後藤誠さん(イギリス~日本)

インタビュー&構成:徳橋功
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Makoto Gotoh
留学会社代表

 

不登校生たちが海外で自信を取り戻し、成長し、日本社会に復帰する – これが私たちのゴールです。

 

 

ある日、私たちが何気なくSNSを眺めていると、ある留学会社の動画が流れてきました。

「不登校からのリスタート留学」-

今から約10年前、My Eyes Tokyo(MET)編集長の徳橋は、不登校や引きこもりの若者たちの社会復帰を支援するNPOを手伝っていました。彼らへのカウンセリングは有資格者の心理カウンセラーが行う一方、徳橋や他のボランティアは、若者たちの気軽な話し相手役を担当。その交流の中で、徳橋はある種の”居心地の良さ”を感じました。それはきっと、彼らの純粋さや、邪心の無さに触れたからかもしれません。彼らこそ、社会に受け入れられるべきではないか・・・

そして時は流れ、そのNPOとは全く異なる手法で、不登校生たちを支援する人々の存在を、私たちは知りました。しかも彼らは、不登校生を海外の空気に触れさせることでリスタート、つまり”やり直し”を図るのです。社会人になったばかりの頃の徳橋も、海外に出ることでキャリアと人生のリスタートを目論んだ経験があるだけに、その会社の狙いも、その会社のプログラムに惹かれる方々の気持ちも、分かる気がしました。

留学を通じた不登校生支援を始めたきっかけや、続けてきた情熱の源を探るべく、私たちはその留学会社”WSOセンター”さんに、取材を申し込み。ご快諾いただき、実際にお会いした代表の後藤誠さんは、私たちが恐縮するほどの腰の低さで、ゆっくりと丁寧に、しかし熱を込めて、時に無礼に思われかねない私たちからの問いにさえ、真摯に答えてくださいました。

*インタビュー@WSOセンター(港区)

 

”本来の自分”に出会う留学

弊社は1991年設立の”ワセダスタディオーバーシーズセンター”(Waseda Study Overseas Centre)という学習塾を前身としていますが、”WSOフリースクールセンター”という名称で、不登校生に勉強を教えるフリースクール事業も並行して運営していました。その当時から「海外に行ってリフレッシュしよう」と呼びかけていたことが、留学事業に発展したという経緯があります。そのような背景から、弊社は不登校生への進路指導や、受験に向けたカウンセリングにも力を入れています。

設立以来、約2,500人の生徒たちが私たちのもとから、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドといった英語圏5ヵ国に飛び立っていきました。そのうち、8割以上を占めるのが不登校の生徒です。残りは不登校ではないものの、手厚いサポートを提供しているという弊社の評判を聞いて利用する生徒で、人間関係への不安を抱えるなど、全体的に引っ込み思案なタイプが多い傾向があります。

留学後の進路として、そのまま現地の大学に進学する子はいるものの、それは全体の1~2割程度。8割以上の生徒たちが日本の大学に”帰国生入試”を受験して入学します。意外に思われるかもしれませんが、日本の中学や高校で挫折したとしても、大学では厳しい規則から解放され、履修する科目を選択でき、入学後の交友関係や居場所なども自分で自由に見つけられます。また学生の中には帰国子女や海外からの留学生といった、日本の学校以外で教育を受けてきた人たちもいたりと、日本国内とはいえ比較的馴染みやすい環境です。

留学先として選ぶ国で見られる、生徒たちの性格の傾向があります。イギリスを選ぶのは、自分の本来の学力に自信を持ち、海外での再挑戦への意欲が強い子。オーストラリアは明るく陽気な雰囲気を好む社交的な子が選ぶ傾向がありますね。不登校でも社交的な生徒はいて、彼らは学校の勉強についていけなかったり、クラス全体の輪に入り込めない一方、週末は友達と外出したり、友達の家に遊びに行ったりします。ただいずれの国に行く子どもも「昔の自分を取り戻したい」「本来の自分を取り戻したい」という気持ちが強いように感じます。

不登校生をサポートする弊社スタッフの中に、不登校が身近にいたという人はいます。一方で、何人かは不登校経験のあるスタッフもいますが、全体としては多いとは言えません。総じて言えるのは、どのスタッフも弊社の教育理念や考え方に共感していただき、そのうえでこの仕事を続けているということだと思います。


WSOセンターさんの公式ホームページ

 

夢も希望も理想も持たず

私は今から約25年前、2000年ごろに弊社に入社しました。もともと不登校だった2人の息子さんをイギリスに留学させて再起をはかり、帰国後に日本の大学に入学させた経験を持つ平井啓一という人が弊社を設立。私は彼の遠い親戚にあたり、大学卒業の頃に平井から声をかけられたのが入社のきっかけです。

実は私自身も、留学をしていたことがありました。大学時代、場所はイギリスです。断続的に現地の語学学校で英語を学び、トータルで約1年間滞在しました。大学時代に留学生と交流したり、一度イギリスに行ってイギリス人の面白い側面を見たりしたことが、その後も現地に行き続けた背景です。

ただ私は、大学卒業後に教育業界に進むことなど全く考えていませんでした。留学経験も、特に入社の動機になったわけではありません。「いつかは自分で商売しようかな」と漠然と考えていた私にとって、親戚の仕事を経理などの雑務面で手伝うことが良い勉強になるだろう – そんな軽い気持ちで、私は入社しました。

 

子どもたちに向き合い始める

当時から、弊社を通じて留学する子たちの大半が不登校という状況。しかし社内は通常の留学エージェントのように運営されていたため、彼らへのサポートが十分ではありませんでした。当時出版していた本では不登校について触れられていたものの、入社するまで弊社が不登校の生徒さんのサポートに力を入れている会社だとは、私自身全く知らなかったほどです。

そんな中で、出発前に相談に来る生徒や、一時帰国中に訪ねてくる生徒と話す機会がありました。雑談しながら悩みや要望を聞くうちに、親御さんの前では言えない本音や家庭の事情を打ち明けてくれることも多く、その声を丁寧に受け止めて支援できる体制をつくりたいと感じるようになりました。

そこから徐々に業務の中核に関わるようになり、当時の代表である平井とも夜にお酒を飲みながら生徒たちの話をしたりする中で、不登校生への支援に本腰を入れるように。経理や雑務だけだったはずが、いつしかカウンセリングが私の主な仕事となり、多くの生徒と関わるようになっていました。

しかも、かつての留学先だったイギリスで得た知識や、イギリス人と交流した経験が役に立ったのです。イギリスへの留学を希望する生徒が多く、現地の生活やイギリス人の考え方、教育制度について詳しく伝えることができました。またオーストラリアやニュージーランドもイギリス型の教育制度に近いため、それらの国々に行く生徒たちにもアドバイスをさせていただくことまでできたのです。

 

”不登校生のリスタート”で会社もリスタート

私は不登校生のためのサポートシステムを整えることに力を入れ、海外の現地スタッフとも話し合いながら仕組みづくりを進めました。何度か「そろそろ潮時だと思う」と伝えても、スタッフから「今抜けられると困る」と言われ続け、身を引くタイミングを失い、最終的には代表を任されるまでに。川の流れに従ううちに、気づいたら今の立場になっていたという感覚です。 私が入社して5〜6年経った頃から、社内の雰囲気は大きく変わり始めました。「不登校生を海外に送り出すだけではなく、海外で自信を取り戻し、成長し、日本社会へ復帰するまでをサポートする」という明確なコンセプトを、弊社は持つようになったのです。

そして私が代表に就任させていただいた後”リスタート留学”を掲げました。”リスタート”という言葉は、その前に打ち出していた”不登校からの再起”という目標を、より洗練させた表現として選んだものです。生徒たちが海外での実体験を通じて成長を実感し、本来の自分の姿を取り戻し、不登校という問題を克服するところまで持っていくことを、私たちの事業のコンセプトとして明確に打ち出しました。


