私たちの強みです」(大津氏)。

神戸市を皮切りに兵庫県宝塚市、京都市、大阪府堺市など、主に関西圏の自治体で採用されているCompassのサービス。「日本からワーキングプアを無くす」「誰もが夢を見られる社会へ」をスローガンに掲げ、さらなるサービス拡充や連携先自治体増加の早期実現を目指す彼らは、資金調達へと動きます。中でもソーシャルスタートアップに積極的に投資を行う「はたらくFUND」「マネックスベンチャーズ」には、大津氏自ら投資を呼びかけたそうです。

●はたらくFUND:子育てや介護、新しい働き方などの社会課題に取り組むスタートアップに投資。
「Compassが取り組む課題解決と事業成長性がリンクしていること、急成長しながら同時に社会課題を解決できるという点に強く魅力を感じ、出資させていただきました」(加藤有也ディレクター)

●マネックスベンチャーズ株式会社:人々の生活をより良いものへと変革する、インターネットを活用したサービスに投資。
「私のキャリアの出発点は人材業界。必要とする人に必要なサービスが行き届いていない現状を強く感じてきた。Compassが手がける事業はまさにそのど真ん中にあり、私がかつて感じていた課題の解決にCompassと共に挑めるのは、非常に嬉しく思います」(和田誠一郎 代表取締役)

神戸市が過去に開催した500 Startups Kobe Accelerator 2017、およびSDGs Challengeに参加し、事業の立ち上げや拡大を遂げたCompass。2021年8月にはサービス利用者数が1万人を突破し”収益を生みにくい”とされる分野を事業領域にしながら年間売上は1億円を超えようとしています。

 

数々のソーシャルスタートアップ支援策を企画・実施してきた神戸市企画調整局の武田卓氏は、力強く語ります。


神戸市企画調整局 新産業課長 武田卓氏

「地域が抱える課題を技術で解決するソーシャルスタートアップが生まれることは、神戸市の実利につながります。ソーシャルスタートアップが次々に生まれる都市を目指していきたいですね。一方で私たちは、海外の育成機関などと協業する間に、スタートアップ支援のノウハウを蓄積してきました。今後5年間で1000社、年間200社のスタートアップを支援していきたい」

神戸が”ソーシャルスタートアップの聖地””日本を代表するスタートアップ・シティー”と呼ばれる日は、そう遠くないかもしれません。


はたらくFUND・加藤有也氏、マネックスベンチャーズ・和田雄一郎氏と共に

 

関連リンク

株式会社Compass:corp.choice-career.com/
神戸市のスタートアップ支援(神戸市HP内):www.city.kobe.lg.jp/a14333/business/sangyoshinko/shokogyo/venture/newindustry/index.html

*英語版はこちらから
英語版校正:ホフ・ジェニファー・アンドレア

 

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