加藤史子さん

インタビュー&構成:徳橋功
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Fumiko Kato
起業家

 

 

海外の人たちに日本中を楽しみ尽くしてもらう – 何としても苦境を乗り越え、その思いを実現していきます。

 

 

 

 

2019年暮れに発生し、やがて世界中へと広がっていった新型コロナウイルス。肉眼では見えない、しかし確実に人々の命や日常生活を脅かすこの物体は、東京オリンピックを延期に追い込み、様々な産業に大きな打撃を与えました。中でも観光業の落ち込みはすさまじく、2020年4月の訪日客数は前年同月比で99.9%減という未曾有の事態に。訪日観光客へのインタビューや、訪日観光客向けツアー取材などを行ってきた私たちMETは、観光業に対してできることは無いか考えてきました。

私たちができるのは、インタビューを通じて“逆境に立ち向かい走り続ける人たち”の姿を世に伝えること – そう気づいた矢先に、経済ニュースアプリ『NewsPicks』で自らが置かれた現状を赤裸々に語る一人の起業家に目が留まりました。それが今回ご紹介する加藤史子さんです。

加藤さんが代表を務めるWAmazing株式会社は、主に中国本土や台湾、香港から日本を訪れる観光客に向けて、アプリを通じ様々なサービスを提供しています。アプリをスマートホンにダウンロードすると、WAmazingが日本全国の空港に設置している専用の機械で無料SIMカードを受け取ることができ、しかもアプリ1つで宿泊施設や交通切符、体験アクティビティなどの予約や手配までできるのです。

“手の中の旅行エージェント”を目指して生み出されたそのアプリは、コロナ禍以前には累計33万を超えるダウンロードを達成しました。

現在はウィズコロナやアフターコロナに向け体制や戦略を立て直している加藤さん。厳しい現状への打開策や、起業に至るまでのライフヒストリー、アフターコロナ時代に向けた展望などについてお聞きしました。

*インタビュー@オンライン
*英語版はもう少しお待ちください。

 

できることは全部やる

弊社の主な事業は、訪日観光客向け観光プラットフォームの提供です。観光には主に宿泊・交通・飲食・ショッピング・アクティビティの5領域が含まれますが、そのうち弊社は飲食を除く4つの領域でサービスを提供しています。昨年(2019年)12月、宿泊・交通・免税ショッピング・アクティビティの予約や手配をWAmazingアプリ1つで行えるようになりました。

しかしオリンピックイヤーへの準備が整ったその矢先、新型コロナウイルスが発生。弊社は観光関連業務の縮小を余儀なくされました。2020年10月時点で、日本政府は徐々に国際交流の正常化を開始しましたが、訪日観光客が再び戻ってくるのは2021年以降。そのため弊社の従業員の約4割を占める外国籍社員の仕事を確保するべく、今年5月に英語・中国語などの翻訳事業を開始。一方でオフィスの閉鎖も決めました。それは私たちのサービスを再び訪日観光客の皆さんに提供できる日が来るまで、歯を食いしばってこの苦境を乗り越えていくのだという決意に他なりません。

 

「何がやりたいのか分からない!」

事業も人生も、先のことなど全く分からないもの。私が起業家になって、比較的大きな事業を立ち上げるようになることなど、かつては想像もできないことでした。

私は18年に及ぶリクルートでの勤務を経て起業しました。しかし昔から起業に関心があったわけではなく、学生時代もこれといった夢や目標はありませんでした。進学先を決める時でも文学部や法学部といった従来の学部に関心が持てずにいた、そんな私が唯一興味を持ったのが、当時開学間もなかった慶応大学藤沢キャンパス(SFC)。“大学は狭く深く物事を追求する場”だと思っていましたが、SFCが学際的・横断的に、いわば“広く浅く”いろいろなことを学べる場所であることを知り、入学しました。

