マライ・メントラインさん(ドイツ)

インタビュー&構成:徳橋功
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Marei Mentlein
ドイツ人

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自分の魅力をきちんと相手に伝えるには、自分のことを客観視することが大事です。

 

 

 

 

My Eyes Tokyoでは3人目、最近から熱い視線が注がれている国・ドイツから来た素敵な女性をご紹介します。

・翻訳・よろず物書業のマライ・メントラインさんです。東にドイツがあれば飛んでいき、西にドイツがあれば飛んでいく、まさに八面六臂の活躍ぶりを見せる才女。語についてはもはや言わずもがなのネイティブレベルです。

私たちはある日、以前My Eyes Tokyoでもインタビューさせていただいたクララ・クレフトさんより、マライさんをご紹介いただきました。お綺麗な出で立ちとは裏腹に、ジョークが冴える3枚目キャラを存分に見せつけてくださるマライさんに「インタビューせずにはいられない!」と私たちのテンションは急上昇しました。

マライさんと日本の“馴れ初め”については別媒体にすでに詳しく掲載されているので、私たちは主にマライさんが日頃のお仕事の中で感じられている“異文化の人たちに物事を伝えることの難しさ”について語っていただきました。

*インタビュー@東京ドイツ文化センター(港区)

 

職業は「ドイツ人」

私は毎日いろんなことをしています。東京・青山にある「東京ドイツ文化センター」でドイツのエンターテインメントに関するイベントを開催したり、文化センターのSNSに投稿したり、テレビ局の取材やニュース番組制作の現場で日本語からドイツ語への通訳や翻訳をしたり、ドイツのおを教えたり・・・しかも過去にはNHKのドイツ語講座にも出演していましたし、今でも時々バラエティー番組にも出演したりします。ひとつの肩書きでは、とても私が何をしているかをうまく言い表せません。だから自分では「職業:ドイツ人」と言っています(笑)

私は子どもの頃から日本に興味がありました。世界の子供たちの生活について描かれた絵本を読み、そこに“銭湯で石鹸の泡をぶくぶくさせながら体を洗ったり、大きな湯船でのんびりお湯に浸かっている人たち”のかわいらしいイラストがありました。それが日本人でした。

“寝る時に布団を敷く”という日本の習慣にも興味がありました。ドイツでは普段はベッドに寝るから、床にマットレスは敷きません。敷くとしたら、お友達が家に泊まりに来る時です。だからお布団を敷くのが“お泊まり会”みたいで楽しそう〜♪と思ったのも、日本に興味を持った理由のひとつです。あとは子供のころに遊んだスーパーファミコンですね。

日本が大好きになった私は、高校時代に県内の高校に10ヶ月間留学し、さらに大学3年時に早稲田大学に1年間留学しました。そしてドイツの大学を卒業した後、日本に来ました。

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日独両国のスポーツ少年団の交流事業「日独スポーツ少年団同時交流」にて。マライさんも忍者に扮して手裏剣の投げ方を通訳。
2014年夏 三重県伊賀市 *写真提供:マライ・メントラインさん

 

相手の“口”になる

私はドイツ人を“仕事として”やっているのですが(笑)中心になるのはやはり翻訳や通訳です。分野は問いません。なぜなら日英翻訳や英日翻訳のように、たくさんの仕事があるわけではないからです。 日独の姉妹都市同士の会合での通訳や、同士の商談の通訳なども経験させていただきました。

翻訳や通訳で大変なのは、日本語では存在してもドイツ語にはない言葉や、ドイツ語にはあっても日本語にない言葉を訳すことですね。特に人の肩書きを瞬時に通訳しなくてはならない時に、そのようなことが起きます。そういう時は思いますよ。「訳しにくい肩書きの人が来ませんように」って(笑)あとは「難しい話しないで、楽しく会話しようよ!」とか(笑)

日本語にはあってもドイツ語には存在しない言葉は他にもあります。例えば「どうぞよろしくお願いします」のようなものですが、そのような言葉はドイツ語にはありませんから、誰かが日本語でたくさん話していても、訳せる言葉はほんの少し、ということもあります。そうなると、ドイツ側が怪訝な顔をするんです。「本当にそれしか言っていないのか」って(笑)

そういうことがしばしば起きる通訳の現場ですが、特に好きなのはエンターテインメントの分野です。来日したドイツの作家や画家などの日本語通訳を担当させていただくことがありますが、その人が話すドイツ語の語感や雰囲気をそのまま日本語に訳せた時は、最高の気分になります。あたかもその人の“口”になれたように感じる瞬間です。

そのためには、単にその場で通訳するだけでなく、車などでの移動中に信頼関係を深め「マライなら私が言ったことをきちんと通訳してくれるだろう」と思っていただくくらいになる必要があります。

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ドイツ人児童文学作家クラウス・コルドン氏来日時の通訳の様子。ドイツ文学翻訳家の寄進一氏(上の写真左側)とコルドン氏の対談をマライさんが通訳し、その後のサイン会ではコルドン氏と日本人ファンとの会話を通訳。
2014年11月 府立中央図書館 *写真提供:マライ・メントラインさん

 

Lost in Translation

そんな楽しい瞬間もある通訳ですが、私が請け負う仕事の多くは、実は翻訳です。中でも映像翻訳が多く、日本のテレビクルーがドイツで撮影してきた映像の翻訳をしたりします。インタビューの音声を聞き取り、それを日本語に翻訳することがよくありますが、私はドイツ語圏(やオーストリア含む)の方言も分かるし、なぜか私は耳が良いので、風の音などの雑音で声が遮られていても、それを聞き取って翻訳できます(笑)だから結構重宝がられています。とてもありがたいことです。

私の翻訳活動の大半は、ドイツ語から日本語への翻訳です。なぜならクライアントの多くは日本のテレビ局や日本企業だからです。でも時々、日本語からドイツ語に翻訳する仕事も入ってきます。

そのような仕事の中で少し困ってしまうのが「この日本語の文章を“そのまま”ドイツ語に訳してください」というケース。日本語のニュアンスだけでなく、日本語独特の表現や言いまわしまでも、そっくりそのままドイツ語に訳してほしいとおっしゃるケースです。

もちろん、不可能なことではありません。意味は通りますが、かなり違和感のあるドイツ語になってしまいます。ある大きな組織からそのような依頼を受けて、私は不自然なドイツ語になることを我慢しながら必死に翻訳し、提出しました。すると彼らはGoogle Translateを使って、本当に私がきちんと、日本語の文章を一字一句漏らさずドイツ語に訳したかを調べ出したのです。そして1つだけ、私が我慢できずに自然なドイツ語に訳した箇所を見破られてしまいました(笑)

逆に私が自由に翻訳させていただける時は、文章の書き出しのニュアンスや語順を、日本語のそれとは変えることがあります。そうやって、初めてドイツ人の心に“刺さる”文章が書けたりするものなんです。

 

“喉ごし”も“ゆるキャラ”も理解されない

これは何も日本から海外に伝えることに限ったことではありません。海外のモノやサービスを日本に伝える場合でも同じことが言えます。

例えばビールの広告。日本では飲んだ時の爽快感や喉ごしを前面に押し出しますよね。でもドイツでは違います。そもそもドイツに“喉ごし”という概念はありません(笑)ドイツのビールの広告は、アルプスの山々を背景にビール瓶を並べてその美しさを伝えたり、ドレスデンのオペラ劇場の前に立ってビールを飲む人々を映してその優雅さを強調したりします。こういうものがドイツ人の心に刺さるのですが、日本人には全く響かないですよね(笑)

ドイツと日本ではユーモアセンスも違いますし、直感で「いいね!」と思うものも違います。ドイツには“カワイイ”文化もありませんし、まずドイツ人には“ゆるキャラ”は理解されないでしょうね。

このような違いが存在することや、その違いの存在を受け止めることを、日本人に限らず海外から日本に来る人や、海外から日本にモノを伝えたい人にも理解していただけたらと思います。

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マライさんがMCを務める「ドイツエンターテインメントの夕べ」
2015年9月17日@東京ドイツ文化センター

 

自分の魅力を最大限に伝えるために

私は日本が大好きです。来日したドイツ人に私が通訳として同行するとき、私はその人たちに、私自身を好きになっていただくだけでなく、私を通じて日本そのものも好きになっていただきたいと考えています。また、ドイツからの訪日客数は、せめてヨーロッパでは1位になってほしい。そう思っています。

そんな大好きな日本ですが、さらに良くなってほしいから、あえて私は言わせていただきます。「もっと客観性を身につけた方が良い」と。これは単に自分の短所を見つめよう、ということではありません。自分の長所に対しても、です。日本は世界から愛されていますが、それをも客観視する。そうでないと「いい大人が、自分のことを褒めるなんて・・・」と思われてしまいますから(笑)

私がドイツにいた頃は、ドイツについてあまりよく知りませんでした。でも日本に住むようになってから、日本人に何度もドイツについて聞かれました。だから自分でもドイツのことを調べるようになりました。それらが、私が“仕事として”ドイツ人をやるための研修のようなものでしたね(笑)

自分の国を客観的に見つめることは、物事を相手に伝える上ですごく大切だと私は思います。特に自分たちとはまったく異なる文化圏の人々に対して自国のことを伝える時に、そのスキルは必要になります。でも、なかなか簡単にできるものではありませんよね。

それならば、伝えたい対象の国から来た人に会ってみてはいかがでしょうか。そうすれば、相手に伝わるか伝わらないか、もし伝わらないなら、どうすれば伝わるようになるか、そのヒントを得ることができると思います。

自分が自分の国に対して「いいね!」と思うことが、相手にとっては全然「いいね!」ではなかったり、相手は自分とはまったく違うものに対して「いいね!」と思っていることがよくあります。それは、自分がまだ気づいていない自国の良さを発見することにもつながります。

さらに言えば、自国の魅力を伝える相手を見極めた方が良いと思います。私はよく日本人に言われるんです。「日本には、四季があるから良いでしょう!」って。でもドイツにも四季はあります(笑)しかも日本ほど温度差が無いから、夏や冬はそれほど辛くありません。もし四季の魅力を伝えたいなら、ヨーロッパ人よりもむしろ東南アジア人の方が適切だと思います。

先ほど私が申し上げた「日本語をそのままドイツ語に訳しても、ドイツ人には伝わらない」という例は、客観性にも通じます。 日本のモノやサービスの魅力を海外に伝え、さらに海外の人たちの心を“刺し”たいなら、日本語すらも客観的に見つめ、勇気を持って一旦日本語を脇に置き、相手の国の言葉を優先させる。そうすれば、きっと相手の心に届くコミュニケーションができると思います。

その客観性を育むのは、国際交流。様々なバックグラウンドを持つ人たちの考えに触れることが、自分自身を客観的に見つめることにつながるのだと、私は考えています。

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「ドイツエンターテインメントの夕べ」にて ドイツ文学翻訳家の酒寄進一氏と軽妙な掛け合い
2015年9月17日@東京ドイツ文化センター

 

マライさんにとって、日本って何ですか?

私を完成させているものです。

人生のちょうど半分、日本語を勉強し、そして人生の3分の1を日本で過ごしました。よく冗談で「もう、マライは半分日本人だね(笑)」と言われますが、「日本」は半分どころか、私の心の隅々まで染み込んでいます。私の人間との接し方も、話し方も、考え方も、語彙も、ユーモアも、生活も、すべてにおいて日本の影響を受けています。そして、良いことも悪いことも、結果的には日本から受けた影響の全てが、自分にとってプラスに働いています。

だから「日本」と関わらない人生は、もはや想像できません。日本なしじゃ無理です(笑)

 

関連リンク

マライさん on Twitter:https://twitter.com/marei_de_pon
東京ドイツ文化センター:http://www.goethe.de/ins/jp/ja/tok.html
マライさんブログ「マライ・de・ミステリ」:
http://young-germany.sakura.ne.jp/category/mareimystery/

 

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My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

マライ・メントラインさん(ドイツ)」への1件のフィードバック

  • 2018/07/08 @ 16:34
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    マライさん! 私は貴女のそりかぇった鼻の形が大好きです 勿論、お顔が綺麗なところが基本ですが・・・それに加えて教養と知識が豊富ですね
    日本には何時までおられるのですか・・・

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