紗幸さん(オーストラリア)

インタビュー&構成:徳橋功
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Sayuki
芸者

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撮影:Kerry Raftis

 

 

 

自分が持つ知識と経験が全て芸者の活動に生きています。

 

 

 

 

 

 

日本が経済発展を遂げる前、海外の人たちにとっての日本のイメージは“芸者”“富士山”でした。彼らにとって日本文化はミステリアスでエキゾチックな魅力に満ちており、中でも芸者の世界は一朝一夕では開かれることのない、非常に閉ざされた世界です。

そんな重い花柳界の扉をこじ開け、足を踏み入れた外国人が、今回のインタビューのお相手です。初の外国人芸者・紗幸さんです。国内外のメディアが熱い視線を送るこのオーストラリア人女性は、昨年(2007年)12月、白人初の芸者として花柳界に登場しました。 私たちMy Eyes Tokyoは、紗幸さんが芸者を目指した理由や、日本の伝統芸能の世界において実現させたいことなどを、 彼女が普段身を置く世界とは対極にある代官山でお聞きしてみました。

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芸者ドキュメンタリー

私が芸者を目指したのは、あるテレビ番組の企画がきっかけでした。私の本職は人類学者で、人類学をテーマにしたテレビ番組を作っています。

人類学の中でも、私の専門分野は日本関連です。私は企画をいくつか考えていて、芸者はその中の一つでした。でもその企画を考えたのは、映画「SAYURI」(2005年)封切りの前でした。もちろん私は、その映画は創作をベースにしたフィクションであることは知っていましたが、一方で芸者の本当の姿を写したドキュメンタリーを作る必要があると思いました。

そして結果的に、私自身を撮影することにしました。私が自ら取材対象となって花柳界に入り、芸者1年目の生活を少しずつ撮りました。そして下積みを終えて芸者としてデビューした瞬間もフィルムに収め、毎月のように私が参加する催しの様子を撮影しました。今はドキュメンタリーのイントロ部分を作っています。完成した暁には、日本でも披露したいと考えています。

 

私が芸者になるまで

私が正式に芸者になったのは、昨年(2007年)12月19日でした。私が現在活動する浅草に通い始めたのは、1年前です。最初は半玉として修業をし、同時にお着物も修行期間中に手に入れます。私はお披露目までの約1年間で、芸者が知っておくべきことを習得しました。

それより前、私は花柳界のことをあまり知りませんでした。私に限らず多くの方々がご存知ないかと思いますが、それゆえに勉強しなければならないことはたくさんありました。もちろん今も勉強の毎日です。日本の研究や、日本の伝統的な環境に幾度となく身を置いてきた経験が、ここで生きています。私は日本的な大企業にも在籍していましたし、男女雇用機会均等法が初めて適用された世代です。またテレビ番組制作において、日本の伝統の祭りや神道の世界、相撲、さらには神風特攻隊についてリサーチした経験があります。

だからそれらと花柳界との共通点を感じていました。もちろん相撲や神風特攻隊と芸者は違います。でも確実に言えるのは、それらを知らず、または経験すること無しに花柳界に入るのと、知っている、または経験がある上で入るのとでは全然違うということです。もし何も知らずに入ったら、さぞ大変だっただろうと思います。

 

一生涯勉強 それが芸者

花柳界には独特の慣習がたくさんあります。完全に伝統や芸術に浸された世界です。日本の伝統音楽や伝統芸能もそこで初めて学びました。本当に学ぶことが多いです。

花柳界には明確な上下関係があります。それに振る舞いも厳しく躾けられます。一般的な日本での生活よりも厳しいです。だから微細に渡り注意を払わなくてはなりません。特に若い日本人にとっては、このような芸者の側面に慣れるのは大変だと思います。挨拶の仕方、お辞儀の仕方、座り方、立ち方は多岐に渡り、それらをきちんと、極めて正確に理解する必要があります。

そして、芸者の学びは一生涯続きます。お披露目まで勉強し、お披露目したら勉強終わり!というわけではありません。伝統的な徒弟制度のように、学びは終生続きます。お披露目は芸者としての第一歩であり「芸者になるために必要なことは学んだ」ということにしか過ぎません。90歳の芸者さんでさえ、今も修業を続けています。己の芸を磨き続けることが芸者の人生です。なぜなら芸者は直訳すれば“芸術家”という意味ですから、一生涯を芸事の鍛錬に捧げなければなりません。私はいつまで芸者でい続けるかは分かりません。終わりの時期はまだ決めていません。