私がリクルートを就職先として選んだのも、SFC入学と似たような理由です。当時のリクルートの事業の中心は情報誌の発行でしたが、当時の業界研究本には、リクルートは情報・通信業界や出版業界、広告業界に含まれていました。どの業界でもトップ企業ではないけど、複数の業界で一定の存在感を発揮している – そんな“何をやっているのか分からない”部分に惹かれました。大学も就職先も、結局は私が“何をやりたいのか分からなかった”ゆえの選択だったわけですが(笑)リクルートで私は、今につながる仕事に出会うことになったのです。

 

“貢献できる場所”を求めて

入社2年目の頃、リクルートが『じゃらんnet』を立ち上げることになりました。リクルートは結婚や車、住宅、就職・転職など多岐にわたる領域で事業を展開していましたが、当時20代前半だった私が最も興味を持ったのは旅行分野。成人式の着物を買うためのお金を旅行に充てたこともあるくらい、好きだったんです(笑)また母校SFCはインターネット環境に恵まれ、女子高生がPHSやポケベルを愛用していた90年代半ばごろ、同級生たちは既に学内で培ったスキルでホームページ制作のバイトをしていました。しかもSFCはまだ卒業生がほとんどいない新しい学校でした。

そのような環境に身を置いていたので、ベテランがたくさん活躍していた紙媒体よりも、自分たちの世代が中心となって事業を進められるインターネット事業に自身の活路を見出したのは自然な流れだったと思います。

折しもi-modeやYahoo BBがサービスを開始し、インターネットが一部の学術利用から広く一般に開放された時代。しかも旅行はもともと無形なものなのでインターネットと相性がよく、『じゃらん』というブランドで予約サイトを立ち上げる事業なら、私も貢献できるかもしれない – そう思い、自ら志願して『じゃらんnet』立ち上げに参加しました。

 

潜んでいたベンチャースピリット

それ以降、当時はフリーペーパーとして展開していた、飲食店クーポンを掲載した『ホットペッパー』のネット事業である『ホットペッパーグルメ』、スキー場や温泉、ゴルフ場などの需要を生み出した若者限定アプリ『マジ部』など、新規事業を立ち上げていきました。これらの中で時代とともに消えていったものは無く、今も続いている事業ばかりです。立ち上げてから3~4年経って事業が成長フェーズに入ると、他の人に任せ、私は次の事業を立ち上げる – それを繰り返すうちに気づきました。「私はゼロから何かを立ち上げる“黎明期”が一番好きなんだ」と。

私はリクルートが大好きでした。でもそこで定年まで働くことは想像できませんでした。リクルートは、20代~30代の人を輝かせるための会社だと思っていたから「リクルートを退社したら何をやろうか」ということは常に考えていました。自分なりに仕事をやり切った、経験も十分積ませてもらったと感じ、2016年6月にリクルートを退社。その翌月に元同僚たちとWAmazing株式会社を立ち上げました。

 

ターゲットは“アジアのデジタルネイティブ”

リクルートでの18年を通じ、旅行関係の情報収集や手配のツールが旅行代理店や紙媒体からインターネットへ、さらにはパソコンからスマートフォンにシフトしていることを肌で感じていました。また日本ではインバウンドが盛り上がり、中でもアジア諸国からの訪日観光客が大変多いことも知っていました。

ASEAN諸国の人口の平均年齢は20代、東アジア諸国のそれは30代 – 日本の平均年齢である40代後半よりずっと若いです。リクルート時代に『マジ部』を通じ、スマートフォン世代の若者たちの旅行欲を喚起してきた経験から、私は「今の日本のマジョリティを占めるシニア世代をメインターゲットにした日本の観光資源と、アジアのデジタルネイティブな若者をつなぐことで、地方を含めた日本全体を活性化できるのではないか」と考えました。

このインタビューの最初で申し上げた、宿泊・交通・免税ショッピング・アクティビティの4領域での事業展開は、創業当時からの目標でした。そのため最初から比較的多額の資金を投入して事業を開始しました。しかし初めから全てを網羅しようとしたのが仇となり、中途半端なサービスしか構築できず、しかもすぐに資金が枯渇。そこで“スノーアクティビティ”に絞ってサービスを構築し直すことにしました。