WSOセンターさんの根幹を成す”リスタート留学®”紹介ページ。不登校からの再起に対して留学が効果を発揮する理由や、その意義が綴られている。※クリックすると当ページに遷移します。

 

”堂々と日本に帰国”を実現させるために

このコンセプトを実現させるためには、丁寧で、不登校生の気持ちを理解したサポートだけでは不十分です。弊社は「日本で行く場所が無いなら海外に行こう」と呼びかけているわけではありません。海外で日本人以外の友達を作り、いろんな活動に参加するなどの成功体験を積み重ね、自分のことは自分で責任を持って考えることができるようになって、日本に帰国する – そのレベルまでの成長を目標として、日本と現地のスタッフは生徒たちを支える必要があるのです。

弊社がサポートさせていただく生徒たちの留学の動機は”親からの勧め”と”本人の希望”が半々程度。「留学することが夢だった」という子もたくさんいますし、親から勧められるうちに「自分には留学が一番合っているかも」と気づく子もいます。前向きな子は海外での経験を成長につなげています。

多くの子たちは「日本では得られないものを海外で獲得して、人生を挽回したい」という思いを持っています。そのために英語力を身につけて自分の武器にすることや、日本の難関大学に合格することなどを目標にしています。その原動力は「自分を認めてほしい」という、強烈なまでの承認欲求です。

私やスタッフたちは、彼ら彼女たちの目標や、その達成度を都度確認し、初心を忘れさせないように気を配りつつ、刺激をし、成長の度合を客観的な数値で示し、本気で認めたり褒めたたえたりしながら、日々支えています。


提供するプログラムの紹介や、留学生たちの現地での様子、実際の留学生の声を知ることができるWSOセンターさんのInstagramアカウント。

 

”機会均等”は最大の課題

一人でも多くの不登校生たちに海外を知ってもらうために、留学の機会を提供したい – その思いは変わらず持ち続けています。しかしその最大の壁は”費用”。私自身、入社以来ずっと課題として考えていることです。

留学への意欲があっても資金が不足し、現地の高校を卒業させるどころか、3ヶ月程度の短期留学が限界というご家庭もあります。各国の奨学金制度を調べても、高校卒業までをサポートするものはありません。しかも近年の円安や、現地の物価高のために留学費用はさらに高騰し、一般家庭には現実的に難しい状況です。

弊社には”お試し留学”や”チャレンジ留学”など、数週間程度の短期留学プログラムもご用意しています。しかしこれらは、将来の長期留学への参加を前提としているものです。実際にお試し留学への参加を通じて長期留学に興味を持っていただいたものの、ご家庭の事情で断念されたケースもあります。

コロナ禍では、国内で代替プログラムを作ろうと模索したこともありました。一方で国内のインターナショナルスクールは学費が非常に高く、解決策になり得ません。「留学に行きたくても行けない」という悩みにどのように応えるかは、今後も取り組むべき大きな課題です。

 

誰かの力になること – 私が生かされている理由

私は、特に大きな目標や理想を掲げてこの仕事を始めたわけではなく、流れに身を任せる中で、気づけば関わるようになっていました。続けるうちに自分にも役に立てることがあると感じ、誰かの力になれ、明るく元気に、ハッピーな気持ちにさせることができる限りは続けようと思うようになりました。それが”私が生かされている理由”だと思いますし、言い換えれば、お役に立てなくなったときが私の引き際だと考えています。

目の前の一人ひとりと向き合い、その成長を見守る – それが私にとっての理想です。弊社のメインは留学事業であるものの、旅行業や観光業ではなく”教育業”だと考えています。不登校で悩む子たちが自信を取り戻したり、将来につながる力を身につけて成長する姿を見ることが、私にとって何よりのやりがいです。

 

子どもたちが成長して笑顔を取り戻し、それを親御さんたちが喜んでくれる – これこそが、私にとって一番の喜びなのです。

 

後藤さん関連リンク

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My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー