二見茜さん

インタビュー&構成:徳橋功
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Akane Futami
医療機関研究員

撮影:清水健二さん

 

 

 

 

 

世界中から日本に来た人たちが安心して医療機関で受診できるような環境を整えたい。

 

 

 

 

 

 

近年、日本を訪れる外国人観光客は増加の一途を辿っています。2017年は過去最高の2869万人を記録しました(参照:日本政府観光局 2017年 訪日外客数(総数))。海外から日本に来る人たちのためのインフラとして、宿泊施設や飲食店、鉄道などが真っ先に挙げられると思いますが、もうひとつ絶対に忘れてはならないものがあります。

それは“”。つまり海外から来た人たちに対する病院などの受け入れ態勢の整備です。医師や看護師、病院受付などスタッフとのコミュニケーションを円滑に進めるための医療通訳、さらには病院に入院することになった外国人たちに提供する病院食の問題などです。今回は、インバウンド(訪日観光客誘致)に関する報道であまり表に出てこない、しかし大変重要なこの問題に真正面から取り組む一人の日本人をご紹介します。

二見茜さん。東京都新宿区、早稲田大学そばにある総合医療機関“国立国際医療研究センター”に勤務し、医療機関の外国人患者受入れや移民・難民の健康問題、医療通訳の研究に取り組む研究員として活躍しています。しかし二見さんが現在の仕事に至るまでに、転職や難民キャンプ派遣など、大変な紆余曲折がありました。普通の人なら通ることはめったに無い道を通りながら、二見さんは世界中の人たちと触れ合い、そしてついに天職に出会いました。

様々な理由から日本という異郷にやってきた人たちを、ふんわり優しい笑顔で包み込む二見さんのLong and Winding Roadを、皆さんと一緒に辿っていきたいと思います。

*インタビュー@国立国際医療研究センター(新宿区)

*撮影者および提供者クレジットの無い写真:二見茜さん提供

 

世界中の人たちに恩返ししたい

国立国際医療研究センターでの勤務は、今年(2018年)で6年目を迎えます。最初の2年間は看護師として勤務。その後私は、あとでお話しする前職や海外での医療現場での経験などを考慮されてか、この病院に新設された国際診療部で約2年間、外国人医療コーディネーターとして勤務することになりました。

医療コーディネーターになってから、私は様々な国の人たちに毎日のように接しました。旅行者もいれば、地域にお住まいの方、大学や日本語学校の留学生など、いろいろな人が来院しました。私の中に、あらゆる国で経験してきたことを活かせているという充実感がありました。

コーディネーターとして仕事をする傍ら、2016年4月から専門職大学院で医療政策を学び、昨年4月からは当院の研究員として、医療機関の外国人患者受入れや移民・難民の健康問題、医療通訳の研究をしています。研究の一環として、海外の医療機関での多文化・多言語対応を視察したり、医療従事者や医療通訳を対象とした研修をしています。

私はこれらを通じ、旅行者であれ住民であれ、日本にいる外国人が安心して医療機関で受診できるようなインフラを整備していきたいと思っています。それは強い使命感というより、むしろ私がこれまで海外でいろんな人たちから受けた親切や、おもてなしに対するお返しの気持ちなのです。

 

飛び込んだ難民キャンプ

私はもともと旅行や海外の文化が好きで、子供の頃から世界の文化や宗教に興味を持っていました。それに加えて人と接する仕事に興味があったため、学校卒業後は航空会社に入社。仕事やプライベートでいろいろな国に行くうちに、現地で生活している人たちのことや貧富の差が気になるようになり、国際協力や開発途上国支援の仕事に関心を持ち始めました。しかし、私にはその仕事に必要な資格も経験もありませんでした。

そこで考えたのが看護師でした。その資格を取得すれば海外でも仕事がしやすくなるし、日本でも長く働けると思いました。その後アフリカで医療支援をしていた人の本を読み、会社を辞めてその方が教授を務めていた看護大学に入学しました。

私は、その教授に就いて学びました。彼女は「最終的に卒業できれば良いから、まずはいろいろな経験をしなさい」とおっしゃるような方。だから私は、在学中はアルバイトでお金を貯めては、英語も日本語も通じないところに一人で行き、現地の家にホームステイさせていただきながら、ボランティアやインターンとして開発途上国の医療現場に飛び込みました。

また、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のヨルダンオフィスでのインターンも経験。ヨルダンでは、首都アンマンにあるパレスチナ難民キャンプで難民女性のドメスティックバイオレンス問題について、彼女たちへのインタビューなどを通じ調査研究を行いました。


パレスチナ難民キャンプにて(ヨルダン 2012年3月)

 

おもてなしのKFC

そのような折に、現地の家庭料理をいただく機会に恵まれました。日本の医療機関であれば、患者さんのご自宅でお料理をいただくことはあり得ません。しかし難民キャンプでは、いろいろなご家族から「ご飯を食べにおいでよ」と言われました。そこでオフィスの上司に相談したら「それは良い機会だから是非行きなさい」と言われました。

糖尿病患者を抱えた難民のご家族に招かれた時のこと。日頃から診療所のスタッフが食事指導を行っていたのですが、私が訪ねるとテーブルにケンタッキーフライドチキンが並んでいました。アメリカや日本ではファーストフードですが、難民の人たちにとってはごちそう。「せっかく日本人が来るなら、良いお肉を食べさせてあげたい」というおもてなしの気持ちだったのです。

難民以外にも、ヨルダンオフィスの同僚たちからご自宅に招かれ、それぞれの故郷の食事を振る舞ってくれました。そんな時に私は彼らから作り方を教わったり、逆に私も日本の巻き寿司やお菓子を作って持って行ったりしました。職場での朝ごはんにも私が作ったものを持って行き、同僚たちとシェアしていました。

 

外国人医療の現場へ

このような海外体験を経て、いよいよ人生2度目の就職活動を迎えました。私が通った看護大学は、当院と同じ東京都新宿区にありますが、それは決して偶然ではありません。大学での実習などを通じて、私は多様性あふれる新宿区で仕事をしたいと思い、この病院に入ったのです。その根本には、インタビューの初めの方で申し上げた、世界各地で私が触れた人の温かさや優しさを、今度は私が、世界中から日本に来た人たちに届けたいという思いがありました。

新宿区は、外国人が占める人口の割合が極めて高い地域で、 様々な国から来た人たちのコミュニティーが点在しています。例えば新大久保は韓国・朝鮮系が多いことで有名ですが、最近ではネパール系住民も増えています。そのエリアにある保育園は、預けられているお子さんの半分くらいが外国ルーツで、園の会報も5ヶ国語で書かれているほど。また高田馬場はミャンマー系住民が多く、別名“リトル・ヤンゴン”と呼ばれています。私は国際診療部の発足をきっかけに、そのような人たちへの医療の現場に携わることになりました。

もともと新宿区の多様さに惹かれて今の職場を志望した私。だから毎日が本当に楽しいですが、中でも一番嬉しかったことがあります。

台湾から出張でいらしていた音楽の先生が、来日中に体調不良で入院した時のこと。その後無事に退院し帰国されましたが、その半年後、学生さんたちを連れて再来日し、当院でコンサートをしてくださったのです。地下のアトリウムでの演奏でしたが、吹き抜けになっているため、3階まで人でいっぱいになりました。日本の歌と台湾の歌を交互に演奏してくださり、学生さんたちが一生懸命歌ったり、演奏したりする姿を見て、私も嬉しくて涙が出ました。


病院コンサートを開催した台湾の人たちと(2016年10月)

 

世界の食文化を学び 医療に活かす

昨年4月に現場を離れ、研究員に。しかし変わらず国際医療機関で働く者として、実際に海外の食文化に関する研修会を医療従事者向けに行っています。


*集合写真:入江麻里子さん撮影
外国人診療に関心のある友人たちと企画・開催する「ごはんを食べながら学ぶ外国人診療」(通称:多文化ごはんプロジェクト)。これまでケニアやネパール、ベトナムの医療や文化について講義を開催。ベトナム編(上の写真2枚 2017年11月開催)では、医療通訳として活躍するベトナム人看護師さんを講師に迎え、ベトナム料理を食べながらベトナムの医療・文化について学んだ。2018年3月はモンゴルをテーマに開催予定。

 

さらに職場以外でも、世界各地のお料理の作り方を学べる“Tadaku”という料理教室に行ったり、海外旅行の際に現地の料理教室でお料理を学んだりしています。またTadakuさんでは、学ぶだけでなく、訪日観光客向けに日本食クラスを開講させていただきました。昨年8月から、不定期ですが私の自宅で教えており、海外から日本にいらした人たちに、私の手料理でおもてなしをさせていただいています。


Tadakuでのレッスン。この日は3カ国からきた人たちにハラールたこ焼きの作り方を指導(2017年9月)
*写真提供:株式会社Tadaku

これまで海外で開かれた料理教室に多数参加。写真はパリで行われた料理教室(2015年12月)

 

お料理はその人たちの生活や文化を表すものだから興味は尽きませんし、医療通訳においても食文化に関する知識は必要です。例えば患者さんに普段の食生活について聞く場合でも、彼らの料理の名前が分からないと食生活の改善指導や栄養指導などできません。また病院食は基本的に日本食なので、もし外国人の患者さんの口に合わない場合に備え、世界各地にどのような料理があるのか学んだり、また食文化と密接に関係する宗教についても知っておく必要はあります。

ただし、患者さんの出身国や宗教で先入観を持たないよう気をつけなければなりません。例えば一口にムスリムと言っても世界中に16億人もおり、世俗的な人たちから、厳格に戒律を守る人まで様々。一番大事なのは、患者さんと対話し、彼らのニーズを把握することだと思います。


医療機関職員向けの外国人患者対応研修で講師を務める(2017年7月)

国際医療研究センターで経験したことや、私個人がいろいろな場所で学んできたこと、そして私自身の食を通した国際交流の経験を通して、外国人の方々が安心して、安全に治療を受けられるような環境を整えていきたいですね。

 

二見さん関連リンク

国立国際医療研究センター:www.ncgm.go.jp
日経メディカルオンライン「グローバル看護 七転び八起き」:medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/anursing/futami/

 

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