その戦略が功を奏して事業が軌道に乗り、目標だった4領域でのサービス展開へと再び走り始めました。しかし事業拡大は予想以上に時間がかかりました。たとえインターネットやアプリで展開するサービスとはいえ、観光業は実際のサービスを提供するサービス事業者が顧客であり、ビジネスパートナーだからです。諸外国から日本に移動する多くの人たち、そして彼らを受け入れる日本全国で観光業を営む人たち – 事業を大きくするためには、この人たちの心を動かさなくてはなりません。

結局、宿泊・交通・ショッピング・アクティビティを全てWAmazingアプリ1つでカバーできるようになったのは、創業から約3年後のこと。この間の事業拡大には、ある人たちが大きく貢献してくれたのです。

 

異文化マネジメントの極意

それが最初に申し上げた弊社の外国籍社員です。彼らは訪日観光客の求めるものを肌感覚で知っていますし、何よりも愛する母国があるにも関わらず日本に住んで日本で仕事をしている人たち。どの人たちも「母国と日本の架け橋になりたい」「自分たちの目から見た日本を発信したい」という思いを胸に、弊社に来てくれました。そのためか、彼らの会社への定着率は日本人社員よりも高いほど。母国の大学の日本語学科などで日本語を学んだ人たちが多く、総じて日本語は非常に堪能です。

弊社の外国籍社員の出身国・地域は多い順から中国と台湾、それに香港、イギリス、アメリカ、ベトナム、韓国と続きます。彼らの人間関係は、日本人同士のそれと全く同じです。同じ地域から来たから仲良しだというわけでは決してなく、結局は性格や相性でつながっているように感じます。それに弊社も彼らを採用する際、その人の国籍よりも能力ややる気、私たちのビジョンにどれだけ共感してくれているかを重視します。

ただしビザにまつわる問題は彼らの日本滞在資格に関わるので、注意しています。他にも彼らの母国での休日や、出身地の運命を左右する選挙などの際は、気持ちよく帰国してもらえるよう心がけています。


創業3周年記念パーティーにて
2019年7月

 

“知られざる日本”を世界へ

インバウンド事業は、疫病や為替、紛争など、人間の力だけではどうにもならない要因に影響されがちです。今回の新型コロナウイルスで、危機的状況への対応力を身につけましたが、この先どのようなリスクにさらされるか分かりません。

海外の人たちから「やむなく日本への旅行をキャンセルしたけど、新型コロナウイルスが終息したら日本に行きたい」という声を多く聞きます。彼らが戻ってくるのは、早くて年明けごろと言われていますが、弊社では来年(2021年)夏頃という厳しめの予想を立てています。だからこそインバウンドだけに頼らず、翻訳受託なども行うことで事業の安定化を図るつもりです。

それでも観光が弊社の事業の中心であり続けることに変わりありません。訪日観光客に人気がある観光スポットだけでなく、まだ彼らに知られていない場所の魅力を広く伝え“日本中を楽しみ尽くしてもらう”ことが弊社のミッションです。幸いにもLCC(格安航空会社)が海外から日本の地方空港に就航するようになり、訪日観光客にとって東京・京都・大阪以外の観光地へのアクセスが容易になったので、日本の隅々まで訪れていただくことも、決して非現実的な目標では無いと思います。

 

訪日観光客の間で“密”ではない、大都市以外の観光地への関心がさらに高まっていくことに貢献できればと思います。

 

加藤さん関連リンク

WAmazing会社サイト:corp.wamazing.com/
WAmazingサービスサイト(以下は台湾繁体字ページ)
・WAmazing Media:tw.wamazing.com/media/
・WAmazing Snow:tw.wamazing.com/snow/
・WAmazing Onsen:tw.wamazing.com/yado/onsen
・WAmazing Shopping:tw.wamazing.com/kaimono/
・WAmazing Ticket:tw.wamazing.com/ticket
・WAmazing Activity:tw.wamazing.com/activity

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー