「傷だらけの英語習得術」池永大輔さん

インタビュー&構成:徳橋功
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Daisuke Ikenaga
チーム監督兼選手

英語学習には「+α」が必要。私の場合はそれが「野球」でした。

 

今からちょうど1年前、私たちは一風変わったに出会いました。池永大輔さんという、フランスのチームで監督兼選手として活躍している方でした。池永さんの誠実さや清らかな雰囲気、そして彼の希有な野球人生を伝えたいと思い、My Eyes Tokyoでのインタビューに加え、千葉市内での講演や都内でのトークライブのプロデュースをMy Eyes Tokyoでさせていただきました。

そしてMy Eyes Tokyoが英語関連事業を自らの中核に据えると決め、英語にまつわる様々なイベントを矢継ぎ早に開催、また「英語人」へのインタビューも開始しました。今回の池永さんへのインタビューは、その一環です。

これまで海外では、オーストラリア、フランスでプレーをしてきた池永さんは「英語は学校ではなく、全てグラウンドで覚えた」と言います。日本人によくある(そして私たち自身も例外ではなかった)「英語学習=英会話スクール」とは正反対を行くユニークな学習法。以前お話を伺った”英語キュレーター”のセレンさんとはまたひと味違う「国際派野球人」の英語哲学を、じっくりとお聞きしました。「机の上での勉強が大の苦手!」という方にお届けいたします。

*インタビュー@千葉県野田市
*過去の池永さんインタビュー記事はこちら

写真提供:池永大輔さん

 

選手との英語バトル

フランスで選手兼監督を務めるようになってから、今年で3年目になります。私はフランス語が話せないので、選手とのコミュニケーションは全て英語ですが、彼らは日本人とは全然違います。日本では監督の言うことは絶対ですが、フランスでは選手が「今日は走りたくない」と平気で言ってきます。采配に対しても選手が批判して来ます。このようなことは、アメリカでもドイツでもありませんでした。でもフランスでは、監督と選手が共にチームを作っていく感じで、そのためにはお互いが言葉をぶつけ合わなくてはなりません。

しかしやはり監督として、彼らが言ってくることに屈するわけにはいかないから「今日はやりたくない」と選手が言ってきても「いやいや、この練習メニューはこういう目的があるから、やれ!」と言わなくてはいけない。そういう状況に立たされて初めて会話能力が磨かれるし、気の利いた表現が言えるようになるのだと思います。

 

話せなくてもビビる必要なし

こんなことを言うと反感を買うかもしれませんが「英語くらい話せて当たり前」という感覚を、私は持っています。というのは、私たちは中学や高校で英語を勉強をしていて、ある程度の基礎を持っているからです。一方で私は今フランスのチームで野球をしていますが、フランス語についての知識はほぼゼロです。フランス語で”水”のことを何と言うのかは、知っている人は少ないでしょうが、英語で「ウォーター」ということは多くの人が知っている。だから極端な話、単語を言えば通じます。でもフランス語やドイツ語は、単語すら出てきません。私の言う「英語が話せて当たり前」というのは、そういう意味です。でもそういう感覚を持ち始めたのは、私が日本を出てからでした。

私の海外野球の原点は、元巨人のウォーレン・クロマティー氏が監督を務めた「ジャパン・サムライ・ベアーズ」でした。でも私自身はクロマティさんと話した記憶はそれほど無いです。そのチームは全員が日本人でしたから、どうしても日本語をしゃべってしまうし、彼には流暢な弁を話すアメリカ人がいたので(笑)英語を話す必要がそれほどありませんでした。

その後ドイツのチームに行きましたが、そこでは日本人は私一人だったので、初めて英語でコミュニケーションを取らざるを得ない状況に直面しました。でもラッキーだったのは、ドイツ人の話す英語が私にとってとても分かりやすかったことです。私は英語をドイツで学びましたね。英語を話すことへの抵抗が薄れていったのが、ドイツでの1年でした。

使用言語が違うと言っても、同じ人間です。私がちょっと話したら、私の英語のレベルは分かるはず。そして、私のレベルに合わせて会話をしてくれるようになる。それは相手も、私のことを理解したいと思うからです。だから、外国人に対してビビる必要は一切無いんです。

 
(左)選手権試合前 フランス代表コーチ陣とミーティング
(右)同試合前 選手にノック練習の流れを説明(2枚とも2012年9月)

 

繰り返せ、そして経験せよ

私が野球を始めた子どもの頃は、まさか自分が海外でプレーをするなんて考えてもみませんでした。それでも中学生の頃から、バットやグローブはアメリカ製のものを使っていたし、元NBAのマイケル・ジョーダンに憧れていたので、野球にも彼のような動きを取り入れられないか研究していました。

その当時、学校にALT(Assistant Language Teacher 外国語指導助手)の先生が時々来ていました。でも私は彼らとは1回も話した記憶がないです(笑)そもそも外国人の先生と何を話せば良いか分からなかったですし、「何で日本に来たの?」「どこに住んでいるの?」「どれくらい日本にいるの?」などと聞きたくても、言葉が出て来ません。高校時代も同じようなものでしたね。

でも英語のテストの点数は、そこそこ良かったですよ。だから英語のセンスがあったのかどうか・・・少なくとも、英会話のセンスは無かったでしょうね。だって、会話って「考える」作業がまず必要じゃないですか。「こういうことを言いたいんだけど、どう言えばいいんだろう」って。それは今でも考えます。

話すセンスを元々持っている人もいるかもしれませんが、やはり大事なのは「経験」することだと思います。「こういうシチュエーションでは、こういう表現を使って通じたから、それを使えばいいんだ」みたいな。成功例を繰り返していかないと、失敗への恐れがどうしても出てくるから、英語で話すことを躊躇してしまう。それを克服するためには、結局同じことを何回も何回も繰り返して言うことが大事だと思います。そうするうちに、相手が言ってきたことに対する返答がポロッと出てくるようになるのだと思います。

 

沈黙は金じゃない

自分がネイティブスピーカーになれる可能性はほぼゼロです。だから、自分の持っている英語知識の範囲内で相手に伝えることこそが、相手への誠意だと思います。一言で言える適切な表現を知らなくて、多少回りくどい言い回しになったとしても全然良いと私は思います。

それよりも嫌なのは、分からないからと言って黙っていること。それは相手の立場に立てば分かりますよね。でも「分からない」という意思表示ができるまでも、結構時間がかかりました。

最初は聞くことで精一杯で、聞き取ったことに対して「YES」か「NO」しか言えない段階があって、やがてその答えに一言補足して言えるようになる。だから英語を「話せる」ようになるまですごく段階があるわけですが、私の場合は「YESやNOだけの返事だと面白くない」というところから、少しずつ発展していって「ジョークも入れた方が、自分のキャラクターも相手に伝わるだろう」と考えるようになった。つまり、私のキャラクターが伝わるような英語を話したいと思うようになったのです。

ジョークで選手を乗せることもありますし、作戦として試合中にジョークめいたことをして、相手チームを攪乱することもあります。フランス人たちに対してそういうことができるレベルに、ようやくなれたんだと思いますね。


フランス国内カップ戦「Challenge de France」にて
池永さんが監督を務めた「サヴィーニ・ライオンズ」が準優勝(2012年5月)

 

言葉は相互理解の鍵

一方で日本の球団に来る外国人選手は、私よりももっと大変だと思います。というのは、日本は他のあらゆる国と比べて非常に独特だからです。また、文字もABCのアルファベットとは全く違う。必然的に文化も異なってきます。それに加えて人の顔かたちも全く違う。そういう状況の中で良い成績を残すというのは、本当に大変なことだと思います。だからこそ好成績を残している外国人プロ野球選手は、日本文化を深く理解し、日本人とも溶け込んでいます。それが彼らの言葉にも表れていて、かなり日本語が話せたりします。

もちろん言葉が全てではありませんが、人を理解しようと思うと、コミュニケーションを取りたいと思う、つまり言葉がどうしても必要になってきます。その「言葉の壁」をクリアした選手だけが、良い成績を残すんです。そんな彼らに比べたら、私なんてすごく楽です。日本から外国に行く方が、私は全然簡単だと思っていますから。


群馬ダイヤモンドペガサス選手、フェリックス・ブラウンさん。
池永さんが彼とチームを結びつける「代理人」として奔走した(2011年7月)
 

 

一番大事なものは何?

ここまで話しておきながら矛盾しているかもしれませんが、一番大事なのは英語力ではありません。例えば私の日本人の友人で、現在ロサンゼルス・ドジャースのブルペンキャッチャー(球場の投球練習場でピッチャーの投球を受ける捕手)を務めている人がいます。その人は高校時代、英語はそれほど得意では無かったそうですが「アメリカで野球をやりたい」という一心で渡米し、カレッジ(短大)で勉強しました。今では日本人選手の通訳まで務めるまでになりましたが、その人は思っていたそうです。「英語なんて、向こうに行けば何とかなるさ」と。ひょっとしたら、彼は本能的に分かっていたのかもしれません。「人とのコミュニケーションは、言葉だけではない」と。最終的にはその人の持つ人格や性格なんですよね。

彼とは「ジャパン・サムライ・ベアーズ」時代に知り合いましたが、彼はそれからドジャースのマイナーリーグと契約し、やがてチームから見切りをつけられた。それでもドジャースは彼を切り捨てなかったんです。それはやはり、彼の性格的なものが大きかったと思います。彼は他の選手たちからすごく慕われていたし、ドジャースに入団した日本人選手や、オフシーズンにでトレーニングしたいプロ野球選手を、チームはまず彼に会わせるくらいでした。そして彼らは、私の友人に身の上話までする。そんな彼だからこそ、ドジャースで信頼されるんです。

さらに言えば、彼は確かに「言葉なんて、行けばどうにかなる」と言いましたが、本当に「どうにかなった」ので、決して彼の行動は無謀だったわけではありません。そしてそれを可能にしたのが「野球」だったのだと思います。

 

「英語+α」が必要

そして私も、大なり小なり似ている部分があります。私は英語を学ぶにしても外国の人と接するにしても、そして相手の文化を理解するにしても、やはり「野球」が大きな役割を果たしてくれました。そして野球を通じて相手を理解しようと努めて来たことで、私はフランスで3年目のシーズンを「シャトーレ・フレンチカブス」というチームから招聘される形で迎えるまでになったのだと思います。

だから私は考えます。外国人の野球選手とキャッチボールすることで、言葉も覚えられるかもしれないし、彼らとつながることができるのではないか、と。「英語を勉強しよう!」と言っても子どもは集まらないかもしれないけど「キャッチボールをしよう!」と言えば結構集まるかもしれません。

その良い例が、昨年に私がメリッサ・メイユーという13歳のフランス人野球選手を日本に招いて、千葉県野田市で地元の子どもたちと親善野球を行ったことです。あの時は寒い中にも関わらず、たくさんのお客さんが来てくれましたが、それは野球というお互いの共通項があったからだと思います。そしてメリッサに出会った地元の中学生たちが「いつか彼女とちゃんと話せるようになりたいな」と思えたら、それは英語学習の大きなきっかけになります。

また私で言えば、多人種の中で野球をしてきたから、日本にいる外国人のルーツとか日本に来たきっかけを知りたいと思うし、ひいては自分のルーツにも興味を持つようになったんです。


池永さんの左隣がメリッサ・メイユー。さらに左は兄のディラン・メイユー、
池永さんのマネージメントを担当する稲葉尊治さん(2012年11月)

 

だから「英語+α」という発想が必要だと思います。例えば英語に部活を絡めるとかですね。それによって外国の文化に興味を持ったり、言葉に興味を持つ子どもが増えるでしょう。現状ではまだまだハードルがありますが、やがてそうなっていけばいいですね。


五輪招致イベント”Cheer! Nippon”に参加、ついに「世界の王」とご対面!(2012年12月)

 

池永さん関連リンク

My Eyes Tokyo記事(2012年2月)Part1 Part2
Home Where the Ball Is(池永さんブログ):http://ameblo.jp/jumpman23/
シャトーレ・フレンチカブスHP(仏語): http://frenchcubs.free.fr/

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

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