私の研究分野は社会人類学。その研究手法は主にフィールドワークです。つまり研究者は、研究対象となる社会にどっぷりと身を置く必要があります。そして言語を学び、研究を終え論文を書き上げるまでに、ある意味“中の人”になるのです。だから花柳界は単なる研究対象ではありません。そして私は、研究のために芸者をやっているわけではありません。私はお披露目を済ませ、実際に芸者になったのです。

 

若い人で芸者志望はたくさんいる

世界中のどの国も、それぞれ今風の文化と伝統的な文化があります。でも日本人には、もっと芸者文化を大事にしてほしいな、と思います。芸者の文化は大変美しく、後世の人たちに受け継いでいく価値のあるものです。

芸者はエンターテイナーに留まらず、もはや“芸術家”です。それでいて私たちは少数のお客さんたちの前で芸を披露します。これが、他の日本の伝統芸能との違いです。かつての西洋のオペラやバレエがこれに近いかもしれません。これらは初期の頃、王様や王族、貴族のための芸術であり、宮廷のような私的な場所で披露されました。でも今は、オペラもバレエも大きな公共スペースで公演されるようになりました。一方で芸者は今もプライベート空間での披露のみです。私的で小さな空間というのが、芸者が提供するエンターテインメントの粋とも呼べると思います。

その意味では、日本人は長きにわたり伝統を守ってきたとも言えます。日本人は近代においても伝統を保持することに長けています。しかし一方で、日本の伝統文化は廃れ、社会の端の方に追いやられているようにも感じます。

それはとても残念なことですが、それでも若い人たちの中には芸者になりたいという人がいるのです。実際、芸者志望の人たちの方が、彼女たちを受け入れる人たちよりも多いくらいです。これを忘れないでください。花柳界に入りたいという若い人たちは、とても多いのです。

 

日本文化の最高峰を皆様に

私が花柳界の中で一番お伝えしたいのは“お座敷”の素晴らしさです。この素晴らしい宴をご存じない日本人は多いと思います。

お座敷は、料亭など日本建築の粋を集めた美しい空間で行われます。部屋には四季折々のお花が生けられ、しかも芸者が身につける着物はアンティークの大変美しいもの。それらは帯を含めて一着100万円の価値があります。究極の美を目で堪能しながら、さらに最高級の日本料理をお楽しみいただけるのです。目と口で日本文化を堪能しながら、耳でも日本の伝統音楽をお楽しみいただけますし、また普段は目にすることのない伝統楽器をご覧になれます。そしてもちろん美しい日本舞踊もお楽しみいただけます。

このような、日本の美の全てが凝縮された芸能は、他の場所ではまず体験できません。もちろん日本舞踊などの公演はありますが、様々な芸術を一つの場所でご堪能いただけるのは、このお座敷だけです。つまりは日本文化の最高峰を体験できる。それがお座敷です。私はこのお座敷の素晴らしさを、もっと多くの人たちにお伝えしたいと思います。

 

花柳界に これからも貢献したい

私はそれまでのキャリアを捨ててこの世界に飛び込んだわけではありません。むしろ、私のメディアでの経験を活用させていただいているくらいです。花柳界についての記事を書き、インタビューする。ドキュメンタリー番組を作り本を書く。そのようにして、私の経験を芸者活動に生かしています。とても楽しいです。白人で初の芸者になれたのはとても光栄なことですし、何よりもまず私は芸者として自信を持てるようになりたいです。そして私を受け入れてくださった花柳界に恩返ししたいと思っています。

 

紗幸さんにとって、芸者って何ですか?

芸者であることは芸術家であること。それはとても美しい生き方だと思います。そしていろいろな意味で私に合った生き方です。

私は昔、アマチュアのフルート奏者でした。学生時代は、アマチュアながらも音楽でお金を稼いでいました。ドレスアップして観客の前に立ってバロック音楽を演奏するのが、とても楽しかったのです。演奏だけでなく観客との交流も楽しかった。それが私にとって一番のアルバイトでしたね。

だから今は、ある意味その頃に戻っているような気持ちがします。

もちろん花柳界のことを書いたり撮影したりしたいですが、それ以上に、

芸者になるべく全力を尽くしたいと思います。

 

紗幸さん関連リンク

Sayuki of Asakusa: http://www.sayuki.net/  

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

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