大橋ローズさん(エチオピア)

インタビュー&構成:徳橋功
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Rose Ohashi
エチオピア料理@東武練馬
(1998年5月より日本在住)

 

母国のことを日本の人たちに伝える仕事をしているから毎日が楽しくてしょうがないんです。

外国人のご自宅で各国の家庭料理が学べる”Niki’s Kitchen“と、東京や日本で活躍する外国人とのインタビューを集めたサイト”My Eyes Tokyo”のコラボコーナー 「MET × Niki’s Kitchen」です。

記念すべき(?)10人目はエチオピアの巨匠、大橋ローズさん。今年で来日15年目のローズさんは、優し〜い笑顔で「誰かから”どこの出身なの?”って聞かれたら、東武練馬出身って答えるの」とジョークを言って生徒さんを笑わせる。そんな和やかキャラのニューフェースです。

クラスでは生徒さんたちとゆっくりおしゃべりをする時間が何よりも大切、という彼女。この日のメニューは「急な来客でもOKなくらい簡単でサッとできるエチオピア料理」がコンセプトだったので「今日は速く作って、ゆっくりいただきましょうね」というローズさんのねらい通り、お食事も、その後のコーヒータイムも、皆さんゆったりとおしゃべりしながら過ごしました。先生が醸し出す空気が教室を包むこれまでのクラスとは少し違い、気さくな和やかキャラのローズさんと生徒さんが一緒になって、クラスの雰囲気作りを楽しんでいるように感じました。

*インタビュー@東武練馬(東京都板橋区)
*こちらをクリック → Niki’s Kitchenの記事へ
*英語版はこちらから!

 

ご飯に合うエチオピア料理?

私のクラスにいらっしゃる生徒さんは、もともとエチオピア料理やアフリカ料理全般に興味がある人もいれば、スパイスに興味があって受講する人もいます。コーヒーが好きで来てくれる人もいますね。ありがたいことに、リピーターも結構多いです。日常生活ではほとんど触れることの無いエチオピア料理のこと、そして一人のエチオピア人から見た日本のことを、私とお話をしながら学ぶのが楽しいって言ってくれています。「ローズさんが日本に来てくれたことに感謝!」とまで言われます(笑)それが本当に嬉しいですね。

でも一方で、アフリカ料理に偏ったイメージを持たれている方も多いような気がします。それはメディアの伝え方もあるかもしれません。アフリカのある部族の、かなりクセのある料理を見て、それをアフリカ料理だと思われているかもしれない。

でも今日作ったお料理などは、ある生徒さんは「ご飯に乗せてもおいしいかも!」と言っていたくらいです(笑)しかも、ほぼ日本で手に入る材料で作りました。皆さんの口に合うような、おいしいものはエチオピアにもたくさんあるんです。

 

「生きてて良かった!」

Niki’s Kitchenで教え始めたのは、近所に住んでいる友人のラトーニャ(Niki’sで教えるアメリカ・ミシシッピー州出身の先生)がきっかけです。彼女との出会いは6年前。駅のホームで私の娘が彼女に話しかけたことで、私たちは仲良くなりました。

以前ラトーニャが我が家に遊びに来た時、私の作ったエチオピア料理を食べて言いました。「あなたには料理の才能があるから、Niki’s Kitchenで料理を教えてみない?」と。聞くと、自宅を教室にしてお料理を教える料理学校とのこと。「家で仕事ができたらいいな」と思っていた私は、俄然興味を持ちました。

元々料理には自信がありました。私の国エチオピアでは、子供の時に親から料理を教わるのが普通です。私は兄妹の中で一番末っ子で、エチオピアでは一番下の子に何でもやらせる習慣がありますから、私も7〜8歳の頃からお母さんにお料理を習っていました。10歳くらいになったら家族全員の分のお料理を任されるようになりました。

また外食したときは、そのレストランで食べた味を家で再現することにチャレンジします。それくらい料理が好きなんです。

とはいえ、Niki’sで教えることに不安が無かったと言ったら嘘になります。ひとつは、私が英語のネイティブスピーカーではないこと。英語で教えなくちゃいけないと思い込んでいたんです(笑)

そして、最大の不安 – エチオピア料理は日本人の口に合うのだろうか?

生徒さんはわざわざ時間をかけて、お金をかけてエチオピアの料理を楽しみに来ています。どうすれば喜んでもらえるか、楽しんでもらえるか、メニューはどうすればいいのか・・・たくさんの事をラトーニャに聞きました。

ラトーニャがやっているのを見て、本当に自分に出来るかどうか、心配でした。でも彼女は私に「あなたなら絶対にできる!」と断言しました。だから私は「それならその教室を紹介して」と彼女に頼みました。そうしてNikiさん(棚瀬尚子さん *Niki’s Kitchen代表)と出会いました。昨年11月頃のことです。

私の作ったエチオピア料理の試食のために自宅まで来てくれたNikiさん。一口召し上がって、すごく感動してくれました。「こんな料理を食べられるなんて、生きていて良かった」って!私のエチオピア料理を食べた瞬間、Nikiさんの顔がとってもハッピーになったのを覚えています。それを見て私の不安は少し和らぎました。料理は人を幸せにするんだと、改めて思いましたね。

こうして2011年12月、私はついにNiki’s Kitchenで自分のクラスをスタートしました。

 
 
少女のような笑顔で気さくに話すローズさん。生徒さんとの距離も自然と縮まります。

 

じっとしていられない

母国エチオピアでも、日本についてはテレビなどで見聞きしていました。でも来日の直接のきっかけは姉です。姉が日本人の男性と結婚していて、その方がとても素晴らしかった。「こういう人がいたから日本はここまで発展したんだ!」とまで思わせるような方だったんです。 私が日本に来てから最初の半年間は、姉が住んでいたエリアで過ごしました。その後東京にいる同郷の友人を訪ねて、彼女の家で一緒に生活させてもらうことになりました。

でも友人の家でじっとしていたのはわずか3日。早々とメキシコ料理レストランで働き始めました。そこで働いていた外国人が、同居させてくれている友人と知り合いで、その伝手でそこの社長と知り合いました。

「100種類のカクテルを、1週間で覚えられますか?」と言われました。それが採用試験だったのですが、私は覚えました。それで、そのお店で働かせてもらうことになりました。 私は勤務に入ると、店中をキレイに掃除しました。社長は、そんな私のことを気に入って下さり、かわいがってくれました。日本語も、日本の歴史も、その社長がたくさん教えてくれました。きちんとした日本語を使わなかった時や、あいさつに元気がなかったりした時は、すごく怒られました。ちょっとしたミスにも厳しくて、私はよく泣いていました。

でも一方で、ちょっと疲れた顔をしていると「ちゃんとご飯食べているのか?」と声をかけてくれる。まるで古き良き、日本のお父さんみたいな人でした。その厳しさが私をどんどん良い方向へと変えてくれたし、何より優しさを感じました。「ローズが店に入っているかいないかは、店に来た瞬間に分かるよ」と言ってくれた。そんな社長が私は大好きでした。

 

「ズルズルティブス」という料理を作っているところ。”ティブス”とは焼き肉のことで、お祝い事や特別な人への敬意を払う時に出される特別な料理・・・なんだけど、ローズさんはサッと作っていました。ちょっぴりスパイシー、だけど赤ワインで煮込んだ柔らかなビーフの食感はクセになりますよ!
 

 

メキシコ料理のお店で働いていた頃に結婚しましたが、仕事は夕方から夜中にかけてでしたから、夫と一緒にいる時間が必然的に短くなってしまった。「これじゃいけない」と思ってお店を離れたのですが、やはりじっとしていられなくて、渋谷のマンションの一室で、小さなヘアアレンジのお店をオープンしました。ドレッドなどブラックスタイルに髪をアレンジするお店です。 毎日朝10時から夜中まで、しかも7年間働き続けました。渋谷のお店でしたから、家賃を払うためにはお客さんにどんどん来ていただかなくてはいけない。そういうプレッシャーもあり、精神的にも大変でした。

疲れ果てた私に、夫は「もっとゆっくりしていいよ」と言ってくれました。でも・・・ラトーニャからNiki’s Kitchenに誘われた時は「家で仕事ができるって素敵!」と、じっとしていられなくなりました(笑)とにかくボーッとしている時間がもったいなかった。それくらい、私はいつも何かをしていたいタイプなんです。

 
「うわ、大きい・・・」と誰もが声を漏らした”ダボ”と呼ばれるエチオピアのパン。これだけはサッとは作れないので、
事前に仕込んでいただきました。

 

料理で広がる友達の輪

こうして参加したNiki’s Kitchenにはいろんな年齢層の人がいて、仕事を持っている方もいれば、主婦の方も人もいる。だから生徒さん一人一人を尊重したいと思っています。

最初の頃は、生徒さんたちにどう接していいか分からなかった時もありました。かつて私が営業していたヘアアレンジのお店に来るのは、だいたい10代の女の子たち。だからコミュニケーションは簡単でした。一方で先ほども言ったように、Niki’sにはいろいろな年齢層や職業の人たちが来ます。だからどうやって話題を振っていいのか、どこから話し始めればいいか、分からなくて困ったこともありました。普段なら話せるはずの日本語が出てこなかったり、緊張して料理をこぼしたりもしました。でも生徒さんがすごく優しくて「がんばって!大丈夫だよ、緊張しないで」なんて言って、私のことをなでてくれたりしました。

Niki’s Kitchenで料理を教えていると「エチオピア料理って、豆も食べるんだ」「チキンもこうやって食べるんだ」など、生徒さんが新しい発見をする瞬間によく出会います。そうすると今度は生徒さんが、他の友達にもエチオピアのことを伝えてくれるんです。

娘はスイミングスクールに行ってますが、そこで一緒になるお母さん方との話の中で、私の仕事のことを聞かれたので、Niki’s Kicthenのことを伝えました。そしたら彼女たちは興味を持ってくれたみたいで、実際にNiki’sのホームページを見てくれました。私のクラスのページもご覧になってくれたようで、その次に会ったときに私に「すごくおいしそう!」「食べてみたい!」と言ってくれたんです。それまではちょっと距離があった彼女たちと、料理がきっかけで少しずつ親しくなった。それが嬉しかったですね。

しかも生徒さんに「こういうふうにして食べているんですね」と言われて、これまで自分では当たり前だと思っていたことが、実はそうではないということに初めて気づかされたりする。Niki’s Kitchenのクラスを通して、私も自分の国にさらに興味を持つようになったんです。

 
  
完成!エチオピア山間部に住む”グラジェ族”のお料理です。*詳しい説明はこちらから。

 

人生のスパイス

日本での生活も15年目になりました。もうすっかり日本に溶け込んでいる感じです。時々「日本に来て楽しかったことは何ですか?」と聞かれますが、答えられないですよ。では聞きますが、徳橋さん(インタビュアー)はこの日本で生きてきて、楽しかったことは何ですか?きっと「これです!」とは答えられないんじゃないでしょうか。ツーリストとして日本に来ているなら「これが楽しかった」と答えられるでしょうが、私はもうここで14年も生活してきたわけですから、他の日本人と変わりありません。

辛いことも楽しいことも、すべてつながっている。どこかの瞬間だけを指して「これが楽しかった」「これが辛かった」とか、そんな次元ではもうないんです。

楽しいことばかりじゃなく、外国人特有の辛い出来事にも直面しました。学校で娘がいじめられたり・・・それでも、日本に来て主人に出会い、子どもを授かり、そして今こうして、エチオピアのことを日本の人たちに伝える仕事をしている。だから毎日が楽しくてしょうがなくて、もう神様に感謝しながら生きています。

 
食後のミニコーヒーセレモニー。ローズさんは小さい頃から家族全員の分のコーヒーを淹れていたそうです。
「3杯目を飲まないと帰れないよ」と言われましたが、あくまで冗談。でも3杯目が一番おいしいのは本当です!

 

心から大切に思える仕事

Niki’sなら、自宅で仕事ができる。しかも、私たちの国の食文化を人に伝えられる。こんな素敵な仕事は、心から大事にしたい。だから自然と教室の準備に気合が入るんです。

例えば土曜日に教室がある時は、木曜日から仕事モードに突入します。食材を揃えたり、掃除をしたり、当日ミスしないように万全の態勢を取るべく、欲しい時に欲しいものをさっと取り出せるように、整理整頓をします。だって、冷蔵庫がぐちゃぐちゃな状態のせいで、生徒さんを待たせたりなんてしたくないですから。だから冷蔵庫の中身も完全に定位置をキープです。夫にも「私が置いた場所から動かさないで」「冷蔵庫の中に余計なものを入れないで」と言っているくらいです。私の性格ですね。結構ガチガチなんです 。ここは家とはいえ、仕事場ですから。夫には「君はおかしいよ」と言われてしまうんですけどね(笑)

私は、たとえ数は少なくても、エチオピア料理に興味を持ってくれる人がいてくれたら、それだけで嬉しい。でもそういう人が増えてくれたら、もっと嬉しいです。 エチオピアのことは、一般にはまだまだ知られていません。「」という一つのイメージしか無いように感じます。私の国は、アフリカにある56もの国の中のただ一つにしか過ぎません。アフリカには様々な国があり、文化があり、民族があり、言葉があり、食べ物があるのです。

私はこのクラスで、生徒さんに「感動」と「驚き」を提供したい。だから、一般の人の口に合うようなメニューを紹介して、エチオピア料理への敷居を低くしていく一方で、「インジェラ」などのエチオピア特有のお料理も紹介したいです。エチオピアをよくご存知の方にもご存知でない方にも、私たちの料理を食べていただけたら嬉しいですね。


お料理から最近の社会情勢まで話題は尽きず、あっという間に時が過ぎてしまいました。

 

ローズさんにとって、Niki’s Kitchenって何ですか?

一言で表現するなんて、難しい。でも私の故郷エチオピアの料理を生徒さんに伝えることができることに、心から幸せに感じます。言葉にできないくらいです。

みんなエチオピア料理に感動してくれて「すごい!」と言って食べてくれる。しかもエチオピアのことを知ってくれる人が、クラスのたびに増えていくわけじゃないですか。「エチオピアってどんな国ですか?」って聞いてくれるのが嬉しくてしょうがないんです。このような機会を与えてくれたクラスの皆さんとNikiさんには、心からお礼を言いたいです。
今日は「グラジェ族」という民族のお料理を作りました。それ以外にもエチオピアには約100もの民族がいて、それぞれが固有の食文化を持っています。

私は、それらの食文化全てをご紹介したい。願わくばNiki’sでそれを実現してみたいと思っています。

 

ローズさん関連リンク

ローズさんのページ@Niki’s Kitchenウェブサイト (日本語):クリック!

 

3 thoughts on “大橋ローズさん(エチオピア)

  • 2012/09/12 at 17:47
    Permalink

    エチオピアに行ったことがあります
    サイトのレシピで、ドロワット作ったけど味薄く…
    是非ローズさんに習いたいです
    9月料理教室日にち決まってますか?

    Reply
  • 2012/06/23 at 12:36
    Permalink

    ローズ先生のクラス、とても楽しかったです。
    もう少し近くて平日クラスがあったらなあ…
    塩バター入りのコーヒー、初めての味わいでした!砂糖バターも美味しいですね。

    Reply
    • 2012/06/24 at 03:14
      Permalink

      ご感想ありがとうございます!私は以前参加させていただいた時に、塩バターコーヒーをいただきました。砂糖バターは未経験です。ぜひ試してみたいですね!

      Reply

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